42話 村を案内
話し合いの結果、今日は、アイリスに街を案内し、その後は何時も通り訓練をすることになった。
準備をして出かける。
兄さんとティアは剣術訓練をするから、いつもの戦闘用装備をしている。
俺とアイリスは、剣を振り回すつもりはないから、ラフな格好だ。
アイリスはティアから服を借りたようで、上は半袖のシャツの上にポンチョを羽織っていて、下はハーフパンツといったスタイルだ。
季節的に暑くない程度のぽかぽか陽気のだが、日が傾くとすこし冷える。
ティアの気遣いが垣間見える。
そして、綺麗な顔立ちをしているのに、可愛目な服装ですこしちぐはぐ感は否めないが、それはそれでまた良い。
俺は、いつもの服を適当に見繕って、無造作に着た程度だ。
しかし、案内と言ってもなぁ。
人口は少なく、だだっ広い平原のため、少し高い丘に登れば、全体を見渡せるてしまう程度の規模の村なんだ。
1,2時間使ってしまえば事足りる。
前をティアとアイリスが並んで歩いており、ティアがアイリスへ説明している。
そのため、俺と兄さんは特にすることがない。
だから兄さんは、剣を振り回す感覚を体に馴染ませるためなんだろう、道端に生えている雑草をばっさばっさ切っている。
並んで歩いている俺は、ひやひやしながらも少し距離を置いて、ティアとアイリスが怪我をしないよう、警戒している。
「あそこが私の家でー、あそこの家から今日のサラダに使った野菜を貰ってるんだよー」
アイリスは相変わらず、あまり変化のない表情でティアの説明を聞いており、ティアが指を差すたびに、そちらへ顔を向けているようだった。
ちゃんと聞いているのだろうか、ぼっーっとしているように見えるため、すこし不安になる。
少し歩いて、村の中央にある、俺達が食材を買っている通りについた。
「おー、お前ら今日は狩りに行くのかー?」
肉屋のおっちゃんが、大きな声で俺たちに声をかけている。
おっちゃんに呼ばれた俺達は、肉屋へと足を運ぶ。
「ちがう、今日はアイリスに村を案内して、そのあと剣の練習をするんだ」
兄さんは視線をアイリスのほうへ向けた。
それにつられて、肉屋のおっちゃんが、アイリスの方を見る。
「これまた可愛いお嬢ちゃんだな。ここの村の子じゃないよな」
「うん、隣街で出会った子なんだけど、両親もいなくて一人だったから、いろんな人と相談して、僕たちの家に連れてくる事になったんだ」
アイリスの事は正直に伝えるのは良く無いと思ったので、俺はそう答えた。
兄さんとティアはこちらをみて不思議そうな顔をしていたが、俺はまぁまぁと顔で答える。
「そりゃ大変だな。困ったことがあったら何でも言えよ!」
「うん、ありがとう」
肉屋のおっちゃん、相変わらずいい人だ。
「そういや、冒険者ギルドに依頼した魔物討伐、お前らも手伝ったんだってな」
あれ? その情報いつの間に伝わったんだろう。
本当は俺達だけで討伐したんだけど、ギルド長の情報操作が上手く言っているようだ。
有り難い。
「すげぇな。流石、アレックスとシリウスの子供だ」
なんか、勝手に納得してくれた、都合が良い。
「村からの依頼はお前らにお願いすれば良さそうだな!」
「あ、はい」
勢いに押されてしまい、つい肯定してしまう。
しかし、冒険者ギルドを通さず、冒険者ギルドに依頼されるような案件を解決しても良いのだろうか。
今まで、ビッグラビットは勝手に狩ってたから問題ないと思うんだけど。
「じゃあ、僕たちはアイリスを案内しなくちゃいけいあんで」
「おう。お嬢ちゃんに、村の事、好きになってもらうように頑張るんだぞ!」
がははと肉屋のおっちゃんは快活に笑っている。
俺たちは肉屋のおっちゃんに手を振って別れた。
「ねぇねぇ、なんでアイリスのこと、嘘ついたの?」
アイリスが訝しげに、さっき肉屋のおっちゃんに話したことを尋ねてきた。
