↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、まずは仕事から。  作者: こやーん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/35

第8話 思ったより、金が残らない

《白鹿商会》での仕事を終えてから、数日が過ぎた。


その間、俺は冒険者ギルドで、街の中で完結する依頼をいくつか受けた。


最初に選んだのは、商店から個人宅へ荷物を届ける仕事だった。


渡された地図と道順を頼りに目的地を探し、届け先の名前を確認してから荷物を渡す。最初の一件は、似たような建物が並ぶ路地で少し迷ったが、近くの店へ道を聞くことで何とかたどり着いた。


次に受けたのは、街の掲示板に貼られた古い告知を回収し、新しいものへ張り替える仕事だった。


掲示板は中央広場だけではない。


門の近く。


市場。


役所の前。


住宅が多い区画。


酒場や宿が集まる通り。


指定された場所を順に回ることで、街の全体像も少しずつ分かってきた。


『現在までに確認した主要な道と施設を整理しますか?』


「宿に戻ってから頼む」


『承知しました』


そのほかにも、店から店への小さな荷運びや、倉庫から出した商品を荷車へ積み込む仕事を受けた。


どれも難しい仕事ではなかった。


ただし、簡単だからといって確認を省くと、すぐに問題が起きる。


届ける荷物の数。


受け取る相手の名前。


積み込む順番。


壊れやすい物と、上に物を載せても構わない物。


依頼主によって、当たり前だと思っていることも少しずつ違った。


分からないことは、その場で確認する。


終わったら、何をどこまで行ったのか報告する。


地球で働いていた頃と、大きく変わらない。


依頼は、どれも問題なく完了した。


ギルドへ戻るたび、エルナは依頼票を確認し、報酬を渡してくれた。


だが、数日働いて分かったこともある。


「思ったより、金が残らないな」


《駆け馬亭》の食堂で夕食を終えたあと、俺は手元の硬貨を数えていた。


宿代と食事代。


昼間の軽い食事。


水筒へ入れる飲み物や、細かな日用品。


街中の依頼を一日受ければ、その日の生活費は払える。


だが、残るのはわずかだった。


『現在の収入を継続した場合、日々の生活を維持することは可能です』


「仕事が毎日あれば、だろ」


『はい』


「体調を崩したり、依頼がなかったりしたら、その日は赤字になる」


『現在の資金で、ただちに生活が困難になる可能性は低いと考えられます』


「でも、減り始めたら早い」


今は、管理者から用意された金がある。


街へ来た時点では、現代の感覚なら35,000円から40,000円ほどあったはずだ。


街へ来てからの稼ぎは、ほとんどが宿代と食費に消えている。


今の生活を続けるだけなら、それでもいい。


だが、服や靴はいつか傷む。


病気や怪我をすれば、薬や治療にも金がかかる。


冒険者として街の外へ出るなら、装備も必要になるだろう。


「少し、受けられる仕事の範囲を広げた方がいいな」


『危険度の上昇が予想されます』


「いきなり魔物の討伐をするつもりはないよ」


剣を握ったこともない人間が、報酬だけを見て危険な依頼へ手を出せば、どうなるかは想像できる。


俺が欲しいのは、一度に大金を稼げる仕事ではない。


今より少し条件がよく、今後につながる仕事だった。


「明日、エルナさんに相談してみる」


『妥当だと判断します』


「あと、宿は先に延長しておく」


『過去の失敗を踏まえた改善として記録します』


「それは記録しなくていい」


近くで食器を片づけていたマルタが、こちらを見る。


「何か言ったかい?」


「いえ。あと3日分、宿をお願いしようかと思って」


「今度は忘れる前に言えたね」


「……はい」


どうやら、こちらの失敗はしっかり覚えられていたらしい。


     ◇


翌朝。


冒険者ギルドへ入ると、いつもの受付にエルナがいた。


ここ数日、同じ窓口を利用していることもあり、俺の顔を見るとすぐに声をかけてくる。


「おはようございます、ツカサさん。今日はまだ依頼を選ばれていないんですね」


「少し相談してもいいですか?」


「はい。どうぞ」


受付前に立ち、昨日考えたことをそのまま伝える。


「街中の仕事には、少し慣れてきました。できれば、もう少し仕事の幅を広げたいと思っています」


「街の外の依頼をご希望ですか?」


「危険な討伐は、まだ無理だと思っています。ただ、街中の仕事だけだと、生活費でほとんど消えてしまうので」


エルナはすぐには答えず、受付の下から一冊の帳簿を取り出した。


何枚かページをめくり、指で記録を追っていく。


「《白鹿商会》の倉庫整理。街中の配達が3件。掲示物の交換。それから、昨日の荷車への積み込みですね」


