第21話「また一緒に」
翌朝。
冒険者ギルドへ入ると、いつものように掲示板へ向かった。
荷運び。
倉庫整理。
店の掃除。
街中への配達。
前なら、まず自分にできるかどうかだけを見ていた。
最近は、そのあとにもう一つ考える。
何を運ぶのか。
どこまで行くのか。
誰の指示で動くのか。
先に聞いておいた方がいいことは何か。
同じ「荷運び」でも、中身はけっこう違う。
「今日は――」
「ツカサさん」
依頼票へ伸ばしかけた手を止める。
受付を見ると、エルナがこちらへ手招きしていた。
「おはようございます」
「おはようございます。ちょうどよかったです」
「また何かあります?」
「はい。ツカサさんに合いそうな仕事が入ったところなんです」
受付へ行くと、エルナが一枚の依頼票を差し出した。
「西側の街道で、商人の荷車が動けなくなりました」
「事故ですか?」
「車輪を支える部分が壊れたそうです。人と馬に怪我はありません」
それなら、ひとまず安心だ。
「向こうは何人ですか?」
「商人が二人。それと、雇われた護衛が一人です」
「今も現場に?」
「商人の方が一人、通りかかった荷車に乗せてもらって戻ってきました。もう一人の商人と護衛は、荷物と壊れた荷車のところに残っています」
なるほど。
街道に一人だけ取り残されているわけではない。
「それで、代わりの荷車を持っていくんですか?」
「はい。ただ、すぐ用意できたものが元の荷車より少し小さいんです」
「全部は載らないかもしれない」
「そうなんです」
エルナが依頼票を指で軽く叩く。
「できるだけ今日中に必要な荷物をアルネスへ戻したいそうです。残った分は、壊れた荷車と一緒に明日改めて回収します」
「現場には護衛が残る?」
「その予定です」
これなら話は分かる。
「荷物の中身は?」
「食料や日用品が中心だそうです。割れ物もいくつか。ただ、何を優先するかまでは、私も聞いていません」
「そこは商人に聞けばいい?」
「はい」
俺はもう一度、依頼票を見る。
荷物を運ぶ。
そこだけ見れば、これまでにも経験がある仕事だ。
ただ今回は、全部を運べないかもしれない。
何を先に持って帰るのか。
どう積むのか。
そこは、持ち主の話を聞かないと分からない。
「……それで、どうして俺なんです?」
エルナが少し首を傾けた。
「嫌ですか?」
「いや。そうじゃなくて」
最近、声をかけてもらうことが増えた。
ありがたい。
でも、そのたび少し気になる。
「こういう仕事なら、もっと慣れてる人もいるでしょう?」
「いますよ」
「即答ですね」
「嘘をついても仕方ないでしょう?」
「それはそうですけど」
エルナが笑う。
「ツカサさんしかできない仕事ではありません」
「ですよね」
「でも、合ってるとは思いました」
「俺に?」
「はい。荷物のことが分からなければ、持ち主に聞くでしょう?」
「聞きますね」
「全部載らなかったとしても、何を残すか勝手には決めないでしょう?」
「それは聞きますね。俺の荷物じゃないですし」
「そういうところです」
エルナが小さく笑った。
「報酬は、前回と同じ銀貨七枚です」
「分かりました。俺でいいなら受けます」
「ありがとうございます」
エルナの顔が少し明るくなった。
「ただ、街の外ですよね」
「はい」
「護衛は必要ですよね?」
「もちろんです」
そこは迷いなく返ってきた。
「ツカサさんを一人で行かせるつもりはありません」
「ですよね」
体力は問題ない。
戦闘は話にならない。
ヴァルターの評価が、そう簡単に変わるはずもない。
「護衛はこれから探すんですか?」
「いいえ」
エルナが俺の少し後ろを見る。
「ちょうど今朝、お願いできそうな人がいたので」
振り返る。
赤い髪。
細い縁の眼鏡。
腰の片手剣。
こちらへ歩いてくるカレンと目が合った。
「おはようございます」
「おはようございます」
前に組んだときとは違う。
今回は名前を聞く必要もない。
「また外の仕事みたいですね」
「そうみたいです」
カレンが受付へ来ると、エルナから依頼票を受け取った。
「荷車の回収?」
「正確には、積み荷の回収補助です」
「現場には護衛が一人残ってるんですよね?」
「はい。商人一人と護衛一人が残っています」
「周辺で何か変わった報告は?」
「今朝の時点ではありません」
カレンは依頼票を少し読み、俺を見る。
「ツカサさんは受けるんですか?」
「そのつもりです」
「じゃあ、私も受けます」
「もう決めていいんですか?」
「条件は聞きましたから」
「俺のことは?」
「前に一緒に行ってますし」
少しだけ口元が緩む。
「また機会があればって言いましたよね」
「ああ」
武器屋での会話を思い出す。
「言ったことは覚えてるんでしたね」
「はい」
「俺も覚えてます」
「それなら問題ありませんね」
何が問題ないのか、やっぱり少し分からない。
でも前よりは、それがカレンらしいと思える。
エルナが帳簿を開いた。
「では今回も、依頼中だけお二人を臨時パーティーとして登録します」
「お願いします」
カレンも隣でうなずく。
「出発は?」
「準備ができ次第です。救援を求めに来た商人の方と、代わりの荷車が裏手で待っています」
「分かりました」
そこでカレンの視線が、俺の手元へ落ちた。
正確には、何も持っていない手へ。
「杖は?」
「あ」
「置いてきました?」
「宿です」
「取ってきてください」
「ですよね」
「使わないのが一番ですけど」
「持ってなかったら、使うこともできない」
「覚えてるじゃないですか」
「前にも似たようなこと言われましたから」
カレンが少し笑った。
「じゃあ、準備できたら裏で待ってます」
「はい」
俺はギルドを出ようとして、一度足を止めた。
「カレンさん」
「はい?」
「また、よろしくお願いします」
一瞬だけ目を丸くしてから、カレンは笑った。
「はい。こちらこそ」
仕事を探しに来たはずだった。
それが今日は、先に仕事を頼まれた。
しかも一緒に行くのは、初めての相手ではない。
宿へ杖を取りに戻りながら、少しだけ思う。
探す側から、頼まれる側へ。
ほんの半歩だけれど、立ち位置が変わった気がした。
お読みいただき、ありがとうございます。
次回は、第22話「教わった通りに」です。
本作はカクヨムにも掲載しています。