「うーん、正直に答えるのは良くないかなぁって。アイリスは一人で森をうろついてた不思議な子って正直に答えたら、おっちゃん誰に何を言うかわからないからさ。そしたらアイリス、誰かにどっかに連れていかれるかもなって思って」
正直に、魔力を吸い取れる不思議な子って、言えるわけないし、冒険者ギルドに伝えられたら、しかるべき機関に連れて行かれて、施設に入れられうかもしれない思ったのだ。
それに、俺が魔力供給しないと死んでしまうだろう。
分かっていながら、見す見す死なす訳にはいかない。
「ふーん、そうなのかー。アイリスいなくなったら寂しいから、わたしも黙っておくよ!」
「お願いね」
兄さんは頷いていた。
理解してくれたようだ。
アイリスは眠そうな目でこちらを見ている。
アイリスは基本無口だし、自分のことを自ら話す事は
無いだろう。
俺から魔力も欲しいだろうし。
パンや雑貨など、村で買い物する時はここだとか、綺麗な景色が見える場所はここだとか、この池には何がいるんだとか、そんな些細な事を説明して、村の案内は一通り終わった。
なので、今、俺達は、いつも訓練に使っている丘の上に来て、訓練を行っている。
アイリスは相変わらず眠そうな目で、体育座りをしながら二人の訓練の様子を見ている。
「ねぇねぇ、アイリスは剣とか使えるのー?」
兄さんは疲れたのだろう、座り込んではぁはぁと肩で息をしているのが見えた。
一通り剣の練習が終わったのだろう。
アイリスが剣が使えるのか気になったのか、顔をぱっと明るくさせたティアが声を掛けた。
この辺りじゃ、好んで剣を振る女の子はいない。
たまにだが、練習の相手として打ち合う事もあるのだが、ティアは物足りないようで、いつも不満そうな顔をしている。
女の子どうして訓練が出来ることを期待して声を掛けているのだろう。
「少しだけ」
「そうなんだ! じゃあわたしがアイリスの攻撃を受けるから、一緒にやってみようよ!」
そう言って、ティアは俺が持ってきた木剣を受け取り、アイリスに渡した。
アイリスは重さを確かめるように、ぶらぶらと木剣を振るっている。
「ちょっと大きい」
ぼそっとアイリスがつぶやいた。
この木剣は、普通のサイズだと思うんだけど。
父さんや、カイル達が使ってるとそこまで変わらないし。
「良いよ! アイリス! 打ち込んできて!」
アイリスはうんと頷き、ティアに近づいていった。
アイリスが剣を振るう所なんて、全く想像がつかない。
どこか箱入娘のような、剣を持ったことすらないようなお嬢様に見えるのためそう感じる。
アイリスは片手に剣を持ち、腕を上げ、ティアの盾めがけて剣を振るった。
ティアはいつも使っている剣と盾で、うまくいなしている。
アイリスは木剣に振り回されているようで、時々ふらふらと軽くよろめいているが、あまり苦労せず剣を扱っているようだ。
眠そうな目をしながら、あまり変わらない表情で剣を振っている。
だから、そんなに大変そうに見えないのだろうか。
アイリスの力は弱いようで、剣を振るう速度は遅い。
盾に当たる剣の音は、かんかんと弱々しい。
そうだよな、普通の女の子だしね。
そんな物だろう。
アイリスは普通の人間じゃないし、何か凄いことをやってのけると思ったのだが、そんな事は無いらしい。
アイリスには悪いが、少しばかり期待はずれだ。
アイリスは何度か剣を振るった後、疲れたようで、ぶらんと腕を下げて、剣をぶらぶらさせている。
俺はそこまでかなと思って木剣を返して貰うため、アイリスに近づき、手を差し伸べた。
「お疲れ様。あっちで休んで、二人の訓練見てようか」
けれど、アイリスは木剣を返す気配がない。
俺は差し伸べた手を引っ込めるタイミングを失ってしまい、どうするべきかと固まる。
「ま、まだやるの?」
どうするべきなんだろうか。
アイリスは無言のまま、未だに眠そうな目で剣をぶらぶらとさせている。
