14. アルマンディン編⑥ 道中・前編
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
第三港湾を出てしばらくすると、建物の姿はほとんど見えなくなった。
馬車の窓の外には、乾いた大地がどこまでも続いている。
道は舗装されていなかった。
固く乾いた地面の上を大きな馬車が進むたび、車輪が細かな土埃を巻き上げる。
ところどころに低い草木が生えていたが、背の高い木は少ない。
頭上には濃い青空が広がり、地平線へ近づくにつれて、淡く白んでいた。
「すごい……」
ペルラは窓の外を眺めた。
「ずっと先まで見えますね」
馬車は大きく、隣にミリス、その横にリナール、向かいにはグレンと、グレンの妹のローズが座っていた。
前後にも何台もの馬車が続いている。
その周囲を、北部統監カウプテのパセリ家の私兵たちが護衛していた。
カウプテ・パセリはアルマンディン貴族である。
パセリ家の私兵たちは馬車の周囲を歩き、馬に乗った兵も隊列の前後を行き来していた。
隊列には、見慣れない旗がいくつも掲げられていた。
駐留軍の紋章ではない。
風を受け、大きくはためいている。
「あの旗は?」
ミリスが訊いた。
「パセリ家の旗だな」
グレンは窓の外に目をやった。
「この辺りでは、あれを出しておく方が話が早い」
「話が早い?」
「パセリ家の旗を見て、わざわざ面倒を起こそうとする奴はいない」
「なるほど」
ミリスは頷いた。
リナールも窓の外を見る。
「グレン様の家の旗は出さないんですか?」
グレンもアルマンディン貴族である。
「ダメだ。そんなことをしたら、逆に雑魚が寄ってくるかもしれないだろう!」
グレンは渋い顔をした。
「オーラないっすね〜」
「黙れ」
パセリ家の旗の下を、私兵たちが進んでいる。
駐留軍と違い、弓を持つ兵士も多い。
「しかし、護衛をつける軍隊とは……」
ミリスは呟いた。
――軍隊とはむしろ護衛する側ではなかったか。
「あれはカウプテ様の護衛で、俺らの護衛じゃないっす」
リナールが言った。
「そうそう、私たちはたまたまくっついて移動しているだけだ」
グレンは腕を組んで頷いた。
「たまたま……」
ミリスは繰り返した。
「気にしたら負けっす!」
リナールがニヤリと笑った。
◇
しばらくして、ローズがペルラに尋ねた。
「ペルラ様は、アルマで何かご覧になりたいものはありますか?」
ペルラは笑顔で答えた。
「アルマ宮の銀線を見るのが楽しみです」
「銀線?」
ローズが聞き返した。
「アルマ宮の……銀線とは?」
「これだよ、これ」
グレンが自分の腕の星の蔦を示した。
「ああ、それが銀線……。アルマ宮にもそれがあるのですね。気づきませんでした」
それからペルラを見て微笑む。
「さすがムーンストーンのお嬢様は、よくご存じですわ」
「いえ、そんな……」
ペルラは少し照れた。
ミリスは黙って窓の外を見た。
――違う違う。銀線に興味のある中央貴族令嬢なんて、数えるほどしかいない。
ペルラが銀線に興味があるのは、イグニスがアルマ宮の改修工事の話をしたからだ。
イグニス本人はもうアルマンディンにいないのに、アルマ宮には彼が設計した銀線が張り巡らされている。
ミリスは小さくため息をついた。
ローズはペルラに訊いた。
「ペルラ様はミリス様のどんなところがお好きなんですか?」
「優しいところでしょうか」
ペルラは柔らかく笑った。
「あら、いいですわね。
ミリス様はペルラ様のどんなところがお好きですか?」
ローズはミリスを見た。
ミリスは微笑んだ。
――本当は、ペルラの顔も性格も、下手なダンスも、植物好きなくせによく水やりを忘れるところも好きだ。
だが、ここでそんなことを全部話したら、皆に引かれる気がする。
「……どんなことにも一生懸命なところです」
「あら、すてきですわ」
しばらくすると、ローズは今度はリナールへ顔を向けた。
「リナール様は、どんな方がお好きなんですか?」
リナールは少しも迷わなかった。
「セクシーな方です!」
「……そ、そうですの」
ローズの笑顔がわずかに固まった。
ローズは視線を泳がせると、隣の兄を見た。
「お兄様は?」
グレンはローズを見た。
「……ついでに聞くのやめて」
「ついでじゃありませんわ」
「絶対興味ないよね?」
ローズは一瞬黙ってから言った。
「興味……ありませんわ!」
グレンは額に手を当てると、ため息をついた。
ローズは少し考え、それから涼しい顔で言った。
「まあ、私みたいな女性ということにしておいて差し上げましょう」
「なんでだよ!」




