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53話 力

翌日、みんなは男に連れられて、いつもの丘の上にやって来た。

アイリスは歩ける程度には回復したようで、いつものように木陰の下で、体育座りの状態で俺たちの様子を観察している。


アイリスにカイル達を紹介したら「ふーん……」と言って、それ以上何も話す事をしなかった。

それには、流石に3人とも唖然としていた。

「人見知りで」とか「普段からあまり喋らなくて」とかフォローしておいたけど、女子共は腑に落ちない様な顔をしていた。

今後が思いやられる。


「ほらよ。これがお前らの武器だ」


そう言って、男は何かを放り投げてきた。

俺は慌てながら、それを受け取ろうとする。


紐状で、何かが連なった物が、両手にじゃらっと落ちてきた。

何だろう、首輪、もしくは腕輪の様な、鎖が輪っか状になっている物だ。


「持ち合わせが、これだけしか無くてあなあ。一番弱えもんだが無いよりマシだろ」


変わった武器だな。

というか、武器には全く見えないのだけど。

兄さんとティアも不思議そうにそれを眺めており、ちゃらちゃらと揺らしたりしてる。


「あんま乱暴に扱うなよ。危ねえからな」


兄さんは、それを振り回していた腕をピタッと止めた。


「これって、どうみても装飾品にしか見えないんですけど……」

「ああ、それはな、なんつったけな、武器がその形になっててな。んで、確か、魔力で圧縮して? なんつったっけなあ。まあいいや、やってみせた方が早いだろ」


頭をくしゃっとかき乱しながら、なにやら説明していたのだが、全く伝わってこない。


「カイル、やってみせろ」

「わかったさ!」


カイルが一歩前に出てきた。

そして、両手を胸元に持ってきてみせた。


「これが僕の武器さ」


俺たちに見せた両腕。そこには、右手に指輪、左手に腕輪の様な物が付けられている。

不思議な輝きをしていて、カイルが少し動かすち、見る方向によっては銀だったり赤っぽく見えたり。


「よく見ておくといいさ」


カイルは両腕を胸元に持ってきたまま、動く様子が無い。

ほんの少しした後、何かの違和感を感じた。


カイルから少しばかりにじみ出ていた魔力が、ゆらっと動いて、両腕の方へ流れていったように見えた。

直後、カイルが腕を交差させる。


キンっと金属が内合わさる音がする。

すると、カイルが付けていたアクセサリーが少し輝いた直後、膨張したように膨らんだ。

その何かは、一定の大きさになると膨張が止まり、何かを形作っていく。


「よっと」


気づけば、カイルの右手には直検が、左手には円盾が装備されていた。


「うわ、凄い」


久しぶりにファンタジー感丸出しな現象が目の前に繰り広げられ、少しばかり興奮する自分がいる事に気がついた。


「アニーもやって見せるのさ」

「嫌よ、面倒くさい」

「見せてあげても良いだろうに……アニーの武器はグローブみたいな物なのさ」

「俺も出来るのか」

「練習すれば出来るようになるさ」


兄さんは受け取ったアクセサリーを、引っ張ったり、広げたりしている。

へー、面白いな。

魔力を流し込むと武器になる仕組みなんだろうか。

恐らくそうだよな。

カイルの魔力の流れが、明らかに腕の方に集まってたし。


いつものよう、体内の魔力を探り、魔力の流れを確認する。

ゆらゆらと蠢くような感覚をしっかりと感じ取り。

それを意識的に、アクセサリーを握っている腕へ集める。

んで、この魔力をこれに流し込めば良いんだろうな。


アクセサリーが熱を帯びたような感覚がした。

手の中で、少しずつ膨張するアクセサリー。


この調子で良さそうだ。

明らかに、変化を感じるし。

よし、もうちょっと流し込んでやろう。


手の中のアクセサリーがさらに熱を帯びた。

そして、しばらくした瞬間。

アクセサリーが膨張した。


凄い。

先程も見たけれど、金属が液状になったと思ったら、宙で膨張し始める。

そして、何かを形作るように変形するんだ。

うわあ、楽しみだな。どんな武器が出来るんだろう。


バシャ


「へ?」


俺の期待を裏切り、アクセサリーは膨張を止めることなく膨らみ続けて、最後には破裂して水の様な物が飛び散った。


え、何これ。

え、武器になるんじゃなかったのか。

ということはこれが武器なのだろうか。


そんな感じには見えないけれど。

何だ、俺は液状のものを操って攻撃を繰り出すタイプの人間なのだろうか。

呆然と液状になったそれを眺めていた。


「おい、お前、何やったんだ」


その声に、体がビクッと反応し、跳ね上がる。

声の方を見ると、驚いたような顔をする3人と、睨みつけるような表情の男が居た。


「え、いや、魔力をちょっとばかり流したら」

「あん? お前、魔力そのものを操れるのか?」


あれ、出来ないの?

