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異世界で、まずは仕事から。  作者: こやーん


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第33話「空けておいたもの」

 翌朝。


 アルネスから、さらに冒険者が到着した。


 これで森を確認する人数が増えた。


 カレンとハンスも加わり、今度は昨日より奥まで調べることになった。


「村から離れないでくださいね」


 出発前、カレンが言う。


「もう三回くらい言われてます」


「なら四回目です」


「分かりました」


「本当に?」


「昨日ちゃんと逃げたでしょう」


「そうですね」


 カレンは少し考えた。


「じゃあ信じます」


 そこはまだ確認が必要だったらしい。


     ◇


 彼女たちが森へ入っている間。


 俺たちは村側の準備を続けた。


 昨日、村の外れから移ってきた人。


 怪我人。


 食料。


 水。


 荷車。


 村長とリディアが相談し、人の動きを少なくする。


 俺は必要なことをノアへ並べてもらった。


 ――今、抜けている確認は?


『目的を指定してください』


 まただ。


 でも、今度は迷わなかった。


 ――魔物がもう一度村へ入ったとき、人が逃げ遅れないようにしたい。


『確認候補を提示します。村の外に残っている人。移動に時間がかかる人。集合先。移動経路。以上です』


 ――ありがとう。



「村長」


 俺は声をかける。


「今、村の外に人は?」


「冒険者以外はいない」


「外れの家は?」


「今朝も確認した」


「鐘が鳴ったら、みんな集まる場所は決まってますか?」


「村長の家の前だ。昔からそうしてる」


「そこまでの道は?」


「北側の家は西から回す。東が危ないときは中央の道を使わせない」


「分かりました」


     ◇


 昼を過ぎたころ。


 森からカレンたちが戻った。


 ハンスの腕に細い傷がある。


「怪我したんですか?」


「かすっただけだ」


 診療所の女性が聞けば怒りそうだ。


「何がいたんです?」


 村長が聞く。


 カレンが答えた。


「大型の魔物の痕跡がありました」


 部屋が静かになる。


 嫌な予感というものは、言葉になる前から分かるらしい。


「種類は?」


「断定できません。ただ、足跡や残された傷を見る限り、今までこの辺りで普通に見るものよりかなり大きいと考えています」


「じゃあ、森から出てきてる魔物は、それを避けてる可能性がある?」


 リディアが聞いた。


「その可能性は高いと思います」


 ハンスが地図を指す。


「痕跡の主は、森の浅いところまで出てきてる。これが原因で小さい魔物が押し出されてるなら、今までの動きとも合う」


 原因だと決まったわけではない。


 だが、昨日までより一つ、可能性が絞られた。


「倒せますか?」


 村長の問いに、カレンはすぐには答えなかった。


「人数は増えました。調べながら対応することはできます」


「できます、って」


「安全にできるとは言っていません」


 真面目な顔のまま言う。


 村長も苦笑しなかった。


「村へ来る前に止めたい」


 ハンスが言う。


「こっちは俺たちの仕事だ」


「分かりました」


     ◇


 カレンたちが再び森へ向かってから、しばらく経った。


 最初に聞こえたのは、家畜の鳴き声だった。


 次に鐘。


 北。


 東。


 ほぼ同時。


「二箇所?」


 胸の奥がざわつく。


 村長が外へ走る。


「北は俺が見る!」


「私は東へ行きます」


 リディアが言った。


「一人で?」


「村の中です。それに、荷車があります」


「俺も行きます」


「じゃあ一緒に」


 迷う暇はなかった。


     ◇


 東側。


 昨日荷車を置いた道へ着く。


 村人が数人いる。


「来てる!」


 柵の向こうを、小さな影が走る。


 一匹。


 二匹。


 また別の一匹。


 方向がばらばらだ。


 リディアが荷車を見る。


「ここ、もう少し寄せます!」


「今?」


「今です!」


 村の男たちと一緒に押す。


 人が通れる幅だけ残す。


「診療所へ行く道は?」


「裏から回れます!」


 リディアは迷わず答えた。


「じゃあ、こっちは狭くしていい!」


 俺も押す。


 そのとき。


 荷車の向こうから、低い唸り声が聞こえた。


 近い。


 背中が冷える。


「下がって!」


 誰かが叫ぶ。


 一匹の魔物が、荷車と柵の隙間から入り込んできた。


 昨日と同じくらいの大きさ。


 四つ足。


 ただし、昨日のものとは色が違う。


 俺たちは下がる。


 村人も下がる。


 逃げ道はある。


 なら、逃げればいい。


「リディア!」


「はい!」


 二人で裏道へ向かう。


 魔物もこちらへ来る。


 走る。


 角を曲がる。


 そこで止まった。


 診療所から、昨日救助された男が支えられながら出てきている。


 鐘を聞いて、集合場所へ移ろうとしたのだろう。


「戻って!」


 リディアが叫ぶ。


 間に合わない。


 俺たちが逃げれば。


 魔物の進む先に、診療所がある。


 足の悪い怪我人がいる。


 逃げ道はある。


 俺だけなら。


 俺は杖を握った。


「ツカサさん」


「倒そうとはしません」


 自分に言い聞かせるように答える。


「時間だけ作ります」


 一度だけ距離を作る。


 下がる。


 助けを呼ぶ。


 それでいい。


 そう教わった。


 魔物がこちらを向いた。


 喉が乾く。


 手のひらに汗がにじむ。


 今度は。


 後ろへ下がった先にも、人がいた。

お読みいただき、ありがとうございます。

次回は、第34話「倒すつもりじゃなかった」です。

本作はカクヨムにも掲載しています。

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