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49.1 現れる魔物

「グエ」


そこには、羽毛を纏った大きめな鳥が居た。


「え、ワイルドコック。なんで」


あ、非常食(ターキー)だ。


コイツの存在を忘れていた。

今までどこに居たんだろうか。

お前のご主人様は死にかけていたんだぞ。

そんな時にお前ってヤツは。

キツイ、お仕置きが必要だ。


俺の隣で歩いていたイオが、持っている杖を構えた。

それとほぼ同時に、アニーは支えているティアをゆっくり地面に座らせ、弓を構える。


不味い。このままではターキーが殺されてしまう。

冗談ではなく、本当に食料になってしまう。


「何でこんな時に面倒くさい。わたし、あいつ嫌いだし、射って良いわよね」

「あ、ちょっと待っ――」

「あ、ごめん」


空を裂くするどい音と共に、アニーが射った矢が、ターキーめがけ、ものすご速さで飛んでゆく。


嘘だろ、射ちやがった。

俺が、アニーの問いかけに答える前に。

俺が答える前に射つなら、わざわざ聞かずに射てば良いだろう。

いや、今回に限っては、絶対に聞いてもらわないと困る相手だ。

いやいや、彼女の中にも葛藤があったろうに、アニーは俺にひと言確認してくれたんだ。

なんて出来た子なんだ。


そう、俺は、一度だけアニーに感謝しないといけない。

「魔物を狩るために、わざわざ確認してくれてありがとう」と。

そして、俺は一度止めようとした。

そう、誰も悪くないんだ。


一応、止めようとしたからね。

アイリス。怒るなら、アニーだからね。

結果、どうなろうと俺は知らない。

そう、知らないんだ。

見てもないし、聞いてもない――という事にしよう。


さらばターキー。

一緒に過ごしていた時間はとても短かった。

けれど、その短い間でも、俺達の親交は深いものとなった。

お前は良いヤツだったよ。


お前はここで討伐され、俺達の食料となるのだ。

出来る限り、美味しく食べてあげるからね。

お前は、俺たちの血となり肉となり、俺達の中で永遠に生きることになるのだ。

これほど嬉しいことはないだろうな。

感謝しても良いんだぞ。ははっ。


射られた矢が目にも留まらぬ速さで飛んでゆく。

目にも留まらぬ速さなはずのに、意識の中ではスローモーションに見えている。

このままだと、放たれた矢は、ターキーの脳天を貫くだろう。


思い起こせば、そこはかとなく、お前からは色々学ぶことがあった気がする。


アイリスが言う事効かない時は、虚実交えて教育し。

肉屋のおっちゃんの正論を、騙すように説得し。

村の住人の反感に対し、無茶な子供のわがままで押し通し、村人を襲わないよう常に監視し。

ケット・シーの横暴に日々耐える。


ああ、そんな日常からおさらば出来るんだと考えると、とても感慨深いものがある。

さらばだターキー。

RIP。


甲高く、どこかの木に矢が刺さる音が、森のなかに響いた。


残念な事に、放たれた矢はターキーの頭を掠め、わずかにに羽毛を散らすだけだった。

矢が掠めたターキーは、驚きの余り、羽を広げたまま地面に転げて、固まったまま動かない。

死んでしまったのだろうか。


「こいつ、何なの」


アニーはターキーに近づく。

そして、蹴っ飛ばす。

何度も、何度も。


その光景はとても不憫だった。

蹴られる度に、ゆっさゆっさと揺れるターキー。

森に鈍く響く打撃音。

良いぞアニーよ、もっとやれ。


無言で蹴り続けるアニー。

微動だにしないターキー。


流石にそこまでされて動かないのは可怪しいだろうよ。

ターキーに近寄り、様子を確認したが、未だ動きそうにない。

こいつ、本当にショック死してしまったのだろうか。


あ、こいつ死んだフリしてやがる。


アニーから繰り出される蹴りが、視界に何度も写り込む。

ついでに、俺も一蹴り入れてみる。

いい加減起きろよ。

しばらく様子を見ていたが、まだ起きる様子を見せない。


ふと、俺にだけ分かる程度に、涙目になっているターキーに気が付いた。

その視線は、俺をじっと見つめている。

俺はその視線に気づかないふりをして、目を合わせない。


どうやって連れて帰ろうか。

起きてくれないと、連れて帰れないのだが――

ま、いいか。置いていこう。


「こいつは放置で」


みんなは不思議そうにしていたが、この疲弊しきった状況でわざわざ討伐する気も起きなかったらしく、素直に俺の言葉に従ってくれた。


帰路に着こうと歩み始めると、後方でバサバサっとおとがした。


俺たちが歩いている少し後ろ辺りで、ちょこちょこと着いてきているようだ。


「ねえ、あいつ射って良いわよね。ねえ」

「駄目だって。アイリスの従者なんだから。後で、僕が怒られるよ」

「従者? なんなのそれ」

「ペットみたいな感じかな……?」


アニーはちらちらと後ろを見ながら、ティアを支えている側とは反対の方で持っている弓を握りしめている。

射ちたくて、射ちたくて、仕方がないように見える。


「駄目だからね」

「えー……」


アニーはあからさまに、がっかりしている。


「変わりに私が()るから」


すっと、イオは持っていた杖を両手に構える。


「駄目! 駄目だからね」

「だめよ! わたしが()るんだもん!」

「もん! じゃないって!」


()るという言葉に、殺意が込められたすぎて、全く冗談に聞こえない。

いや、冗談ではないんだ。

二人は、ターキーを確実に仕留めに掛かっている。


「じゃあ、僕が()るとするさ!」

「どうぞどうぞ、ってならないからね!」


必要以上に疲れた体を引きずるように歩き、ようやく我が家に帰り着いた。


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