15. アルマンディン編⑦ 道中・後編
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
二日目の朝。
昨日と同じ大きな馬車の中で、ペルラは目を閉じてクッションに深くもたれていた。
ずっと強く揺られているため、背中も腰もお尻も痛いし、何だか頭も少し痛かった。
その横で、ローズも口数少なくクッションにもたれていた。
「ペルラ様とローズには、二日間での移動は厳しいな」
グレンが言った。
「そうですね」
ミリスも心配そうに頷いた。
「俺も尻が痛いっす」
リナールがお尻をさすった。
グレンは目を閉じて腕を組んだ。
「尻が痛い? 馬車を降りて歩いてもいいぞ、リナール」
「いえっ、全然痛くないっす。尻も元気100%であります!」
リナールは姿勢を正した。
◇
しばらくすると、別の一行が合流してきた。
何台もの馬車や荷車が、次々と列に加わっていく。
「また増えましたね」
ミリスが窓の外を見た。
「別の拠点から来た連中だろうな」
グレンが答えた。
ローズも外を眺める。
「新年の祝賀会でもたくさん集まりますけれど、今回はそれ以上ですわね」
「新年の祝賀会はアルマンディンの貴族が中心で、駐留軍から出るのは方面司令官や統監みたいな上の連中だけだ。
今回は総司令官の就任祝いだから、各地の軍幹部まで大勢呼ばれている」
リナールが伸びをした。
「俺は第三港湾でお留守番でもよかったっす」
「あきらめろ」
グレンが足を組み替えた。
◇
昼前、一行は街道沿いの広い場所で休憩を取った。
兵たちが隊列の旗を取り替え始めていた。
パセリ家の旗が、次々に下ろされていく。
代わりに掲げられたのは、アルマンディン駐留軍の旗だった。
「旗、変えるんですね」
ミリスは兵たちの様子を眺めた。
「パセリ家の私兵団も、駐留軍の旗を持つんですか?」
「ああ。もうアルマが近いからな」
グレンが答えた。
「地方ではパセリ家の旗、アルマでは駐留軍の旗っす」
リナールが頷いた。
「パセリ家の旗ばかり出していたら、パセリ家の私兵団が目立つ。
駐留軍総司令官の就任祝賀会に、各家の私兵団が集結しているように見えたら、絵面が悪い。
だから、駐留軍の一行っぽく見せているんだろう」
グレンはそう言って、お茶をすすった。
「でも、近くで見たら制服も装備も違うし、すぐ分かりますよね?」
「そこは気にするな」
グレンはミリスの肩をポンと叩いた。
「……どうなっているんだ、アルマンディン駐留軍は」
ミリスは呟いた。
それを聞いたリナールは、両手を広げて、満面の笑みで明るく答えた。
「こうなってま〜す!」
◇
馬車が再び走り出した。
ミリスは窓の外を進む私兵たちを眺めた。
「そういえば、グレン様はどうして駐留軍にいるんですか?」
「ん?」
「パセリ家の私兵団の方が強そうですが……」
「強そうって、お前なぁ。単純に比較できるものでもないだろう」
グレンは苦笑した。
「色々事情があるんだよ。ちなみに私の兄は、パセリ家の私兵団にいるけどな」
「やっぱりいるんだ〜」
リナールが楽しそうに言う。
「ご兄弟で別なんですね」
ミリスが言うと、グレンは頷いた。
「ああ。今時、どちらかだけじゃやっていけない」
兄は地元の有力家の私兵団に属し、弟はムーンストーンの駐留軍にいる。
グレンの家のように、両方とのつながりを保つアルマンディン貴族は珍しくなかった。
◇
夕方が近づくころには、隊列はさらに長くなっていた。
乾いた大地の向こうには、昨日より多くの緑が見える。
そして、そのさらに先。
地平線の上に、灰褐色の線が伸びていた。
ペルラは窓の外を見た。
「あれは?」
グレンもそちらを見る。
「あれがアルマだ」
遠くに、石造りの城壁が見えていた。