だって――


「だって、カイルがそんな感じの事を」

「僕はそんな難しい事は出来ないさ」


でも、カイルが付けていたアクセサリーには魔力が集まって。


(主様、魔力そのものを操れる人間なんて、この世界ではありえないとされているんですよ……前、話しませんでしたっけ?)


いつだ、いつ、そんな話をしていたんだっけか。

そんな記憶、ここ最近はしていない。

そうか、生まれて間もない頃、そんな話をしていた気がする。

最近は、日常的にアイリスへ魔力を渡していたから、普通の事だと思いこんでしまっていたんだ。


「おい、どうなんだ」

「えっと、その……」

「どうにか言えよ」


怖い。かなり。

俺より背の高い人間から、ものすごい形相で高圧的に詰め寄られ、恐怖で体が震えてくる。


「お前は、魔力を能動的に動かして、その魔具に魔力を流し込んだんだよな」

「え、その、はい……」


男がずかずかと、さらに近寄ってきて、俺の胸ぐらを掴もうとしているのか、腕をこちらに伸ばしてきた。

心臓が大きく跳ね上がっている。

嫌だ、こっちに来ないでくれ。

俺は自然と俯いて、目を閉じてしまった。

その男の顔を見なくて済むように。


「駄目」

「アイリス、そこをどいてくれ」

「嫌、駄目」


頭を上げると、俺と男の間にアイリスが立っていた。

両手を広げて、俺の前に背を向けて立っている。

男は髪をくしゃっとかき回して、顔をしかませた。


「つってもなあ。そいつは俺達の――」

「違う」


アイリスは絶対に退いてなるものかと、直立で微動だにせず、俺を男から守ってくれていた。


「そうか、お前――」


男はそう言って、手引っ込めてその場から少し離れた。


「そいつは壊れている気配がしねえもんな。でもなあ、この先どうなるか分からねえしなぁ」


男は困ったような顔でこちらを見ていた。


「はあ……まあ良いか。当分様子見って事で」


何が何だか分からない。

俺が何をしたっていうのだろうか。

可能な限り記憶を探ったが、特に何も思い浮かばず、ただ、なんとも言えないざらつきだけが残った。

俺は壊れてなんかいない、至って正常だ。


「そうだ……ほらよ、姫さんのモンだ」


男からアイリスに渡されたのは、弧を描くように湾曲した、金具のような何かだった。

アイリスはおもむろにそれを頭につけた、のだが、上手く頭に収まらない様子で四苦八苦している。

不器用だとしても、程度ってものがあるだろうよ。


「アイリス、こっち向いて。それ貸して」


アイリスの前に手を差し出すと、その金具のような物が乗っかった。

アイリスが持っていた、弧を描いた金具を確認する。


なるほど、カチューシャみたいな物か。


アイリスの方へ向いて、そのカチューシャを頭に添えてあげた。

こんな具合でどうかな。

うん、いい感じだと思う。


俺が手を離すと、アイリスは装着具合を確かめるように、両手で、頭にあるカチューシャの様な物を触っている。

落ち着いた位置に収まったのだろう、手を下ろした。

そして、その後、こちらを見てふわっと笑顔になる。


俺は、軟派野郎になりきれないし、口に出すことも恥ずかしいから「可愛いね。似合ってるよ、それ」という言葉が出てきそうな感覚を無理やり喉へ押し込んで、心の中に留めておく事にした。


「はあ」


ったく、何度目のため息だろうか。

俺の幸せは、きっと、何度か先の転生後に繰り越されているに違いない。

その何度か後の転生なんて、起こる保証は微塵も無いのだけれど。


「――目も眩むような瞬きが、点と点を結んで、いくつもの線となってゆきます――」


アイリスの声で、誰かに話を読み聞かせるような言葉が聞こえた。


「おいおいおいおい、止めろって! アイリス、こっちに向けて神話を詠むなって!」


ふと声の方を見ると、アイリスがこちらに背中を向けていた。

うすく輝いた髪がなびき、カチューシャの様なものがキシキシと音を立てている。

魔力が渦を巻き、アイリスと俺がいる辺りの空気が乱れる。

顔に当たる風がヒリついている。


「悪りぃ! 悪かったって思ってる!」


少しして、魔力の渦が収まり、辺りの空気が落ちついていく。


「ったく、冗談にならねえよ……」

「謝って」

「あ?」

「セリニスに謝って」

「あ……ああ、悪かった。動揺してたみてえだ」


怖っ! アイリス怖っ!


