43話 村での生活
ブックマーク、評価ありがとうございます。
おかげさまで、楽しく物語を描けております。
引き続き楽しんでもらえると、嬉しく思います。
俺は、ティアが座っている場所から近い所に移動して、魔力の扱いについて、新しくなにか出来ないかと考えることにした。
ブレインストーミングからマインドセットしてアジェンダからクリエイティブなアイデアをコミットするのだ。
そう、俺は意識高い系転生者になるのだ。
と考えてみたものの、正直、言葉の意味は分からんし、単語のつなげ方が合っているかも定かではない。
なんだよ、ブレインストーミングって、日本語で表現すれば良いじゃないか。
そんな事を考えながら、魔力の扱いについて考えていると、すたすたとアイリスが近寄ってきた。
じとっと俺を見つめて、なにか訴えかけているようだが全くわからない。
首を傾げてを見ていたら、すっと手を伸ばしてきて、俺は驚いて、どうすればいいか分からず固まる。
「さっきので魔力減ったの。魔力ちょうだい」
そう言って、俺の腕をぱしっと掴んできた。
あぁそう言うことか。
俺は、ひやっとした感覚に、アイリスの体調が心配になりつつも、俺は少しづつ魔力を供給を始めた。
「さっきの、魔力使って動いてたんだ」
「そう。割と魔力使うから、結構疲れるの」
魔力使うと、あんな動きが出来るんだ。
俺も出来るのだろうか。
感覚としては、身体強化と大して変わらないと思うから、そんな感じでやれば上手くような気がしてはいるのだけど。
「どうすれば、アイリスみたいに動けるかな?」
「……ぐぐっと魔力を固めて、がっと膨らませてから、どんって爆発させるの」
あぁ……アイリスは感覚型の天才タイプなんだね。
それじゃ全く伝わらないんだけど。
具体的に説明してもらえないだろうか。
「魔力が溜まってるともっとたくさん使えるんだけど、今はあんまり無いからちょっとだけ使ったの。セリニスがいると便利ね」
便利。
俺はガソリンスタンドか何かなんだろうか。
感覚としてはほぼ毎日魔力供給をしているから、頻度としては普通の車と変わらないのではないのだろうか。
しかしだ、ほとんど動かず、大人しくしているにもかかわらず、供給していると考えると、燃費の悪さがとても気になっている。
まるで、燃費の悪いスポーツカーを相手しているような感覚だ。
先程アイリスが言っていたことは、なんとなく理解できる。
魔力を使って身体強化すれば、似たような事出来るかもしれない。
今は、多少走るのが早くなったり、剣を振りやすくなるだけだから、アイリスみたいには動けないけど、訓練すれば似たようなことが出来るかもしれない。
戦闘力を上げるのであれば、とうぶんこの方法を試してみよう。
「そろそろ、十分な魔力溜まった?」
「そう、ね。この位あれば、ある程度は問題ないかも」
アイリスは俺の腕から手をはなして、手を握ったり開いたりして、感覚でも確認している。
体の調子を確認して、問題ないと思ったのだろう。
先程まで居た木の下まで戻って、ちょこんと座った。
さっそく身体強化の練習をしてみようと思い、考えてみる。
いつもより多めに魔力を腕に貯めた所で、腕がきしむ感覚に驚き魔力を貯めることを諦める。
あまりに強く貯めると、腕が悲鳴を上げて、痛みを感じるのだ。
前も試したのだが、全く同じ結果に終わった。
「やっぱり痛いな。うまくいかないものだね」
俺はがっかりしながら、頭をぽりぽりと掻く。
「私も痛みは感じるけど」
「え、そうなの?」
「うん、何回か練習すれば、少しずつ痛く無くなるの」
筋トレみたいなものなのだろう。
俺は昔、前の俺のことであるが、その時に教えてもらった効果的な筋トレ方法を思い出そうと、うーんと頭をひねる。
インターバルは短く行い、もう無理だと思った所からさらに数回行う。
その時の限界を超えるためだ。
食事にも気を使わないといけない。
筋肉が傷ついたら、傷ついた部分を修復するために、プロテイン、タンパク質を摂取しなければならない。
しかも、その量は普通の食事では補いにくい。
量としては、一日で必要な量としたら、体重1kgあたり、1gだったはずだ。
成人の場合、強めに運動した日であれば、最低でも60gほどは欲しいそうだ。
これが、普通の食で補おうとすると、なかなか難しい。
たまごだと、100gの内12gほどタンパク質を摂取できる。
100gと言うと、だいたいMサイズのたまご2個半だ。
ということは、一日に食べないといけないたまごの数は、およそ15個必要になる。
そんなの、ほぼ無理だ。
だからプロテインで補うのが効率が良いそうだ。
あとは肉体に、血液を張り巡らせるとか記憶している。
たしかパンプアップとか言われていたはず。
それらを魔力に行うと考えるとだ。
筋トレは、アイリスが言ったとおり、魔力を使用して肉体に負荷をかけること。
