103. 【閑話】報酬
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
翌日。
バサルク国王は、無事にアルマの整体師に診てもらうことができた。
オーニチェとバサルク国王は、もう数日アルマに滞在するという。
カウプテも初回の付き添いを終え、ミリスとペルラもようやく第三港湾へ出発することになった。
屋敷を使用人たちが行き交い、馬車に荷物を積んでいた。
出発を前に、ペルラはオーニチェに頭を下げた。
「昨日はオーニチェ様にも、ずいぶん助けていただいたと聞きました。どうもありがとうございました」
「ああ、大したことではないよ。ニアオーリが怪我もしていなくてよかった」
オーニチェは軽く笑った。
「ミリスが一番頑張ったよ。ペルラが昼寝している間にな?」
「……私が言い出したのに、本当にすみません」
ペルラがしゅんとうつむく。
「気にするな。冗談だ。休めたのなら、よかった」
オーニチェはそう言ってから、ミリスを見た。
「まあ、私も少しは働いたよな? ミリス」
「はい、もちろん。大変助かりました」
ミリスが答えると、オーニチェは満足そうに頷いた。
「では、報酬をもらおうかな?」
「報酬……ですか?」
ペルラの表情が少し不安そうになった。
「まさか一国の王太子をつかまえて、タダ働きはさせないよな?」
オーニチェはペルラの耳元を指さした。
「その青いオパールの耳飾りをもらおうか?」
「これですか?」
ペルラは意外そうに言うと、耳飾りを外した。
アルマ宮にいる間、来賓用の銀線の指輪の代わりにつけていたものだ。
「どうぞ。ジュニパー様からの頂き物ですが」
オーニチェの手のひらに載せた。
「そうそう、これ」
オーニチェは耳飾りを一度、軽く宙へ放り上げた。
青いオパールが日の光を受けて煌めく。
落ちてきたところを片手で受け止めた。
「バサルクの海の色のようできれいだ」
そう言って、しばらく眺めた。
「もらっていいか?」
「はい、どうぞ。もうアルマ宮は出たので」
オーニチェはその場で、自分の耳につけた。
それから顔を少し傾けて、ペルラを見る。
「どうだ? 似合うか?」
「ええ、とっても」
ペルラはにっこり笑った。
「そうか」
オーニチェは満足そうに笑うと、優しくペルラを見つめた。
「では、第三港湾まで気をつけて帰れ」
「はい、ありがとうございます。オーニチェ様、お元気で」
「ああ。ペルラも元気で」
◇
ペルラは先に馬車へ向かった。
ミリスもそろそろ外へ出ようとしたところで、後ろから声をかけられた。
「ミリス」
振り返ると、オーニチェが立っていた。
先ほどペルラからもらった青いオパールの耳飾りが、耳元で光っている。
オーニチェは周囲に人がいないのを確認すると、少し声を落とした。
「どうだ? お前は、どうせこれを見たくないだろう?」
オーニチェは耳飾りを指さして、ニヤリと笑った。
――見たくないと言えば見たくないが、ペルラの耳飾りがオーニチェの手に渡るのも複雑な気持ちだ。
「……銀線がついていますが、いいのですか?」
「まあ、それはどうとでもなるだろう」
オーニチェは涼しい顔で言った。
ミリスはふいにバサルク王国での出来事を思い出した。
――フェンネルの星の蔦を破壊したのは、やはりバサルク王宮の人間だったんだろうな……。
「そんなことより、言いたいことがある」
オーニチェの表情が変わった。
――出た! 王子の『言いたいこと』!
ミリスは嫌な予感がした。
「昨日話を聞いて思ったが、ペルラだけアルマ宮に一ヶ月足止めされたってことだよな?」
「はい」
「アルマンディンは滅茶苦茶だ」
オーニチェはじっとミリスを見た。
「お前、二年でアルマンディン駐留軍をやめて、ペルラを本国に連れて帰る約束、忘れてないだろうな?」
――鋭い。鋭過ぎる。
「……あの、もちろんです。努力しております」
「努力だか何だか知らんが、バサルクから見てるからな」
オーニチェは小さく息を吐くと、腕を組んだ。
その時、廊下の向こうから、大きな声が響いた。
「ミリス、どこだー? 出発するぞ!」
足音が近づいてきた。
「あ、ここにいたのか!」
カウプテが現れた。
「もうペルラ様は馬車に乗っているぞ」
「すみません。今行きます」
ミリスが答えた。
カウプテはオーニチェを見た。
「オーニチェ、どうした? 怖い顔をして」
「別れを惜しんでいたのです。カウプテ様ほど怖い顔ではありません」
「ははは! そうか」
カウプテは笑った。
「すっかり仲良くなったところ残念だが、そろそろ行かないとな」
オーニチェは穏やかな笑みを浮かべた。
「そうですね。カウプテ様もミリスも道中気をつけて」
三人は玄関へ向かった。




