46話 邂逅
書いて書き直しが無限ループでぐーるぐる
昨日、肉屋のおっちゃんお願いされたため、俺達は調査を行うために森へ入った。
「前、僕が言った通り危ないと思ったら、すぐ逃げよう」
兄さんとティアは頷いて答えてくれた。
けれど、どこか前回調査するために森へ来た時より、どこか、気が緩んでいるように見える。
まぁ、今回もどうせ大したこと無く調査は終わるだろうし、無駄にとやかく言う必要は無いだろう。
何か起こりそうだったら発破をかければいいだろう。
アイリスは相変わらず、楽しそうにターキーを散歩させている。
鼻歌交じりで。
アイリスが外出する時には、よほど理由がない限り、ターキーを縄で繋いだ状態で引き連れ回している。
余程気に入っているのだろう。
(主様、気をつけてください。魔力はそれほど大きくないのですが、今日の森は、いつもと違う雰囲気の魔力の気配を複数感じます)
俺はちらっとケット・シーの方へ目線をやり頷いた。
周囲を警戒して森を散策しよう。
俺はどこか緩んでいた警戒心を、少しばかり引き締めるため、顔を両手でぱしっと叩いた。
「ん? あそこで、何か倒れてるぞ」
兄さんが顔を向けている方へ視線をやると、小さくて良く分からないが、確かに何かが倒れている。
見た感じ、人間ではなさそうだ。
小さな何かは、遠目で見ても体中が毛で覆われているのが何となく分かった。
その小さな何かは一切動く気配がない。
獣が寝ているのだろうか。
しかし、この不安感は何だろう。
前世で見る、たまに道路で横たわっている獣を遠目でみるような気持ちの悪い感覚だ。
俺達は恐る恐る、倒れている何かに近づく。
「うわぁ、ビッグラビットの死体だ……」
「本当だな。何かに切り裂かれてる」
「肉屋のおっちゃんが言ってたのって、このビッグラビットの事だよね」
その倒れている何かは、ビッグラビットの死体だった。
おっちゃんが言っていた通り、その身体は切り裂かれており、それが原因で死んだということがひと目で分かる。
「なんか、刃物で切りつけられたような傷だねー」
「本当だな」
そのビックラビットは、傷を見る限り、鋭利な刃物で切られているようだった。
それは、魔物が付けれるような切り傷では無いだろう。
もみくちゃに争ったとしたら複数の小さな切り傷が出来るのだろうが、このビッグラビットにある傷は、首元から足の付根まで出来た一筋の切り傷が1箇所のみだ。
その傷が出来た理由を分かった俺は、背筋にひんやりとした物を感じた。
この状態から考えられる事、その答えはすぐに理解できる。
自由に扱える腕を持つ生物が、刃物を持って切りつけたという事が。
ここは人があまり通らない森の中だ、危ないヤツが彷徨っていてもおかしくない。
ゲームのような不思議世界にいるため、その事が頭から抜けていた。
(2つの反応! ものすごい速さでこちらに! 気をつけてください!)
その場から離れようと決断する寸前、ケット・シーから警告が発せられる。
俺は遅れてしまった判断に後悔しながら、武器に手をかけ、いつでも戦闘出来るよう構える。
「みんな気をつけて! 何かが近づいてきてる!」
俺より武器を素早く構えている人物が目の端に映る。
アイリスだ。
アイリスは父さんの部屋で見つけた短剣を持っている。
確か、ククリとかいう種類の剣だったはず。
刃の内側へくの字に湾曲した刀身を持つ短めの剣だ。
武器を構えたアイリスにつられ、俺達は皆、素早く武器を構えた。
いつもと違うアイリスの様子に、この状況は尋常でないと感じ取り鼓動が早くなる。
皆の表情もいつもより険しい。
少しずつ、ざっざっと、何かが地面を蹴り飛ばすように踏みしめる音がどんどん近づいてくる。
遠目だが、その音の主は2つ。
身長は村の人間より頭1つ2つ飛び抜けるほど大きい。
体躯は普通の人間より一回り二回り大きく、がっしりしているのが分かる。
森の中で熊と出会ってしまった時がこんな感じなんだろう。
遠目に見ても分かる半端ではない存在感に俺は恐怖し、息が詰まる感覚に襲われた。
剣を持つ手が震えている。
そいつらはあっという間に俺達の目の前に立ちはだかる。
そのふたつの姿の異常さに全身が震えた。