栄養摂取は、魔力を体内に集めること。
パンプアップは、魔力を体内に張り巡らせることになる。
これらの方法が正しいのか、全くわからないが、何もしないよりマシだと思う。
現状、魔力の操作方法について良いアイデアが思いつかず、マンネリ化していた所であった。
さらに強くなる事ができるかもしれない次の目標が出来たので、やる気が出てきた。
よし、と思い、早速試してみるため、木剣を手に取る。
そして、準備運動のため、いつものように素振りを行う。
体の動きが柔らかくなってきたことを確認できた所で、身体強化を行うときと同様、体内の魔力を痛みが感じる程度腕に集め、アイリスが言っていたように体内魔力を爆発させるように操り剣を振るう。
すると確かに、いつも以上に剣を振るう速さに変化を感じ、風をきる音が、強く鋭くなったのを実感する。
俺はその結果に軽く目を見張る。
確かに、いつも以上に剣の重さを感じにくく、威力がましたように感じるのだ。
しかし難点がある、直後、筋肉がきしみ、いつもより体を重く感じ、疲労感を覚える。
ここまでの流れは、いつも行っている方法と変わらない。
もし、筋トレ方式が正しいのであれば、普段から訓練をしないと、いざとなった時に困るのは俺だ。
試行錯誤しながら試すしか無さそうである。
明日の予定は特に無いし、今日は無茶しても問題は無いはずだ。
しかしだ、もしかしたら、もしかしなくても、戦闘に応用し辛いのではないだろうか。
俺の役割は、機動力で皆のサポートをすることだ。
無理をして動けなくなってしまっては、皆のサポートが難しくなる。
ただのお荷物になってしまう。
使い方を間違えないようにしないといけない。
その後、何度か試した所で、突然体が悲鳴を上げた。
腕を肩辺り上げようと思っても、力が入らず震えてしまい、腰の辺りまでしか上がらないのだ。
そして、足ががくがく震え、完全に棒になってしまった。
調子に乗り、魔力に頼ってトレーニングを行った結果、体が許容範囲を超えてしまったのだろう。
魔力で体の動きをサポート出来るため、ある程度無理をしても動けたから、体の限界に気づけなかった。
その日は、兄さんとティアに手伝ってもらい、なんとか家に帰り着いた。
夕食もティアが一人で作ることになり、風呂に入るのも、兄さんとティアに手伝ってもらった程だ。
次の日も、朝起きたら体がバキバキでまともに動けず、一日中ロボットダンスをしているような動きで生活をするはめになった。
ケット・シーからは、ぷぷぷーっと笑われ、隙きあらば体を突かれる始末だ。
そのたび体に激痛がはしり、地べたを這いずり回る事になった。
この化け猫、覚えていろよ。
結局、まともに動けるようになるまで、一週間ほどかかった。
それまでは、魔力操作でで身体活性と成長促進を行い、自然治癒力を上げた結果で1週間だ。
普通の人間だったらどの程度かかっていたのだろうか。
そう考えると、肉離れレベルで体が傷ついていたのではなかろうか。
きっと、何かしらの病名がつく状態だったんだと思う。
許容範囲を見定めるのは難しいだろうけど、何度か試して感覚で理解するしか無い。
それまで、毎回苦労すると考えると億劫だけど、試すしか無いのだろう。
今の所、戦闘力を上げる方法は、魔力を爆発させる身体強化で活動限界を超える、一時的な機動力の増加訓練しかないのだから。
しばらく魔力トレーニングを続けて様子を見るしか無いのだろう。
◇
そんなこんなで、日々は流れてゆく。
俺は相変わらずで、魔力トレーニングをしては寝込みを繰り返していた。
正直の所、どの程度動けるようになったか分からない。
なにせ数値で表せることでは無いから、自分自身が強くなっているか不安になる。
それでも確実に、魔力を爆発させるような、無理やり体を動かすような身体強化を行った際には、機動力、攻撃力が上がっているのは、はっきりと分かっているから、今後も訓練を続けよう。
アイリスは相変わらず表情が読み取りづらいのだが、村の人間とは、それなりに上手く言っているようだ。
いつの間にか近所の人とも顔見知りになっていた。
きっと、ティアに連れ回されて、挨拶をして回ったんだろう。
不機嫌そうな顔をしていたが、嫌だったら付いて行く事はしないだろうから、きっと、関心はあるんだろう。
アイリスは、愛想はそこまで無いのだが、どちらかと言うと人見知りと受け取れる方だろう。
そんな所が愛嬌といった感じで、村の人から暖かく受け入れられているようだった。
一人ふらっと外出したと思ったら、野菜だとか肉だとか抱えて戻ってくることが多々あり、その度、抱え込んでる食料の重さのせいなのか、少し不満そうな表情で返ってくる。
その後はリビングで、むすっと座り込むのがお決まりだ。
けれど、本気で怒っているわけではないはず。
アイリスは、性格的に嫌なことは絶対にしない。