「はい」


「いずれも、依頼主からの問題報告はありません。配達先と数量の確認が丁寧で、終了後の報告にも不足なし、と記録されています」


自分の仕事について、目の前で評価を読み上げられるのは、少し落ち着かない。


「悪い評価ではない、ということでいいですか?」


「良好です」


エルナは帳簿を閉じた。


「実は、一件、お願いできないかと考えていた依頼があります」


「どんな仕事ですか?」


「ローデ村への配達です」


聞いたことのない地名だった。


「ローデ村は、アルネスからどのくらいかかりますか?」


「歩いて半日ほどです。朝に出発すれば、昼を過ぎた頃には到着できます」


「その日のうちに戻れますか?」


「荷物の確認と引き渡しがありますので、村で一泊して、翌日に戻る予定です。宿泊場所と食事は、村が用意します」


一泊二日の配達。


街中の仕事から比べれば、かなり行動範囲が広がる。


「配達する物は?」


「魔物避けの香と、その調合に使う材料や道具です」


エルナは別の書類を取り出した。


「完成している香のほか、香を固める樹脂、燃焼を安定させる粉、交換用の芯材。小型の乳鉢やふるい、成形用の木型などが含まれます」


「村では、香を自分たちで作っているんですか?」


「主になる材料は、村の近くで採れます。ただし、すべてを現地でそろえることはできません。ギルドから副材料と道具を送り、使用量や周辺の魔物に関する情報も共有しています」


「普通の商人が運ぶ物ではないんですね」


「調合を誤ると、人や家畜にも害が出る可能性があります。管理されている材料も含まれるため、ギルドを通して運んでいます」


エルナは書類をこちらへ向けた。


品目の横には、個数と確認欄が並んでいる。


ただ荷物を運ぶだけではない。


出発前に内容を確認し、村で受領した相手と照合する。受領書と、村からの報告書を持ち帰る必要もあるらしい。


「荷物の量は、どのくらいですか?」


「成人男性が一人で運べる範囲です。ただ、背負ったまま戦うのは難しいと思います」


「戦う可能性があるんですか?」


「ローデ村までの街道は、頻繁に人が通っています。危険な地域ではありません」


エルナはそこで一度言葉を切った。


「ですが、魔物や野生動物がまったく出ないわけでもありません。戦闘経験のない方を、単独で送り出すことはできません」


「護衛が付く?」


「はい。配達担当と、同行護衛を分けます」


それなら、護衛が荷物まで持てばいいのではないか。


一瞬そう思ったが、すぐに理由へ気づいた。


「護衛が荷物を持っていたら、何か出たときに動けないですね」


「そのとおりです」


エルナがうなずく。


「ツカサさんには、荷物の運搬と管理、村での引き渡しを担当していただきます。護衛には、道中の警戒と危険への対処を任せます」


「依頼が今まで残っていたのは、受ける人がいなかったからですか?」


「普段、この仕事を担当している冒険者が、足を痛めて休んでいます」


依頼そのものに問題があったわけではないらしい。


「ほかの冒険者には、あまり人気がない仕事です。2日間拘束されるわりに、討伐依頼ほど報酬が高くありません。それに、荷物や書類の確認もありますから」


「戦うのが目的の人には、面倒な仕事ということですか」


「はっきり言えば、そうなります」


自分にとっては、むしろ向いているかもしれない。


品目と数量を確認し、相手へ届け、受領書を持ち帰る。


地球でも、似たような作業は何度も経験した。


「報酬はいくらですか?」


「配達担当は銀貨7枚です。そこから、通常どおり1割を差し引きます」


手元に残るのは、銀貨6枚と銅貨3枚。


一泊二日の仕事として考えれば、驚くほど高いわけではない。


だが、村での宿泊と食事は依頼側が負担する。


街中で2日働くよりも、残る金は多い。


「受けたいです」


「分かりました。ただし、その前に確認があります」


エルナは受付の奥へ目を向けた。


「ギルドの依頼として街の外へ出る場合、最低限の能力確認を受けていただきます」


「登録したときに聞きました」


「街を出ること自体に許可が必要なわけではありません。ただ、ギルドが依頼を紹介する以上、無事に戻れる見込みがあるかは確認します」


「具体的には、何をするんですか?」


「体力と、危険時の行動です。戦闘経験も確認します」


「戦闘経験はありません」


エルナは予想していたようにうなずいた。


「では、それも含めて訓練官に判断してもらいましょう」


お読みいただき、ありがとうございます。


街の外の依頼を受けるため、次回は訓練官による能力確認です。


本作はカクヨムにも掲載しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。