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52話 隠していた事

好き嫌いありそう

「アイリス、大丈夫だった?」


部屋を出た瞬間、服の袖が何かにつままれて、引っ張られる感覚と共に、ティアの声がした。

振り向くと、とても心配そうで、今にも泣き出しそうな表情のティアがいた。

そうか、さっきは強がっていたのか。

そうだよな、1日たった程度じゃ、トラウマは克服出来ないよな。


「大丈夫だよ。いま見に行ったらちょうど起きて、ちょっと話したよ。もう少し休めば良くなりそう」

「よ、良かった。本当に良かった」


ティアの目から、ぽろぽろと涙が溢れている。

手で拭っても拭っても、あふれる涙が顔を濡らし続けている。


「ティアも、もっと休んだほうが良いよ」

「うん、でも頑張らなくちゃ。セリニスとアイリスが、あんなに頑張って助けてくれたのに。わたし、なんにも出来なかった」


ああ、そうか。

ティアは、あの戦闘をずっと見ていたのか。

そうすると兄さんもか。

確か、二人とも気絶はしていなかったからな。

そう考えると――あの光景は、見るに堪えなっただろうに。

俺とアイリス、血まみれだったし。


「しょうがないよ。相手が強すぎたんだ」

「でも、二人は頑張って。それで、ボロボロで」


泣き止みそうにない。

どうしようか、ここに居るとアイリスが心配するかもだし、リビング行ってもみんなが居るし。

取り敢えず俺の部屋で、泣き止むまで休ませよう。


ティアを俺の部屋に連れていき、ベットに座らせる。

俺の隣で、ティアがひぐひぐと泣いている。

ハンカチなんて洒落た物が無いから、部屋に置いてあるタオルを渡した。


「ありがとう」


顔にタオルを押し付け続けるティア。

あっという間に涙でびしょびしょになってしまいそうだ。


「ティアは一度家に帰って、ゆっくり休んだほうが良いよ。おばさんへの説明は一緒にしてあげるから」

「やだ、帰りたくない。ひとりは怖い」

「え、どういう事」

「一人はやだ」

「でも、帰ったらおばさんが――」

「……お母さん、居ない」

「えっ」


あれ、可怪しいな。

確かに、この村帰ってきてから、おばさんに会っていない気がする。


「なんで、いつから」

「わたしが、村に帰ってきてから、すぐ。お父さんを、助けるために、国に呼ばれて、行ったの。魔法、使えるから、どうしても必要だって」

「そ、そんな」

「だから、家には、帰りたくない、一人は、さびしいから」


泣き止む気配の無いティア。


嘘だろ。

なんで気づかなかったんだ。

確かにティアの家には行っていない。

けれど、そんな――すぐに分かりそうな事。


「そんな、言ってくれれば良かったのに」

「わたし、おねえさんだから、ふたりに、心配、掛けたく、なかった」

「ああ……そっか」


ティアは、ずっと、上手く隠してきたのだろう。

確かに、今思えば、俺たちを家へ近づけないようにしていた気がするし。

家の話は一切しなかった。


「ごめん、気が付かなくて」

「セリニスの、せい、じゃない」

「そうだけど……」


そうか、最近、一度に心労が重なってしまったのか。


そんな。

こんなんじゃ、多少の期間では回復出来ないじゃないか。

ティアは、まだ少女だ。

受け止めきれるような事では無いはずだ


――戦争ってそういう物だった。

親は子供を守るために、兵として戦地へ赴く。

子は親の帰りを待つ。

最悪、子供も兵として駆り出されるだろう。

なぜだか、無性に腹が立ってきた。


当たり前の日常を、非日常に変え。

親の愛情を奪い、子供の笑顔を奪う。

家族の仲を引き裂き、幸せを奪う。


何も考えていないような顔をして、さも当たり前の様に平和を享受する。

幸せで居ることが、当たり前と勘違いしている。

一部の、平和ボケし、想像力が欠如している日本人には分からない事だろう。