明らかに人間では無い。
そこには、2つの足でしっかりと直立している獣が2頭いた。
「カハッ、カヒハ」
1頭は、顔を見た限り恐らくイヌ科なのだが、その風貌は、人に飼われているイヌのような柔らかい印象を全くというほど感じられない。
狼のように、野性味の溢れている。
今にも噛みつかれてしまいそうな恐怖を感じる。
しかし、イヌ科のそれとは違う気がする。
なぜそう感じたのか。
それは、背中に虎のような模様が目に入ったから。
上半身は革の胸当てを身に着けているだけで、強靭な肉体が体毛に覆われているのが、この目ではっきりと分かる。
「ゲギャ」
もう1頭は、爬虫類のようで、トカゲのような風貌をしている。
いや、丸みのある顔は、どちらかと言うとカメ科の生物に近い気がする。
前世で見たような、おっとりした愛嬌のある印象を受けるカメとは全く違い、筋骨隆々な体躯と鋭い目は、自ずと生命の危険を感じる。
完全に捕食者の目だ。
荒々しく、歴戦の戦士を思わせる。
イヌの様な獣と同様、革の胸当てをしている。
しかしこちらは、上半身を多い隠せる程の、かなり大きな甲羅らしき盾を装備している。
その2頭は人の言葉を話せないのだろうか。
荒い息を吐くような音を出している。
お互いを見ながら会話をしているのだろうが、何を言っているのか全く分からない。
ヤバイ。
まずい事になった。
この2頭、獣の風貌をしているのだが、日本の足で立っており、2つの腕は自在に扱えるだろう。
完全に人型だ。
柔軟な肢体から繰り出される手段が、手に取るように分かる。
俺達は人型の生物を相手にしたことなんて無い。
絶対、俺達の手に負えるような相手じゃ無い。
一瞬で、それが、理解できた。
生物の本能から発せられる警鐘が激しく鳴っている。
「やばいやばい!!! 全力で逃げる!!!」
その言葉で俺達は皆が村の方へ全力で駆け出す。
「カハッ」
獣が吐き出す息のような声と。地面を蹴るような音が俺達の後で鳴った。
俺達は全力で走った。
兄さんは、いつもと違って焦燥感にあふれるような表情をしている。
無呼吸で走っているんだろう、とても苦しそうな表情をしている。
ティアは、異常な状況にとてつもない恐怖を感じたのだろうか、とても辛そうで、今にも泣き出しそうな表情をしている。
アイリスは、いつも表情に変化がほとんど無いのだが、眉間にシワを寄せてチラチラと後を振り返り、いつでも武器で戦闘が出来るよう、ククリを逆手で持ち、姿勢を低く構え走っている。
しばらく。
と言っても10秒も走っていないだろう。
その間は時間で言うととても短いものだが、目の前が真っ白になりそうな感覚の中、全力で走るのは、とても長く、辛い。
俺達の目の前に、イヌ型の獣が土煙を立てて、地面を削りながら立ちはだかった。
俺達はそのまま進む訳にもいかず、急停止する。
真っ直ぐ進むことは諦め、横に逃げようとしたら、そのイヌ型の獣が素早く動き、一瞬で立ちはだかる。
ちらっとうしろを見たら、一足遅れてカメ型の獣が追いついて来たのが分かった。
俺は逃げ切ることが出来ないことを一瞬で理解し、戦って身を守るしか無いと理解した。
「戦闘準備!」
俺の掛け声で、兄さんとティアが武器を構える。
しかし、二人は恐怖からくる震えで、とても戦えるように見えない。
アイリスは俺が声を掛けるより早く、いつでもククリを繰り出せるよう構えており、完全に臨戦態勢になっていた。
俺は深呼吸をして冷静を保とうとした。
だが、恐怖からの全身の震えと、止まる様子のない激しい動悸で、今にも胃の内容物を吐き出してしまいそうだ。
その俺達を見たからなのか、イヌ型の獣は腰にかけていた直剣を片手に構えた。
後のカメ型の獣の方を見たら、両手を軽く上げ、肩をすくめていた。
カメ型の方は、戦闘意欲は無いようで、獲物を構える様子は無い。
どうやら相手をするのはイヌ型の獣だけのようだ。
都合が良い、イヌの方と戦っている間に隙きを見て逃げるしか無い。
いや、逃げれるのだろうか先程も一瞬で追いつかれてしまった。
逃げ切れる可能性は、ほぼ皆無だ。
どうしても戦闘は避けられない。
覚悟を決めるしか無い。
意を決するしか無い。




