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31話 項垂れている人

ブックマーク有難うございます。

続きを投稿する活力になります。


引き続き、少しでも楽しんでもらえると嬉しいです。

確かにそこに一人……と言って良いのだろうか。

おそらく人間であろう人が、木にもたれ掛かり、座り込んでいた。

項垂れるよう見えるその様子は、明らかに疲れ切っており、

今にも、倒れてしまいそうな様子だ。


早く助けに行かなければ、という気持ちと、

もしかしたら、こちらに危害を加えるのでは、という気持ちが交錯し、

倒れてる人の所まで近寄る事が出来ない。

外套を羽織っており、頭まで隠しているため、

その風貌も相まって、近寄ることを、より一層、躊躇わせる。


くそう。

この場所からだと、その人の風貌をはっきりとは確認できそうにない。

一体どんなタイプの人間なんだろうか。

とてもじゃないが、ここから確認できる程度の情報だけで、

安易に声を掛ける事はしたくない。

この前のエルダーコックでの失敗があって、

ギルド長に注意されてしまったからこそ、あそこまで行く決意が鈍ってしまうんだ。


「どうしたの、セリニス。早く助けてあげないと」


ティアの言うとおりだ、ケット・シーの情報が正しければ、

あの人は瀕死の状態にある。

すぐにでも治療を行わないと、最悪……なんて事もあるだろう。


「そうなんだけど、あの人、良い人じゃなかったらどうしようかなって……

もしかしたら、僕等が危険な目に合うかもしれないしさ」

「むぅ、確かにそうだけどさ……」


ティアはそう言って、ちょっと不機嫌そうな顔をした。

ティアは今すぐにでも助けに行きたいんだろう。良い子だ。

もし、許されるのであれば、そのまま真っすぐ素直で良い子に育ってほしい。

っと、そんな事は今は良い。

あの人をどうするか、とにかく決断しなければ。

あぁ、どうするべきか。こんなうだうだ悩んでいる場合ではない。


そんな時、何かにふくらはぎ辺りを突かれた。

急な出来事に驚き、体が跳ね上がってしまったため、

兄とティアがとても驚いた表情をしてこちらを見ている。


「ご、ごめん。誰かに叩かれた気がして……気の所為だったよ」


変な言い訳になってしまい、不味ったなと思いながらも、

目線を、突かれた足元の方へ向けた。

そこには、こちらを見上げているケット・シーがいた。


(私が近くまで行って確認しましょう。

それなら問題ないでしょう?)


そうか! その手があった!

ケット・シーの姿は、人間からは見る事が出来ない存在で、

しかも、多少遠くにいても、念話で意思疎通が出来る。

わざわざダンボールに身を隠したり、大人向けの書籍をばらまいたりする必要がない。

なんて優秀な工作員だろうか。

すぐに、この考えが浮かばなかった自分に、少しばかり自己嫌悪しながらも、

ケット・シーの存在を有難く思う。


(じゃあお願いするよ。気をつけてね)

(はい。では、いってきます!)


ケット・シーはそう言って、タタッと駆け出して行き、

あっという間に、木の下で座り込んでいる人の前に着いた。


なにやら外套の一部である、フードに覆い隠されている顔を覗き込みたいのか、

座り込んでいる人の左側に行ったり、右側に行ったりしては、

頭を上に向ける動作を、何回か繰り返している。

項垂れるように座り込んでいる人は、首を思いっきり地面に向けているので、

どうしても顔が確認し辛いのだろう。

しばらく、ケット・シーはその人の顔を凝視したり、体の確認をしたりしている。


(大人ではないですね。武器も持っているようには見えません。

急いだほうが良さそうです。かなり消耗しているようで、命の危険を感じます)


命の危険。やはり、想定していた最悪の結果になる可能性が大きい。

これは、迷っている場合ではないだろう。


「二人とも行こう。一応、念のために、すぐ戦闘できる準備はしておいて……」


兄さんとティアの方を見ながら、そう伝えたら、

二人は頷きながらも、剣を抜き、臨戦態勢になった。

俺は、その二人の行為を確認し、俺の意思を読み取ってくれた事を、

どこか嬉しく思いつつも、頷き返すことでその場は済ませた。


そして、俺は意を決して、隠れている草木の影から体を出し、

倒れている人の方へ、一歩、二歩、ゆっくりと向かう。

二人は、後ろから着いて来ているようだ。

足音と気配で何となく察知する事が出来る。

背中は二人に任せればいい。

可能性は低いだろうけど、戦闘になった場合は、

魔法で牽制、圧倒してしまおう。

抵抗をしてきた場合は、申し訳ないが、俺の手で――

相手は瀕死だし、大した労力はいらないだろう。

とにかく、相手の確認だ、もっと近寄らなくては。


すぐ近くまで寄って確認した所、確かにその人は大人ではなく、

割と小柄で、細身な体格で、ティアに近いように見える。


俺は、近くに落ちていた木の棒で、肩の辺りを軽く突く。

すると、その人物はピクっと反応したが、体勢はそのままで、

反撃するような素振りは見せない。

俺は警戒しながらも、その人が被っているフードを両手で掴み、

後ろの方へを下ろす。

すると、その人は弱々しくも頭を上に上げ、顔をこちらに向けた。


驚いた。


こちらに向けられた顔が、あまりにも綺麗だったのだ。

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