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32話 外套の内側

ブックマーク有難うございます。とても嬉しいです。

引き続き楽しんでもらえると嬉しく思います。

驚きのあまり、俺は、フードを後ろに下ろした時点の体勢のまま固まってしまった。

座っている人の頭を、両手で挟んでいる体勢のため、顔が近い。


髪の毛は白に近いグレーで、すこしクセを感じるロングヘアー。

しかし、血色が悪く、顔色が青白くて生気を感じさせないため、

まるで人形のようだ。悪く言えば死人だが……

性別はどちらだろう。女だと思うが、もしかしたら男かもしれない。

こっちの世界の、若い人間はあまり見慣れていないから、

正直な所、良くわからない。

なんか、中性的な顔立ちの人が多いし、髪型も、男の子でも伸ばしっぱなしの場合が多いし。

しかし、綺麗な顔の作りをしているなぁ。


と考えていると、肩をつつかれた。

突然の体に触れられる感覚で驚いてしまい、全身で跳ね上がるような反応をしてしまった。

この短時間で、驚いてばっかりだな。俺。

早く打つ心臓を落ち着かせながらも、つつかれたほうへ顔を向けると、

ティアが不思議そうな表情でこちらを見ていた。

俺は、なぜか気まずい気持になってしまって、そんな自分に戸惑ったりした。

別に、後ろめたい気持ちなんて無いんだが……


「両手。離してあげないと、困ってるみたいだよ?」

「あ、あぁ……」


どうやら、俺は思考中ずっと、

外套のフードに両手を掛けたままだったようで、なんとも気まずい。

伸ばした手を離し、両腕を後ろに回して、後手で組んだ。

学生の頃、体育の時間でやった、あの体勢だ。


いや、こんな事をしている場合じゃない。

この人はとても危ない状態にあるんだ。

正気に戻らなくては。俺、しっかりしてくれ。


「あの。大丈夫ですか?」


いや、大丈夫じゃないから、こんな所で座り込んでしまっているんだろう。

何か、適切な言葉を。しかし焦りからか、言葉が何も浮かんでこない。

彼女は俺のそんな言葉を聞いて、しばらくしてから再度、

力尽きたように項垂れてしまった。

まずい、会話が出来ないほど消耗しきってしまっている。

なんとかしなくては。しかし、なんとかって何をすれば。

俺は医療知識を持っていないから、

こんな時どうすれば良いのかさっぱり分からない。

自分の無能さに歯がゆさを覚える。


(主様。この方は、体内魔力がほとんど空の状態です。

私がおかしいと感じたのは、それが理由なんですが……)


……ん? 体内魔力が極端に低下?

という事は、旅の道中に、兄さんやティアにやったように、

魔力を流し込んで、身体活性を誘発させれば良いのだろうか。


俺はその場にしゃがみこみ、おそるおそる、その人の手に触れた。

一瞬反応したような気がしたが、恐ろしいほど弱々しかったため、

手に触れている俺しか気づかない程度の反応だろう。

そして、俺は触れた方の手で、その人の手と握手するように握って持ち上げた。

その腕は、全く力が入っていないからなのか、鉛の様にとても重く感じた。

気を抜くと、俺の手からするりと抜け落ちてしまう気がしたから、

手に力を入れて、その人の手をぎゅっと握る。

相変わらず、全く反応がない。

不味い、とても危ない状態なのかもしれない。

急がなくては。いや、急に流し込むと、良くないかもしれない。

ケット・シーの話だと、過去に爆散したり、燃えだしたりした人が居たようだし。

兄とティアの時には、ゆっくり流し込んだら、特に異常は無かったし、

きっと大丈夫なはずだ。


そして、ゆっくりその人へ魔力を流し込む。

兄さんや、ティアに流し込んだ時と同じ感覚で、

その人へ魔力が流れ込んで行くのを感じる。よし、問題なさそうだ。

しかし、その人は項垂れたままの体勢で、顔を上げようとしない。


「大丈夫ですか?」


再度、声を掛けてみたがやはり反応は無い。大丈夫なのだろうか。

俺に出来るのはこれ位で、あとは命運に任せて家に連れて行く事位しか出来ない。

しかし、この状態だと、この人を1時間かけて家まで運んだとしても、

無事に済むとは、とても思わない。

せめて、会話が出来る位の体調まで戻ってくれないと安心できない。


俺は、暫くの間、神に祈る気分で、魔力を流し込む。

と、言っても、神様なんて信じていないが。

いや、幻神ってのが居るのか。少しは力を分けてくれないだろうか。

って、すでにある程度は分けてもらった状態なんだっけか……


「なんだ? 髪の色が変わってきたぞ」


え? 髪の色が変わる? そんな馬鹿な。

そんなの、どこぞの戦闘民族じゃないんだ。

人の髪の色が、そうそう変わってたまるモノか。


俺は、目線を上に上げて、その人の髪を見た。

髪の色、変わったようには見えないけどな。

俺は、髪をずっと見ていたわけじゃないから、変化した過程が分からない。

その人を発見した時の髪の色を思い出してみたが、

白よりのアッシュグレーから、変わっているようには感じられない。

変わっているのだろうか。取り敢えず、魔力を流し込み続けたほうが良いよな。

髪の毛を見ながら魔力を流し込み続ける。


「うわ……ほんとだ」


兄さんは嘘をついていなかった。確かに髪の色が変わっていた。

その人の髪色は、白よりのアッシュグレーから、

極端に別な色に変わっていないのだが、確かに、徐々に変わってきている。

表現方法が難しいが、一言で言うと、銀色に近づいている気がする。

白よりのアッシュグレーが、徐々に光沢を持ってきており、

その変化は、流し込んでいる時間が経過するとともに顕著に現れている。


今は殆ど銀色と言って問題ないだろう。

都会の子たちが染めているような、銀色とはとても似つかないシルバーではなく、

純度の高い銀を使用した、気品のある銀細工の様な光沢を持ったシルバーだ。


その髪色に見惚れていたら、その人がゆっくりと頭を上げて、

ぼうっとした表情で、こちらを見た。

暫くの間こちらを見ていたが、その人の表情は、

徐々に驚きの表情へと変化していった。


そりゃそうだ。

手を握られているだけで、体の調子が良くなるなんて、

そんな事、そうそうありえないもんな。

あ、でも回復魔法とかあるみたいだし、上手く誤魔化せば良いかな。


「あなた……だったのね」

「え?」


俺? 何が?

何を言っているんだろう、この人は。

俺は、この人を見るのは初めて出し、この人も俺を見たのは初めてだろう。

しかし、俺を知っていたような口ぶりだ。


「あの、何か人違いをしているんじゃ……」


その人は俺の言葉を聞いて、

何か考えているような表情になり、沈黙してしまった。


どうしたんだろう。

あ、そうだ、会話出来るようになったし、

魔力供給はこの位でいいかな。

そろそろ止めないと、不味いと事になるかもしれない。

体が爆散したら事だしね。

そう考え、俺は魔力供給を止め、その人を握っていた手の力を少しばかり抜いた。


「駄目……もっと、頂戴」


その人を握っていた手が、逆に強く握り返される。


「え?」

「頂戴、魔力。魔力そのものを操れるんでしょ?」


……え?

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