04 レオンと魔女のミーティング
レオンはもう、迷わなかった。
ルーナリアから逃れ、彼女──エルシアと結ばれるためならなんでもする。
そもそもルーナリアなど、最初から嫌いだったのだ。自分がいないと王子が生きていけないからって常に冷静で上から目線だし、そのくせ自分より成績も良くて運動もできるなんて気に入らない。
エルシアの方が可愛いし、自分に甘えてくれる。彼女は僕がいないと生きていけないのだ。
待ち合わせた山のふもとにたどり着くと、すでに魔女は景色と不釣り合いなきらきらした椅子に足を組んで座っていた。
「よく来たな」
「あぁ、なんでもさせてくれ」
レオンが決意を込めて深く頷くと、魔女はゆっくりと息を吸って両手を広げた。
「難しい話じゃないさ。週に一回ここに来て、わしの指示に従ってくれれば、其方の体質は治るであろう」
「わかった──でも、それで魔女さんにどんなメリットがあるんだ?」
魔女はうっすらと笑った。
「従ってからのお楽しみじゃ」
レオンは魔女の妖しい雰囲気にに圧倒され、言葉を詰まらせた。
「……っ、最初は何をすればいい?」
「邪気とは人間の心から漏れ出すものだ。嫌なこと、面倒だという気持ち、嫌いな人、何かを仕組んでいるとき──そういうときに、人は邪気を放つ。
反対に聖なる気は、慈悲の心、愛おしいという気持ち、美しい人間性──まぁ、要するにきれいな心の持ち主が放つものだ。婚約者さんもさぞかしいい人なのだろう」
「ルーナリアはきれいな心なんか持っていない……! いつだって心の中では僕のことを嘲笑っているんだ!」
レオンの悲痛な叫び声に、魔女はなんだか嬉しそうな顔をした。
「おお、おお、そうか。それなら、そのお嬢さんが聖なる気を放つ人間だというのも、嘘かもしれないな」
レオンはパッと顔を輝かせた。
「ルーナリアが聖なる気を放っていないだって? それなら、僕が生きられているのはエルシアのおかげに違いない! エルシアはどこまでも純粋で可愛いんだ!」
「おお、おお、そうかもしれないな。
なら、ルーナリアと其方が婚約しているのはなぜだ?」
魔女の質問にレオンは少し考え込んだのち、わかったというように目を輝かせた。
「母上だ、母上とルーナリアの母が仕組んだんだ!」
僕は気づいてしまった。すべては仕組まれていたのだと。
母上には僕の将来なんて、何の価値もなかったんだ。
レオンは叫ぶ。たった今、確信した真実を。
誰に伝えるでもなく、ただ、自分の底から込み上げてくる思いを。怒りを。悔しさを。
「仕組まれたのか、それは大変だなあ」
魔女はどこから取り出したのか、優雅に紅茶を飲みながら、それほど大変ではないような様子で言った。
「仕組んだのなら、其方の母からは邪気が溢れ出しているだろう。距離を取りなさい。それと、其方の婚約者とも。婚約は続けた方がよかろう。
聖なる気を取り入れるために、其方が一番美しいと思う人と一週間をともにしなさい」
「うん、わかった!」
魔女の忠告に、レオンは大きく頷いた。
「それから──来週ここに来る時には、その婚約者も連れてくるように」
「え……」
レオンは絶句した。なんでもする、とは言ったものの、想定外であった。
「何を驚いているんだ? 其方の婚約者が聖なる気を放っているなら、ともにわしが『視る』ことで体質を治せるんだぞ」
「そうか! エルシアを連れて来ればともに過ごせるようになるんだな! わかった、来週には連れてくる!」
魔女は終始、不気味な笑みを崩さなかったが、それさえもレオンには良い魔女として映った。
「……というわけなんだエルシア、すぐに二人で暮らせるようになるよ」
「まあうれしいレオン様。やっぱりわたくしにはレオン様しかいないのだわ」
エルシアとレオンは下町のホテルで秘密裏に会っていた。
エルシアはぱあっと明るい顔になったが、すぐに眉を寄せて顔を曇らせた。
「どうしたんだい、エルシア? 顔が暗いよ、お姫様」
「お姫様だなんて……。あのね、レオン。お家のお財布の具合が良くなくて、わたくしの欲しいアクセサリーが買えないの」
沈痛な表情で訴えるエルシア。レオンは思ってもみなかった言葉に、目を見開いた。
「そんな……。そんなことがあったなんて、知らなかったよ。
でも大丈夫さ、今度魔女の元に行けば、ずっと一緒に過ごせるからね」
そう言ってレオンは甘く笑いかけた。




