100. アルマ宮編(45) 恩人
※主な登場人物は、作品あらすじ欄にまとめています。
カウプテ邸を出た馬車は、ソルト伯爵邸へ向かっていた。
向かい合った座席には、ミリス、オーニチェ、カウプテが座っている。
馬車がアルマ市内を進む間に、ミリスは昨日、アルマ宮で起きたことを一通り説明した。
話を聞き終えると、オーニチェは尋ねた。
「では、ペルラの望みというのは?」
「自分とジュニパー様が穴に落ちるのを止めてくれた恩人だから、今度はニアオーリ様を助けたいそうです」
「なるほどな」
オーニチェは頷いた。
「本当は、バサルク王家としてはもうアルマンディンの王族には関わりたくないのだが……ペルラの願いなら仕方ないか」
オーニチェは小さく笑った。
ミリスが頭を下げた。
「ありがとうございます」
「よい。ペルラだけではない。カウプテ様も父上も気にしているしな」
「悪いな、オーニチェ」
カウプテが言った。
「気にしないでください。これは私の判断です。
駐留軍はニアオーリの存在を公にはできない。私が関わっても、きっと見ないふりをするだろう。
……そう信じたい」
オーニチェはカウプテに微笑んだ。
「オーニチェ、恩に着る」
カウプテはミリスを見た。
「ミリスもだ。知らせてくれて、感謝する。
言われなければ知らないままだった」
「いえ……こちらこそ、カウプテ様にはいつもお世話になっていますので」
馬車が曲がり、車輪が石畳の継ぎ目を越えた。
少し揺れたあと、オーニチェが口を開いた。
「しかし、おかしいよな?」
ミリスとカウプテは、オーニチェを見た。
「ジュニパー様だ。なぜ落とし穴のことを知っていて、その上に立った?」
オーニチェは続けた。
「ペルラのすぐ後ろにいたんだろう? 自分とペルラを穴に落としたかったとしか思えない」
「自暴自棄になったとか? 次の日には、ペルラ様はアルマ宮を去ってしまうからな」
カウプテが言った。
オーニチェはミリスを見た。
「お前はどう思うんだ? 婚約者様は?」
そして、わずかに笑った。
ミリスは曖昧な微笑を浮かべた。
「僕は、それは考えにくいと思いますが……」
昨日、ジュニパー様に「早く結婚しろ」と言われた時のことが、脳裏をよぎった。
確かに焦りはあったかもしれないが、自暴自棄とは違う気がした。
「……でも、そこに立った理由は僕も見当がつきません」
ジュニパー様はどう見てもペルラを大切にしていた。
馬車が速度を落とした。
窓の外に、重厚なアルマンディン貴族の屋敷とは少し趣の違う、瀟洒な建物が見えてきた。
ソルト伯爵邸だった。
屋敷の向かいには、駐留軍の小さな詰め所が置かれており、兵士が周囲に目を配っていた。
馬車は門を入り、玄関前で止まった。




