27. バサルク王国編⑦ 極秘任務
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
僕はフェンネル。
アルマンディン駐留軍総司令官護衛隊の精鋭だ。
今回は特別使節団の護衛に選抜された。
バサルクに渡航する直前に、ヴィレンス様の特別研修も受けた。
そんな僕には、誰にも見られてはいけない極秘のミッションがある――。
◇
僕は客室の扉をわずかに開け、廊下を確認した。
誰もいない。
――今だ。
音を立てないよう部屋を出て、廊下を進む。
角を曲がれば、この先は王宮の中心部へつながる。
だが、その角に近づいたところで、壁際に立つ男が見えた。
バサルク王宮の守備兵だった。
またいる。
僕は足を止めた。
守備兵は僕を見ると、にこやかに頭を下げた。
「お疲れ様です」
「……お疲れ様です」
僕も頭を下げた。
仕方なく、そのまま通り過ぎる。
――まさか、僕の任務が知られている?
そう考えたが、それにしては様子がおかしい。
尋問されるわけでもない。
荷物を調べられたこともない。
僕が歩いていても誰も止めない。
ただ、ものすごくやりづらい。
そのうち、理由がわかった。
交代に来た守備兵が、廊下の角に立ちながら話していた。
「オーニチェ様から巡視を増やせって言われたんだろ?」
「そうそう。で、巡視するより、そもそも立っておくことにしたんだ。ペルラ様の部屋の前だけだと、特別扱いしているみたいに見えるけど、廊下に立っておけば、使節団全体の警備ってことになるだろ」
「班長、名案だな」
「ああ。ピレイ様も褒めてくださったぞ」
僕は客室の扉を静かに閉めた。
――ちっとも名案じゃない。
◇
数時間後。
今度こそ廊下に誰もいなかった。
――よし、今だ。
部屋を出たところで、背後から声がした。
「あ、フェンネル〜」
振り返る。
リナールだった。
「ちょうどよかった。下の階に、鼻をかんだハンカチを忘れたんです。取りに行くから付き合ってくれないっすか?」
「えっ? 一人で行けばいいだろう」
「王宮は広いっす。さっき一回迷子になりかけました」
「僕は大事な――」
廊下の向こうから足音が聞こえた。
さっきの守備兵が戻ってくる。
僕は黙った。
リナールが首を傾げた。
「大事な?」
「大事な……運動の時間だから、歩き回った方がいいな。行こうか」
「助かります〜」
リナールは軽く頭を下げた。
◇
翌朝。
今度は早朝を狙った。
巡視の交代時間もだいたい分かってきた。
人が途切れる時間は短い。
だが、ある。
僕は扉を開けた。
――よし、今だ。
「あ、フェンネル。ちょうどよかった」
近くの部屋からちょうどミリス様が出てきたところだった。
「あ、はい。何でしょう」
「バサルクに来てから、何か困っていることはないか? 少し僕の部屋で話そう」
「え?」
「今、忙しい?」
「いや、えっと……」
「護衛の配置でも、食事でも、部屋でもいい。僕にできることなら対応するよ。さあ、どうぞ。今、お茶を入れるね」
「えっと……」
僕は気づくとミリス様の部屋に吸い込まれていた。
◇
さらに翌日。
僕は頭の中で別の経路を組み立てていた。
正面の廊下が使えないなら、使用人用の通路を探した方がいいかもしれない。
部屋の扉を開ける。
守備兵はいない。
――よし、今だ。
「あ、フェンネル様!」
廊下の角からペルラ様が歩いてきた。
「このへんで、紐を落としませんでしたか? フェンネル様のですか?」
「ひ、紐?」
――確かに僕も紐は持って歩いているが。
一応服の中を探る。僕のはある。
ペルラ様が手を開いた。
鮮やかな色の組紐があった。
「僕のではありま――」
そのとき、守備兵が駆け寄ってきた。
「あっ! あった〜、よかった!」
ペルラ様が組紐を差し出す。
「あなたのですか?」
「はい。実は昨日、彼女にもらった組紐なんです」
守備兵は嬉しそうに受け取った。
「まあ。もう落としちゃダメですよ」
ペルラ様は笑った。
「はい!」
守備兵は照れながら組紐を握りしめた。
僕も服の内側に隠した細い紐を、わずかに震える手で握りしめた。
彼女はいないけど、出発前にヴィレンス様がくれた紐だ。
ミッションが全然うまくいかないけど。
――ヴィレンス様、僕が成功するように見守ってください……。
僕は目を閉じた。




