22. バサルク王国編② 使節団
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
アルマンディン第三港湾司令部の事務室に、カウプテがやってきた。
「特別使節団が編成されるらしいぞ」
そう言って、カウプテは持ってきた書類を机の上に置いた。
グレンとミリス、リナールがその周囲に集まった。
一枚目の書類は、こう始まっていた。
――アルマンディン駐留軍総司令官たる、ジュニパー・ムーンストーン殿下の名において。
ミリスはその先へ目を走らせた。
第三港湾副司令官ミリス・ヘーゼルを、バサルク王国へ派遣する特別使節団の団長に任ずる。
さらに、第三港湾所属のリナールを同使節団員として派遣する、とあった。
「僕が団長ですか?」
「そのようだな」
カウプテは書類にもう一度目を落とした。
「ミリスは駐留軍の期待の星だな」
グレンが笑った。
「いえ、そんな……」
ミリスは恐縮した。
駐留軍にいるムーンストーン中央貴族が少な過ぎて、自分に役が回ってきただけだろう。
外交では見栄えや格も重要だ。
「ほかにも何人か加わる」
カウプテが言った。
「軍政部から会計官と農務技官を一人ずつ出す。護衛も総司令官護衛隊から一人つくそうだ」
「分かりました」
ミリスは頷いた。
「それから、もう一枚ある」
カウプテが紙をずらすと、重なっていた別の書類が下から出てきた。
――ペルラ・ベトーラ嬢に、特別使節団への随行協力をお願いする。
そう記されていた。
「……ペルラも?」
ミリスは書類を見直した。
何度見てもペルラの名前が書いてあった。
――バサルク王太子の元婚約者だったペルラを、再びバサルクへ送り込むのか。
しかも、ペルラは以前バサルクで体調を崩している。それが婚約解消の理由だった。
そのうえ、使節団長はペルラの現在の婚約者である自分だ。
仕事と私事は分けたい。
分けたいが――どう考えても、行く前から心が重かった。
王都で正式に人選していれば、もう少し別の人間が選ばれたのではないだろうか。
ミリスは命令書の末尾を見た。
総司令官副官、アニス・アデュラリア。
その署名の横には、総司令官府の印がある。
――せめてジュニパー様がこの人選を見ていたら、自分はともかく、ペルラをバサルクに行かせるとは思えない。
おそらく、見ていないのだろう。
ムーンストーン王国では、ジュニパーのように、軍の最高職に王族が就くことがある。実務の細部まで、すべて本人が確認するわけではない。
黙り込むミリスに、カウプテが声をかけた。
「実はな。私も、ミリスとペルラ嬢をバサルクへ送るのはどうなのかと思って、上に確認したんだ」
ミリスが顔を上げた。
「そうなんですか?」
「ああ。だが、代わりになる人間がいないと言われてな」
カウプテはため息をついた。
「特に、ペルラ嬢は、バサルク王宮に長く滞在した経験がある。バサルクは外国人が入りづらい国だ。王宮の事情もある程度知っていて、向こうの王族とも面識がある人間は、アルマンディンに何人もいない」
「確かにそうですが……」
「代わってやりたいくらいだが……今回はムーンストーン本国の出身者だけで編成するようだ。力になれず、すまないな」
「いえ……聞いてくださって、ありがとうございます」
ミリスは小さく息を吐いた。
「オーニチェもペルラ嬢にまた会うのは微妙だろう」
カウプテは甥の心配をしていた。
――まあ、そうなるよな。
ミリスはペルラ宛の書類を畳むと懐に入れた。
非常に気が重いが、家でペルラに説明しなければならない。
「そうだ」
カウプテが顔を上げた。
「ミリス、頼みがある」
カウプテは嬉しそうにミリスを見た。
◇
翌日。
第三港湾司令部にカウプテが再び来た。
カウプテの家の使用人が二人がかりで、かなり大きな荷物を運んできた。
「これが昨日おっしゃってた……」
ミリスは荷物を見下ろした。
「布団だ」
カウプテは満足そうに頷いた。
「陛下は腰が痛いらしい。かわいそうに。この布団は腰にいいと、最近北部で評判なんだ」
バサルク国王用の高級布団。
当たり前だが、すごく嵩張っている。
「悪いけど、せっかくだから持っていってくれないか? 少し大きいけど、船だし大丈夫だよな?」
「あっ、はあ……そうですね」
ミリスは答えた。
――船までと、降りた後は、誰がどうやって運ぶんだろう……。
今回の使節団に、荷運び専門の人員はいない。
ミリスはとりあえず考えないことにした。
カウプテはミリスに手を差し出した。
「どうもありがとう。それから、オーニチェにもよろしく伝えてくれ」
「……はい、承知しました」
ミリスは曖昧な微笑を浮かべて、カウプテと握手した。




