18. 祝賀会編③ 大広間
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ミリスはそばに立ったまま、ペルラと楽しそうに話すジュニパーを見ていた。
やがて、ペルラが落ち着かない様子で辺りを見回した。
「どうしたの?」
ジュニパーが尋ねる。
「いえ……」
ペルラは小さな声で言った。
「なんだか見られている気がして……緊張します。気のせいでしょうか……?」
――気のせいなわけない。
ミリスも大広間を見回した。
本日の主役である王子兼総司令官が、一人の令嬢にさっきからずっと話しかけ、飲食を気にかけ、椅子まで用意させている。
見ない方が難しい。
ジュニパーはペルラの手を取ると、うつむいた。
「ペルラ……。嫌な思いをさせて、ごめんね」
「あの、でも、私の気のせいかもしれません……」
ペルラはジュニパーの顔を覗き込むように、体を傾けた。
ジュニパーは顔を上げると、ペルラを見た。
そして、よく通る声で言った。
「じろじろ見るなんて、そんな失礼な方がいるんですか?」
声の大きさに驚いて、ペルラはジュニパーを見たまま固まった。
ジュニパーは笑顔で広間をゆっくり見回した。
「そんな失礼な人間が、このアルマ宮にいるはずないよね?」
広間の空気が変わった。
さっきまでこちらへ向けられていた視線が、次々と消えていく。
「……あら?」
ペルラが辺りを見回した。
「なんだか見られていない気がしてきました」
「少し楽になった?」
ジュニパーが優しく訊いた。
「はい」
ペルラは笑った。
「よかった」
「そんな人、いるはずないですよね。私の勘違いだったのかもしれません。恥ずかしい……」
ペルラは頬を押さえた。
「大丈夫、恥ずかしくないよ。何でも言ってね」
ジュニパーは安心したように微笑んだ。
◇
「みんな、どこっすか?」
休憩から戻ってきたリナールは、大広間を見回した。
「あ、ミリス様、まだジュニパー様の横にいるじゃないですか」
「お前、下がれ下がれ。見るな見るな」
グレンが慌ててリナールを止めた。
「ちょ……なんで?」
「いいから今はあっちを見るな」
グレンはリナールを食事が置いてあるテーブルへ追いやった。
◇
ようやくジュニパーとの話が終わり、ペルラとミリスは第三港湾の一行のところへ戻ってきた。
「あ、ミリス様、ペルラ様、おかえりなさい」
リナールが二人を迎える。
「呼ばれてから長かったっすね。何話したんですか?」
「何も……」
ミリスは疲れた声で答えた。
「何も?! ずいぶん長かったですけど?!」
「僕はほとんど何も話してない」
リナールはペルラを見る。
「ペルラ様は何話したんですか?」
「えっと、色々……」
ペルラは考えた。
「朝ごはんの話とか……」
「朝ごはん?」
「部屋の窓の角度の話とか……」
「窓?」
「水の味とか……」
「水?」
リナールは首を傾げた。
ペルラはにっこり微笑んだ。
「ジュニパー様は、やはり目のつけどころが違いますね」
――違う。
ミリスは思った。
――ジュニパー様はただ、君と喋りたいだけだ。
ペルラは疲れたと言って、ローズと席を外した。
ミリスは飲み物に手を伸ばした。
リナールは横に来て、ジュニパーの方をちらりと見た。
「ペルラ様はミリス様の婚約者なんですよね?」
「そうだね」
「でもさっき、ペルラ様、すっごくジュニパー様に話しかけられてましたよね?」
「……そうだね……」
ミリスは、ぼんやりグラスに口をつけた。
ミリス自身、まだ混乱していた。
「ジュニパー様はどうしてあんなにペルラ様のことが好きなんですか?」
「おい、リナール、こんな所でやめろ」
グレンが慌てて止めた。
「僕もあれほどとは……」
ミリスが言った。
「え! 知らなかったんすか?」
「……いや、知ってたかも……」
ミリスは遠い目をした。
妹のルビーから、学校の寮でジュニパーがペルラに大量の贈り物をした話は聞いていた。
しかし、聞くのと、目の前で見るのは違った。
「ジュニパー様はペルラのことを好き、じゃないのかも……」
ミリスは宙を見ながら、呟いた。
シャンデリアが夢のように輝いていた。
「ん?」
「気に入ってるだけかも……」
「?」
「話しやすいだけかも……」
「全部同じ意味――むぐっ」
グレンがリナールの口に料理を突っ込んだ。
「さあ、ミリスも少し何か食べような。ちょっと疲れただろう」
グレンはミリスに料理の乗った皿を持たせた。




