12. アルマンディン編④ 種
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
ムーンストーン王宮、御前会議。
出席者たちの前には、一通の報告書が置かれていた。
アルマンディン軍政長官から届いたものだった。
ムーンストーン王の隣には、シナモン王太子が座っている。
サイデライト宰相をはじめ、重臣たちが席を並べ、その中には、間もなくアルマンディン駐留軍総司令官の副官となるアニスの姿もあった。
ヴィレンスは少し離れた場所に控えている。
サイデライト宰相が報告書へ目を落とした。
「一昨年、アルマンディン中西部で大飢饉が発生した際、現地の住民や貴族から、旧王国には飢饉の際に用いる特別な種があったという話が出ていました」
救荒種。
旧アルマンディン大陸王国が、飢饉に備えて作った非常用の穀物だった。
旧王国時代にも頻繁に使われるものではなく、現地に残る記憶も曖昧だった。
「当時は、アルマ宮に保管されていたはずだという証言が多く、軍政側でも宮内を捜索しました。しかし、発見には至りませんでした」
ムーンストーン王は黙って続きを促した。
「以来そのままになっておりましたが、先日、アルマンディン貴族のネロリ・カダンから新たな情報がもたらされました。旧王国では、アルマ宮に最大の保管庫を置く一方、各地の有力家にも、非常時の備えとして一部の救荒種を少量ずつ分散していたとのことです」
シナモンが報告書へ目を向けた。
「各家が同じものを保管していたわけではないのか?」
「はい。アルマ宮には複数の種類がまとまって保管されていましたが、各地の有力家に預けられていたものは、量も種類も限定されていたようです」
サイデライト宰相が続ける。
「さらに軍政側で調査を進めた結果、アルマ宮に保管されていた救荒種の約半数は、王国崩壊時、王族の移動に伴ってバサルク王国へ搬出された可能性が高いとのことです」
室内がわずかにざわめいた。
「残りは?」
ムーンストーン王が尋ねる。
「すべてを運び出すことができず、当時アルマで焼却処分されたとみられています」
「では、アルマ宮にあった分については、かなり行方が絞れたわけだな」
「はい。ただし、各地の有力家に分散された分については、現在も残っている可能性があります」
王はしばらく黙っていた。
サイデライト宰相が、報告書の次の項目を読み上げる。
「救荒種は、通常の穀物よりはるかに速く成長し、収量も多い。悪条件でも育ち、飢饉時の食料確保には非常に有効だったとされています」
「すばらしいな」
シナモンが言った。
「問題は、その後です」
宰相は報告書に視線を戻した。
「救荒種は、土壌から水分や養分を猛烈に吸収します。さらに、周囲に生える植物の成長を強く妨げる性質がある。大規模に栽培すれば、周囲一帯の農地を損なう可能性があります」
宰相は報告書のページをめくった。
「加えて、この救荒種は一代限りです。収穫した穀物を、そのまま次の世代の種として安定して使い続けることはできません」
シナモンが言った。
「飢饉の年を乗り切るためには有効でも、平時に使えば、かえって農業を破壊しかねないということか」
誰かが低い声で呟いた。
「……それは、もはや生物兵器では?」
誰もすぐには答えなかった。
サイデライト宰相が口を開く。
「本来は人を救うために作られたものです。しかし、使い方によっては、そのように扱われてもおかしくはないでしょう」
ムーンストーン王が尋ねた。
「現在、新たに作ることはできるのか?」
「できません。旧アルマンディン大陸王国の崩壊とともに、製造法も失われています。現存しているものが、残されたすべてである可能性があります」
王は腕を組んだ。
「危険だが、失われた技術でもあるわけか」
「はい」
少しの沈黙のあと、王はシナモン王太子を見た。
シナモンは口を開いた。
「分類が何であれ、放置はできない」
出席者たちの視線が集まる。
「現存する救荒種は、全量回収し、管理下に置く」
「承知いたしました」
サイデライト宰相が静かに頭を下げた。
アニスら他の出席者も頭を下げた。