これ以上は駄目だ、ティアが帰って来れなくなる。

心の闇が、彼女を覆い尽くし、奪い去ってしまう。

感情を奪い、元気なティアを奪い去って行ってしまう。


まだまだ、泣き続けるティアは見るに堪えない。

とめどなく溢れれ続けている涙がティアを消し去ってしまそうなほどに。

その涙が、悲しみを洗い流してしまってくれれば、どれだけ良いだろうか。

けれど、そんな都合の良いことは絶対に有り得ない。


「ティア……」


気づけば、ティアを抱きしめていた。


まるで、ソフトボールをように硬さを感じるティアの肩。

力が、思いっきりこもっている。

腕に、はっきり伝わる、震える身体。

抑えても、こらえきれないのだろう。

嗚咽がはっきりと聞こえる。


「大丈夫、ずっとこの家に居ていいから。心配しないで、俺が一緒に居てあげるから」


腕の中にいるティアは、拒絶はしていないようだ。

けれで、固まったままで、微動だにしない。

目を見開いて、こちらに顔を向けたまま、硬直している。

けれど、目からは、涙が、ずっと流れ続けている。

ぐしょぐしょになっている顔が、心を締め付けて、軋むように痛みを感じる。

こっちまで、泣いてしまいそうなほどに。


「どうしたの、セリニ……んっ」


俺の唇を、ティアの唇に合わせてしまった。

身体が、勝手に動いてしまった。

しまった、不味いことをしたかもしれない。


性的な意味は全く無いんだ。

ただ、「安心して貰いたい」と思ったら、勝手に体が動いてしまったんだ。


あ、でも大丈夫かもしれない。

ティアの身体の力が抜けて行くのが分る。

不安が紛れてくれれば良いのだけれど。


大丈夫かもしれない。

最悪な行動ではなさそうだ。

ティアは目を閉じ、拒否をする事もなく、受け入れてくれている。

どのくらいの時間、そうしていただろう。

荒い呼吸が収まり、涙が止まった事を確認して、口を離した。


「えっと……なんか、ごめん」

「不思議だね、なんか落ち着いたかも」

「そう、だったら良かった……かな」

「セリニスには助けてもらってばっかだねー」


ティアはへらっと笑っている。

良かった、大分落ち着いたようだ。


不味ったかなー。

この歳の男の子に唇を奪われるって、嫌な気分にならないだろうか。

まあ、俺が嫌われる程度で済むなら、安いものだろう。

あ、失敗した時の事を考えていなかった。

突発的な感情だったから、考えが及ばなかった。


「はじめてのちゅうはセリニスかあー、そうかー」

「うっ、そう言われると恥ずかしいんだけどな」

「そう言えば、さっき自分の事、俺って言ってたねー」

「そうだっけ? あれ?」


覚えてないな。

不味い、本当に俺ってどうしたんだろう。

この瞬間がポンコツすぎて、自己嫌悪だ。


「別に、変じゃなかったけどな」

「えっと、忘れてくれると……」

「忘れられるわけないじゃんー」

「そうだよね……」


頬をぽりぽりと掻いて、恥ずかしさを紛らわせる。

気持ちを切り替えて行こう。

やってしまったものはしょうが無い。


「ティアはゆっくり休んでてよ」

「そうしようかな……なんだか眠いしさー」


そりゃあんだけ泣けばな。眠くはなるさ。


俺は大きな口を開けて欠伸をする。

疲れた気がするけど、ここで寝るわけにはいかない。


「ねえねえ、もう一回してよー」

「もうしない!」

「えーけちー」


ふふっと笑うティアが、こっちを見ている。

きっと、からかわれたんだろう。

悔しい。


「おやすみ」

「うん、おやすみー」


ティアがベットに横になったのを確認して俺は部屋を出た。


ふと、目の前にケット・シーが現れた。


ああ、最悪だ。

こいつが居たんだった。

何を言われるんだろうか。

今回は、冗談を言い合えるような気力は無い。

気が重い。


(へー、主様って、意外と男らしい所もあったんですねー)

