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全5話) 4. ありがとう



あの頃の自分の心の状態を

思い出すことは辛かった。


できるだけ思い出さないように 

考えないようにしてきた。


完全に忘れてしまうことは出来ないけど 

前に進まなきゃいけないと思っていたから なるべく思い出さないようにしてきた。 

目をそらして見ないようにしてきた。


過去にさかのぼって 

本当に思い出してしまったら

向かい合うようなことになってしまったら また、あの時のように

惨めで悲しい自分に戻って

弱くなってしまうような気がして怖かった。


弱かった自分に負けたくなかったから

もうあまり振り返らずに 

前だけを見つめて進んできた。


辛かった記憶は消えないから 

あの頃の自分の心を

見つめすぎないように

目をそむけてきたけど 


今、遠くからだったら

眺められるようになった。




タキガワくんについても

いくつかの疑問を

もう考えないようにしてたから


大切なことまで忘れてしまっていた。




タキガワくん


あの頃、タキガワくんが

電車で話しかけてくれて

おしゃべりしながら帰った日は

元気がでたよ。


手を繋いでくれたとき

硬くなってしまっていた心が

やわらかくなったよ。


忘れてた素直な心を想い出せたんだと思う。


少しずつ強さも取り戻せた。

きっと、タキガワくんのことを

心強く感じていたんだと思う。


あの頃は気づいていなかったけど


今の自分から考えてみると

 

本当に大切な時間だったんだと思う。


気づけてよかった。


もう忘れないようにちゃんと書いておくね。


時々は、それを読んで、

毎日を頑張れるようにするね。


タキガワくんに

確かめたいことがひとつある。


初めて私がタキガワくんを見かけた

あの春に

もしかしたら


駅のホームで涙を隠してた私を見た?


だから、気になって、心配して

声をかけてくれたんじゃない?


そんな気がしてる。


でも、私がそれを隠してたから

なにも聞かなかったね。


そういう優しい人だった。


ありがとう  タキガワくんへ



あの春の日の夜に 

彼に手を引かれて歩いた時に感じた 

優しくて温かくて穏やかな何かに

包まれた感覚は 

いつもはっきりと思い出すことが出来る。


あれはいったい何だったんだろう・・・?


ずっと不思議に思ってた。


彼が

亡くなってしまったあとにも感じていた。 


何かに心が包み込まれているような

あの感覚と同じだと思う。


もしかしたら 

直接、今とつながっていたの?


すぐに、彼だとわかるように。


それが何かはわからないけど 

あの感覚に包まれると

優しい気持ちになれる。


悲しいときでも優しい気持ちになれたから 悲しみに負けないでいられた。


きっと、何かとても強いものなんだと思う。


強くて、優しくて、温かくて、 

穏やかな大きな何か。 


存在。力。光。のようなもの。



見ることも、聞くことも 

触れることも出来ない何か。


でも確かにそこに存在していて 

私の心を優しくそっと包んでくれていた。


(つづく)

【5話の完結まで、あと1話】

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