謎の不思議アイテムを手に入れた先程のアイリスは、まるで水を得た魚の様だった。

今後、怒らせるような事をしたら、きっと、今の謎魔法みたいなのでぶっ飛ばされる。

今のは、生命の危険すら感じた。

俺が、最大魔力で魔術をぶっ放す時の、それに匹敵する魔力量を感じたぞ。


「なんなの……それ……」

「嘘よ、何で、信じられない」

「すごかったさあ」


カイル達は三者三様、それぞれが思っている感情が表情に現れている。


「ったく、これどうすんだよ」


男は、俺が弾けさせたアクセサリーを見て、ただただ困惑している。


「えっと……」

「ああ、良いんだ。気にすんなって」


男は指先で、液状になったアクセサリーをつついていた。


「……ああ、アレか。出来れば持って帰りてぇな。でも器がねぇからな」


足を開き、ガラの悪い座り方で考え込んでいる。


「ま、いっか。ガラクタみたいなモンだったしな」


男はすっと立ち上がり、空を仰いだ。


「お前ら、兄貴をしっかりと見ておくんだ。可怪しくなったら、直ぐにギルドに報告するんだぞ」


男は、兄さんとティアの方を見てそう言った。

俺もつられて、兄さんの方を見る。


さっきまで、俺の話をしていたのでは無いのだろうか。

なんで兄さんの話になったんだ。

俺は弟なんだけどな。

あれ、こんがらがってきた。


急に自分の話になったのが不思議だったんだろうか、兄さんはきょとんとしており、何が起こっているのか分からないようだった。

俺も全く同じ気分だ。


「あー……師匠。兄はあっちのヘリオスなのさ」

「あ? そうなのか?」


確かに俺達は双子だし、間違っても可怪しくないか。

見た目は変わらないしな。

俺か兄さん、確率は1/2だ。

当てずっぽうで言ったとしても、外れたとして全くおかしくない数字だ。


「だって、明らかにこっちが兄貴だろ」


この人は何を言っているんだろう。

同じ物を食べて、同じ様な時間を過ごしている。

俺と兄さん、見た目なんて、そうそう変わりはしないだろ。


「確かに、久しぶりに会ってびっくりしたのさ。セリニスが急に大きくなってるから――」


不思議に思い、辺りを見渡すけれど、みんな、否定する様子もなく、ただ、こちらを見つめるだけだった。


(主様)


急にケット・シーから声を掛けられ、そちらの方へ首を向けそうになった所を、頑張って静止させる。


(主様は、最近、成長促進の魔術を乱用しすぎていましたからね。そのせいで、成長度合いが、お兄さんと変わってしまう事になってしまったのでしょう)


そんな――そうだ、思い出した。

幼いの頃、成長具合が兄さんと変わってしまうのが嫌で、成長促進の魔術を使わないようにしていたんだ。

最近は、特訓の度に使っていた。

強くなろうと焦ってしまい、それが、頭から抜けてしまっていた。


意識してみると、確かに兄さんより目線が高い。

ティアは小柄な体質だから可怪しくないとしても、イオやアニーと比べて、少し低い程度の身長って明らかにおかしい。

そんな事……全く気が付かなかった。


「そ、そんな……」


客観的に見ても、俺が化け物じみている事が理解できた。

他人と比べて特別であり、異質であること事。

軽く受け入れる事ができない。


当事者になって、初めて分かった。

自分が人間でないような感覚。

この世界にいるべき人間では無いような感覚。

単純に喜んでしまえる事では無い。

少なくとも俺は。


疎外感、孤独感。


それが一気に押し寄せてきた。

こんな――耐えられない。

なまじ、ある程度、物を理解するために必要な知識がある分だけに、恐怖が必要以上に襲って来る。

急に、皆の目線が、俺を拒絶しているような錯覚に陥る。


なんだか、目眩がする。

気持ち悪い。


「セリニスは特別だからな……いまさら何を」


悲しそうな表情で発した、兄さんの何気ない言葉が、俺に止めを刺した。


俺は知らず知らずの内に、兄さんを傷つけてきたのだろうか。

同じ年に生まれて、同じ環境で、さらに双子で。

比較しない訳、無いじゃないか。

多感な時期に、俺は、兄さんを傷つけてしまったのだろう。


胸から何かが込み上げてきた。

駄目だ、もう耐えられない。


「ご、ごめん。ちょっと気持ち悪くなってきたから先に帰る……」


返る言葉を確認せず、丘から逃げるように、走り出した。

後ろから誰かが声を掛けていた様な気がしたが、そんなの気にかけるほどの余裕は無かった。


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