(男らしい? そんな事は無いだろ。忘れろよ)

(別に良いじゃないですか。女の子が困っていて、それを助けるなんて、どこのイケメン王子様ですかカッコイイですねこの変態)

(褒めているようで貶しているな、後半の部分は聞いてない事にするから)

(ねえねえ、わたしにも、一回だけ、ちゅうしてくださいよ~)

(しない)

(ケチですねえ、主様は)


つーんとそっぽを向いてしまった。

こいつ、さっきのティアが言っていた事を、若干真似しているのが腹立たしい。


そんな事よりもだ、今後の事を考えなければ。

カイル達も当分ここに泊まるだろうし。

そうすると、まずは食事だろうか。


金銭的にはとくに困ることはないけれど、供給が成り立つのかが不安だ。

野菜は農家夫婦に譲ってもらうとして、問題は肉だよな。

肉は必須食材だ。あるとなしじゃ、栄養素的にも、幸福度や満足度としても、かなり違ってくる。


肉屋のおっちゃんの所へ、俺達がワイルドラビットの肉を持っていくと、とても喜ぶくらいだもんな。

供給が間に合っていないように感じる。

そこに、子供3人増えるとなると、単純計算で倍の量が必要になる、さらに3人は年上で、育ち盛りだ。

エンゲル係数が急上昇だ。

ワイルドラビット狩りは欠かせないよな。

けれど、またあんな事にはなりたくない。


「あいつらまだ居るよな……」


自然とため息が出てしまう。

この短い間で、どのくらいのため息を吐いただろうか。


(あいつらって、あの獣人みたいなやつらでしょうか?)


ケット・シーがふよふよと俺の近くへ飛んでくる。


(うん。そう)

(あいつらは今、森の奥、さらに奥の山の麓あたりに居ますね)

(あれ? なんで分かるの?)

(波長が読み取れるようになったのです)

(はぁ……)


それが、あの時に分かるようになっていれば。

いや、ケット・シーに文句を言うような事ではない。

あの経験があったから、分かるようになったんだろうし。

居場所が分かるようになったんだ、いい方向へ考えよう。


(じゃあ、森に入ってもこっちに向かってきたらすぐ逃げれば大丈夫かな)

(そうですね。あの距離からだったら、どう頑張っても追いつけないと思われますよ)

(なら、森に入っても大丈夫か)

(む。また森へ行くのですか。てっきり、二度と入らないとか言うのかと思いましたよ)

(食材がね、全然足らないんだ。だから、ワイルドラビットの肉が必要なんだよ)

(なるほどお)


ケット・シーは顎に前足を当てて、ふよふよくるくると浮いている。


(任せて下さい。二度と、あのような失態が起こらないようにしましょう)

(頼んだよ)


このまま村の中に引きこもり続けるわけにはいかない。

なんとか、前に進まなければ。

こっちにはケット・シーがいる。

全く手が打てない訳じゃない。

やりようはあるんだ。


頭の中をぐるぐると回しながらも、リビングへ向かう。

しかしな、有効な手段が浮かばない。

このままではいけないって事は分かりきっているのに。

多少は蓄えてきた知識を総動員しなくてはいけない。


しかしな、重火器なんて存在しないし、魔術だって中途半端だ。

武力だって全然及ばない。


せめて、逃走の時間を稼げる手段を。

行動を制限する方法で考えるなら、煙幕、目潰しとか。

まだ、こっちの方向で考えるのが現実的か。


「おう。お前ら、体力は回復したみたいだな」


男がリビングにいた。

一瞬ぎょっとしたけど、初対面の時よりだいぶ慣れた。

普通に話すくらいなら大丈夫だろうか。


「あいつら、また来んだろうな」


そうだろう。

理由も無しにあんな所をうろついていないだろうよ。


「だから、お前えらに力をくれてやるよ。身を守れるようになるんだ」


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