戦闘訓練で言うと、俺達が誘っても、気が向かない限り動こうとしない。
そんな時は、眠そうな顔のまま、無言で抗議してくる、完全拒否状態だ。
俺たちは、もうアイリスの性格を理解したから、必要以上には誘ったりすることは無い。
無理やり訓練をするようなものでは無いと考えている。
「おう、坊主共。なんだか森で魔物が増えてるみてぇだ。暇な時に魔物がりしちゃくれねぇかな」
ここ2,3日に一回は、おっちゃんの依頼により、森へビッグラビット狩りを行うのが日常となっている。
この間、街の近くで出現したエルダーコックと出会う事はそうそう無いらしいから問題ないだろうから、比較的安全に狩りが行える。
ワイルドコックすら見かけることはない。
こっちにはケット・シーセンサーがあるから、危険を察知すれば即刻退却すれば良い。
しかし、村に来てからというもの、ケット・シーセンサに反応するほど危険に遭遇する事は無かった。
いつもの様にビッグラビット狩りを行い、肉屋のおっちゃんにまるごと買ってもらい、譲ってもらったビッグラビットの肉を近所の農家の夫婦におすそ分けをして、農作物を頂いているいつもの日常だ。
俺はこういったのんびりとした暮らしは好きだから、ここ最近の充実した暮らしがとても気持ちが良い。
そうそう、アイリスは限定的ではあるが、ティアと互角かそれ以上の程度戦闘が出来る事が分かったから、ビッグラビット狩り程度であれば問題ないと考え、狩りに付いて来てもらっている。
ビッグラビットは俺達の誰か一人でも対処出来る程度の魔物だから、ほとんど心配ない事もそうさせている。
狩りに連れて行っか理由は他にもある。
アイリス一人で家に置いていると、なぜだかとても不安だからだ。
それにやることもなく家にいるのも暇だろうと考えたことも一つの理由なんだけど、なるべく目の届く所に置いておきたい。
問題を起こすことは無いと思うのだが、まだ、アイリスの事を全て知っているわけではないから心配なのだ。
一応、アイリス本人に狩りに付いて来るか尋ねたら、「行く」と言っていたから、興味はあるのだと思う。多分。
アイリスの戦闘能力は、あの一軒以来戦っている所を見ていないから良く分かっていない。
一度ビッグラビットと戦ってみるか尋ねてみたら、顔を顰めてとても嫌そうな顔をされた。
もしかしたら、戦闘を行うのは嫌いなのだろうか。
もしくは、戦うのが面倒なだけなのか。
アイリスの性格上、きっと後者なんだろうな思ってはいるのだけど。
一度ティアと手合わせをした時の動きは、素人のそれではなかったから、アイリスの戦闘は一度見せてはもらえないだろうか。
魔力にて身体強化を行った戦闘を参考にさせてもらいたいのだけど、いかんせんアイリスは、狩りを全くやりたがらない。
しかし、アイリス。
まともに家事は出来ないし、狩りも行わない。
ただのタダ飯食いだ。
料理には興味があるようで、ティアに包丁の使い方、食材の扱い方を教えてもらいながら、少しずつではあるのだが料理の技術を上げている。
アイリスとティア二人には仲良くしてほしいから、俺はほとんど関与せず、アイリスの料理教室は全般的にティアに任せている。
初めて二人が出会った時よりは、ぽつぽつと会話もしているので仲良くなってきていると思う。
いつか、アイリスの料理が堪能できる事を期待して待っていよう。
アイリスは、兄さんとティアの事は嫌いでは無いようで、仲良くしたいように見受けられる。
たまに声を掛けようとしているのだが、上手く出来ないようで、ちらちらと二人の様子を伺っては、一歩近づいては、距離を置くといった感じだ。
あまり自分からアクションを起こすのは苦手なようで、四苦八苦している。
いや、数値的には千荊万棘かな。
先はとても長そうだ
そんな、アイリスの頑張っている様子がほほえましくもあり、面白くもあるから、つい俺がにやにやと見てしまう。
そうすると、アイリスはこちらを見て、眠そうな目を更に細め、無言の怒りをぶつけてくる。
そうなったら、俺は目線をそらして、すすっとその場から退却するのがいつもの流れだ。
しかし、その後の魔力供給の時に、両手で俺の左右の二の腕あたりをがしっと掴まれ、正面からずっとにらみ続けられる。
しかも、普段、魔力供給を行う時間よりも長い間で。
ほとんど変化をしない表情で、じとっと見つめられるのだからとても怖い。
その、静かに燃える怒りを、物理的にぶつけられたらどうなるのだろうか。
それはそれで……いや、止めておこう。
と、アイリスのいる生活は面白くもおかしく、それなりに上手くやっていると思う。
最近は日常生活は、だいたいがそんな感じだ。
そして、ある日のことだった。
「坊主共、ちったぁ頼まれ事されちゃあくれねぇか? 森へ狩りに行って欲しいんだがな。あー無理だったら断っていいぞ」
肉屋のおっちゃんに、いつもとは違う流れで魔物狩りを依頼されたのだ。