俺はどうするべきか分からず、とりあえずアイリスから離れて様子を見ることにした。
ティアも困っているようで、小首を傾げてアイリスをみつめている。
しばらくして、アイリスは、腕を上げて剣構えた。
けれど、正直、剣を構えているようには見えない。
だって、腕に直角になるよう、正面にただただ突き出しているだけなのだから。
その剣をぼーっと眺めているだけなのだから。
「まだやるー? いいよっ、練習しないとね!」
そう言ってティアは盾を構えた。
アイリスは盾を構えた、ティアの方へ目線を向けた。
アイリスとティアの距離は少しばかり離れており、何歩か歩かないとアイリスの剣はティアに届きそうにない。
俺は心配しながら、二人の様子を眺めていた。
少し経った頃だろうか。
アイリスは剣を体の斜めしたに下ろした。
そして、剣を逆手に持った瞬間だった。
雰囲気が完全に変わった。
木剣を持った方の足を少し引き、持っていない方の足を少し前へ出し、木剣を持っていない方の手を軽く前へ突き出す。
そして、先程まで明らかに剣の扱いがなっていない上に、剣に振り回されていたため、まったく様になっていなかったけど、剣を逆手に持ち替えた瞬間、昔から剣を扱っているかのように、木剣が体に馴染んでいる様に見える。
ティアは先程まで手を抜いていたようにゆったりと構えていたのだが、アイリスの構えが変わり、雰囲気が変わった瞬間、魔物と対峙する時のような気合を入れた構えになる。
少しして、アイリスの髪が少し輝いて、ぶわっと、持ち上がるようになびいた。
次の瞬間、アイリスは力強く一歩、二歩と踏み出す。
今までふらふらとした動きとは打って変わって、足取りも確かで素早い動作に俺はあっけにとられた。
その速さは、さきほどより少し早い程度ではない。
あっという間にティアとの距離を詰めた。
ティアもかなり驚いたようで、たじろぐように後ろへ距離を取り、躱そうとしたのだが、足がもつれて体のバランスを崩しそうになった。
回避が間に合わないと判断したのか、アイリスの攻撃を受け止めるため、なんとか防御しようと盾を構えた。
ティアの目前にアイリスが詰め寄り、切り上げるように剣を振るう。
その剣は的確に盾に当たり、カンッ! と鋭い音を立て、盾を構えていた腕を弾き飛ばした。
ティアは軽く後ろへ押されて、どすっと尻もちをついた。
驚きのあまりに、目を白黒させてアイリスを見ている。
「やっぱり、大きいから上手く出来ない」
アイリスはそう言って、また剣をぶらぶらさせている。
様子を見ていた、俺と兄さんも驚いてしまい、しばらくぽかーんとアイリスを見ていた。
「はい」
少しして、俺の前に突き出された木剣に気づいた。
「あ、う、うん」
まだ意識が完全に現実に戻っていない俺は、おそるおそる剣を受け取った。
「ちょっと疲れた」
そういって、アイリスは木の下に移動して、ちょこんと座った。
何だったんだ。
俺と皆は顔を向けあって、唖然としていた。
「す、すごいね。びっくりしたよ」
ティアは立ち上がり、持っていた盾と剣を収めてぱんぱんと服についたホコリを払う。
兄さんはアイリスのマネをして、剣を逆手に持ち、走って思いっきり剣を振るっている。
しかし、剣の重さに耐えきれず、アイススケートの選手のようにぐるんと回転し、ばたっとその場に倒れた。
兄さんは普通の剣だから、同じようにはいかないから仕方が無いと思う。
「アイリス強いんだね、びっくりしたよ!」
「そうでもないわ」
ティアの目がキラキラと輝いて、アイリスを尊敬するような表情で見ている。
「もっとがんばらないとね!」
アイリスは両手を胸の前に構えて、拳を握り、ふんすと気合を入れている。
剣術が苦手な俺は、心の中で頑張れと応援するだけにしておいた。
「ティア! もっと練習するぞ!」
「うん!」
兄とティアは張り切って練習に戻った。




