16. 祝賀会編① アルマ宮
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
アルマへ近づくにつれて、街道の両側にはテントの数が増えていった。
地方から来た貴族の私兵たちが、城外に幕営しているらしい。
馬がつながれ、馬車や荷車が並び、あちこちで炊事の煙が上がっている。
その向こうに、灰褐色の大きな城壁が伸びていた。
最初の門を抜けると、石造りの街並みが広がった。
アルマはかつて、広大なアルマンディン大陸王国の王都だった。
広い街路の両側には、アルマンディン貴族の屋敷や役所が並んでいる。
さらに中心部へ進むと、もう一つの城壁が見えてきた。
外側のものより、はるかに高い。
灰褐色の壁の上には兵士の姿があり、一定の間隔で監視塔が立っていた。
ペルラは窓の外を見上げた。
高い壁の上から、兵士がこちらを見下ろしている。
空には厚い雲が垂れ込めていた。
大きな内門の前では、馬車が一台ずつ止められていた。
ペルラたちの馬車も列に並び、やがて兵士が乗員と招待状と星の蔦を確認した。
星の蔦がない者には銀線の指輪が配られた。
「アルマ宮で指輪をもらうのは初めてですわ。これが銀線ですのね」
ローズは指輪をしげしげと眺めた。
「きれいですわね」
ローズはペルラを見た。
「ええ、本当に」
ペルラは微笑んだ。
――これもイグニス様が設計したのかしら?
「この宝石、ペルラ様の瞳の色と同じじゃありませんこと?」
「あら、本当ですね」
細い銀線の指輪の中央には駐留軍の紋章があり、その両脇には濃い紫色の小さな宝石が埋め込まれていた。
ローズは指輪をつけた手でポーズを取ってみせた。
「銀に紫って映えますわね。
記念にこっそり持って帰っちゃおうかしら?」
指輪は退出時に回収すると説明を受けていた。
「やめとけ」
グレンが言った。
「きっとロクなもんじゃない」
「まあ! いやだ、本当に持って帰ったりしませんわ。アルマ宮の物ですもの」
ローズは笑った。
◇
馬車は内門を抜けた。
その先には、巨大な石畳の広場が広がっていた。
閲兵式を行う広場である。
その広場の中央に、円環状の火が赤く燃えていた。
『平和祈願の火』。
炎の周囲には、一定の間隔で兵士が立っている。
そして、その火のはるか後ろに、駐留軍本部がそびえていた。
左右の巨大な宮殿の奥に、さらに高層の宮殿があり、中央の尖塔が灰色の空に突き刺さっていた。
アルマ宮。
かつてのアルマンディン大陸王国の大宮殿である。
◇
アルマ宮の内部は、祝賀会へ向かう軍人や招待客が行き交っていた。
廊下を歩いていたペルラは、ふと壁際に目を留めた。
ムーンストーン王宮と同じくらいの量の細い銀線が、石壁の縁や柱に沿って伸びていた。
アルマ宮は、現在はムーンストーン王立軍アルマンディン駐留軍本部として、軍事・軍政の中枢となっている。
「あれがイグニス様の銀線……」
ペルラは壁から高い天井へ視線を動かした。
もっと見たかったが、今は祝賀会へ向かわなければならない。
一行は案内に従って、大広間へ入った。
◇
大広間には各地の貴族や駐留軍幹部が集まっていた。
やがて、新たに駐留軍総司令官となったジュニパー第二王子が姿を現した。
背後に控える護衛たちには大型の星の蔦が輝いていたが、王族であるジュニパーは星の蔦をつけていなかった。
それでも、広間で最も目を引くのはジュニパーだった。
ペルラは体が痛かったが背筋を伸ばし、ミリスとともに列に並んで、ジュニパーに就任祝いの挨拶をした。
◇
一通りの挨拶が終わり、広間の空気が少し緩んだころだった。
ペルラがさりげなく体を動かしながら、ミリスや第三港湾の知り合いとのんびり話していると、ひとりの係の者がやってきた。
「ペルラ・ベトーラ伯爵令嬢」
「はい?」
「総司令官がお呼びでございます」
ペルラは驚いて聞き返した。
「えっ、私ですか?」
「はい」
ペルラは困ったようにミリスを見た。
「私、どうして呼ばれたんでしょうか……?」
「うーん、何だろうね?」
ミリスも首を傾げた。
――こっちが知りたい。
「ミリス様と間違えたんでしょうか?」
「それはないんじゃないかな」
ミリスはにこやかに答えた。
「ミリス様も一緒に来てくれますか?」
「もちろん」
ミリスはすぐに頷いた。
するとペルラは、安心した表情を浮かべた。
「よかった。ディアバスに、ジュニパー殿下とは二人で会わないように言われたことがあるんです」
「ディアバス様に?」
ミリスは聞き返した。
ディアバスは、ペルラの兄同然の男である。
「はい」
「何かあったの……?」
周りに人がいることも忘れて、思わず訊いてしまった。
ペルラは不思議そうに首を傾げる。
「え? 何もありませんでしたよ」
ペルラは屈託なく笑った。
「……え?」
――そんなわけないだろう。
兄バカのディアバスが、ペルラに何かを禁止するところなんて見たことがない。
ペルラが気づかなかっただけで、絶対に何かあった。
――ディアバスを今すぐここに呼んで、何があったのか全部聞きたい……!
「あのー、ミリス様?」
ペルラの声で、ミリスは我に返った。
「あ、ごめん。行こう」
「はい」
二人は並んで、ジュニパーの方へ向かった。




