05 魔女への疑念
何度も魔女の元に通いつめるうち、エルシアには疑念が生じていた。
「ねぇ……レオン。わたくしたち、魔女に騙されているんじゃないかしら。だって、魔女の目的だってわからないのでしょう? それに、わたくし、聖なる気なんて放っていないわ」
「そんなわけないじゃないか。魔女は僕に体を治してくれるって言ったんだ。目的はわからなくたっていいだろう」
レオンは大きくかぶりを振りながら否定した。
「そんなこと言ったって……。なにか書面を交わしているわけでもないでしょう? 国のお医者さんが全員治せなかったのに、魔女だけが治せるなんて、そんなことあるのかしら」
「あるに決まっている。書面を交わしていないのは、僕があの魔女を信頼しているからだ。僕に手を差し伸べてくれたあの魔女が、悪いことを考えているわけがない。魔女でも良い魔女だっているはずだ」
「でも、いつまで経ってもあなたの体を治そうとしないじゃない。わたくしが治療に必要だから、と言って連れて行かれたのに、まだ一度も治療らしき治療をしていないわ」
エルシアの指摘に、レオンは押し黙った。その通りなのだ。連れてこい、と言われて連れて行ったのに、魔女は一度もエルシアに触れていない。
「魔女と人間の感覚は違うのよ。わたくしが考えもしないような理由でわたくしたちに会っている可能性もある。あまりにも危険だわ」
「それに……」
エルシアはそれだけ言って、沈黙した。次の言葉をレオンに言うべきか、数秒の逡巡ののち、エルシアは言い難そうに口を開いた。
「それにねレオン、貴方、自分に呪いをかけた魔女のことをどれくらい知っているの?」
レオンは口を閉ざしたままだ。
「レオン、わたくしはあの魔女が貴方に呪いをかけた魔女なのではないかと疑っているわ」
「そんなわけない! 魔女なんていっぱいいるだろう」
「魔女はいっぱいいても、人前に出てくる魔女は一握りだわ。貴方に接触するのも不自然よ」
レオンは揺れていた。自らを救ってくれるかもしれない魔女と、自らの愛した人の考えとで。
「わかった。今度魔女に会いに行くときに聞くとしよう」
「ひーっひっひっひ。よく来たのう。また可愛らしい子も連れてきたか」
魔女は口の端を持ち上げて笑った。首元には紫色のまがまがしいネックレスが燦然と光っている。
「おい、魔女! お前が嘘つきだというのは本当か!」
「はて、嘘つきとは……心当たりがないな」
「嘘つけ! いつまで経っても僕を治す気がないだろ!」
「まだ準備が整っていないのだから仕方がないだろう」
のらりくらりと口を濁す魔女に、レオンは激昂した。
「そんなわけないだろう! あんたが僕に呪いをかけたんだろ!?」「ちょっとレオン、それはまだわからないって……!」
不確定な情報を言い切ったレオンに、エルシアが焦った様子で止めに入る。
「そうかもしれないのぉ」
揉め始めた二人に、魔女は静かな声で割り入った。
「わしがその魔女ではないという保証はない。それでも其方はわしを信じるか? それとも、信用ならない婚約者と生涯をともにするか?」
レオンは二人で暮らせるためならなんだってしたいので。
そのまま考え込んでしまった。
それをあざ笑うように、魔女の首元でアメジストがぴかぴかときらめいていた。
***
「アンゼローナ……僕の見間違いじゃなければ、あの魔女のネックレス、異様に光ってない?」
右手でアンゼローナにエメラルドを渡し、左手で対になるエメラルドを握りしめながら、僕は多少の焦燥感を持って問いかけた。
エメラルドにはホールの全体に音を届けるような拡声の効果があるが、魔法石の回路を少しいじると逆の効果をつけることができる。対になるエメラルドを持った二人だけの秘密話ができるような消音効果もつけられるのだ。
「そうかも……。ちょっとまずい感じ?」
僕の切羽詰まった感覚が伝染したのか、アンゼローナがごくりと唾を飲み込んだ。
「もしあれが魔法石なら、能力行使の前兆かもしれない。アメジストは毒を司る魔法石だから解毒に使われることが多いけど、攻撃魔法にも使える……」
「じゃあすぐにでも逃げたほうが!」「いや、二人だけで逃げるわけにもいかない。あれが演出の可能性もあるんだ」
アンゼローナは唇を噛んだ。「他の人にも呼び掛けたほうがいいよ」
「まだ大丈夫なはずだ。魔法石が光るような前兆を見せたときは、発動までに時間がかかる。一旦、僕らの周りだけは軽い防御結界を張っておくよ」
できることなら、全体を守りたいところだ。正直、あの状態だといつ暴発するかわからない。
「それにしてもおかしいな。魔女役の女性が術者だとしたら、あまりにも発動のための動きが少なすぎる。もし攻撃魔法を使うのなら、もっと大掛かりな動作が必要なはずだ」
「──もしかして、劇場内に協力者がいるんじゃ」
「ああ、その可能性は高いと思う。ホール全体を範囲に入れるような計画を、一人で遂行するとは考えにくい。それにしても、狙いはなんだ──? 王立劇場を破壊したところで莫大な賠償が待っているだけなのに」
とはいえ、僕らにできることは何もない。ただミュージカルを見ることしかできない中、アメジストはだんだん光を増していくのだった──
次の更新は未定です(^▽^)




