32. バサルク王国編(12) 会議
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
昼過ぎ、使節団はミリスの部屋に集まっていた。
「見つかりませんねえ」
フェンネルが言った。
フェンネルは護衛だが、救荒種や会計記録を探すのを連日手伝っていた。
農務技官が顎に手を当てた。
「救荒種は、実は……種子庫で厳密に管理しなくても保存できると、旧アルマンディン王国では言われていたそうです」
ミリスが書類から顔を上げた。
「それは確かなのか?」
「はい。かなり丈夫な種です。普通の部屋の、衣装棚や戸棚の中でも保存できる可能性があります」
リナールが言った。
「じゃあ、カウプテ様に持たされた布団にも救荒種入りそうでしたね」
笑い声が起きた。
「確かに」
「ずいぶん大きな布団でしたからね」
ミリスは低い声で言った。
「笑ってる場合じゃないぞ」
部屋に沈黙が流れた。
王宮には、王族の私室だけではなく、客室、衣装部屋、応接室、使用人の部屋、物置など、数え切れないほどの部屋がある。
「え? まさか、全部の部屋を調べるんすか?」
リナールが言った。
「俺たちは、いつになったら帰れるんですか……!」
リナールは机に突っ伏した。
会計官がリナールの背中を優しく叩いた。
ミリスは言った。
「やはり救荒種はどこかにあると思う。貴重な物を捨てる理由がない」
救荒種は旧アルマンディン王国の失われた技術だ。
新しく作ることはできない。
農務技官もうなずいた。
「私もそう思います。これほど保存しやすい種なら、すべて失われたと考えるより、どこかに残っていると考える方が自然です」
ミリスは使節団の皆を見回した。
「では、王宮の普通の部屋に範囲を広げて探そう」
◇
その日の夕方。
ミリスはペルラと部屋でお茶を飲んでいた。
「長いお話し合いでしたね」
「うん。救荒種は丈夫で、普通の部屋の棚の中にあってもおかしくないって、農務技官が言うからね。王宮の部屋をかなり広く調べることになりそうだよ」
「まあ! 大変ですね。部屋は一体いくつあるんでしょう……」
「気が遠くなるよね」
ミリスは力なく笑った。
「そういえば、海の離宮は調べないんですか?」
ペルラが言った。
ミリスの手が止まった。
「……海の離宮?」
「はい。私が療養させてもらっていた、美しい離宮です。お部屋もたくさんありそうでしたよ。使っていないお部屋も多そうでしたが」
ミリスは少し考え込んだ。
ペルラの侍女がお茶を取り替えた。
「王宮の次は、海の離宮か」
ミリスは呟くと、新しいお茶を飲んだ。
◇
翌日。
王太子執務室に、ピレイが入ってきた。
「殿下。使節団から、調査範囲について申し入れがありました」
オーニチェが書類から顔を上げた。
「どこを調べたいと?」
「まずは、王宮内ですが、一般の部屋、それも衣装棚や戸棚、家具の中まで調査対象に含めたいとのことです」
「そうか。ずいぶん範囲が広がったな」
オーニチェは小さく笑った。
「はい。救荒種は、特別な設備がなくても保存できる可能性が高いと判断したようです」
ピレイは続けた。
「それと、王宮の調査で見つからなかった場合は、海の離宮も調べたいと」
オーニチェの動きが止まった。
「……海の離宮?」
「王家の建物なら、王宮以外も調べるつもりのようです」
使節団は、海の離宮に救荒種があると知っているわけではない。
王家の建物のひとつとして、調査対象に加えただけだ。
だが、そこに本当に救荒種がある。




