29話 街を出る
それからしばらくして、俺達はエストルスの村へ帰る事にした。
結果的に、レイモスの街には2週間ほど滞在してしまった。
この街の人達は面倒見がよく、親切な人が多くて、とても居心地が良く、気づけばこんなに滞在してしまった。
俺としては、ずっとレイモスの街で暮らしても良いのだけれど、さすがに一度村へ帰り、報告をしなければならない。
両親が帰って来ていたら、とても心配するだろうし、ティアのお母さんも不安に思っている事だろう。
そんな事を考え、一度村に帰ろういう話になったのだ。
2週間程度だが、こちらの生活にすっかり馴染みきってしまった。
兄とティアも、特に不自由の無いこちらの生活が気に入ったようだった。
ティアは、孤児院の近所の人達と、顔を合わせば軽い世間話をする仲になっているようで、俺の知らない人と話している所をよく見る。
ギルド長から、人攫いの危険性を説かれたから心配になる事もあるけど、近所でよく見かける人達だから、問題無いと思う。
ああいう、人懐っこさというか、社会性のあるティアの性格はとても羨ましく思った。
兄さんと言えば、カイルと仲が良くなったようで、たまに二人でどこかに出掛けている。
装備を持って出掛けたりしていて、帰ってきた頃には埃まみれの上、擦り傷もつけて帰って来る。
二人で訓練でもしているのだろう。
毎回、呆れられながらも、イオに治療してもらっている所をよく見る。
そう言えば、イオから回復魔法を教わろうと思い、相談してみたのだが「私は教えるの苦手なの」と渋られ、何度聞いても「また今度教えるわ」などと、はぐらかされ続けた。
俺達の関係は、特別仲が良いとは言えなく、良き隣人といった程度である。
イオの心が、未だ開ききってないがゆえ、教えてくれ無いんだと思う。
話しかけても、毎回、ちょっと嫌そうな顔をされる。
というか、しょっちゅう無視される。
その時は結構傷つくけど、みんなに対しても同じような対応だし、
俺にだけ、良くない感情を抱いているわけではない……と思いたい。
面白いことに、カイルに対する対応はびっくりするくらい雑で基本無視だ。
カイルはそんな事もお構いなしに、ずかずかと踏み込んだりボケを繰り返したりしている。
そういう所だろうなぁ……と思ったが、伝える事はしなかった。
本当に嫌がっているようには見えなかった。
それが、二人の丁度よい距離感かもしれないし。
ろそろ帰るとカイル達につげた所、ずっと居ても良いのにと言われた。
とても魅力的な提案では会ったが、ずっとこの街に居る訳にもいかない。
それに悪いような気がした。
そんな事を伝えたら「美味い飯が食えるから、全然気にしていないんだけどね。まぁ、この街に来たらここに泊まればいいさ、いつでも歓迎するからさ」と言っていた。
気づかない内に、俺は、皆の胃袋をがっしりと掴んでしまっていたらしい。
飯についての、余談になるのだが、ある日、俺がどうしても調理ギルドに行きたくて、ふらっと寄った時のことだ。
観光がてら、多めに食材を調達していたら、
神殿の巫女、リディエルに会った。
「何? 今からパーティでもするの?」「じゃあ私も行くわね」「え? そんなんじゃない?」
「だとしても行くわ。いいでしょ」と、押し切られた。
リディエルと、そんな話をしていたら、気付いたら調理ギルド組員のジンジャーさんも混ざっており、あれよあれよという間に言いくるめられ、強制的に、パーティーのような、食事会のようなモノが開かれる事になった。
そんな食事会は、問題なく終了し、料理の評判も良かったのだが「変わった味ね。でも、美味しかったわ。明日もよろしく」と、2週間も押しかけられ、帰ろうと思ってもなかなか切り出せなくなっていた。
ジンジャーさんもシンジャーさんだ「そうなのか。では私もお邪魔することにしようと」ノリノリだった。
正直やぶさかでもなかったので了承した結果がこれだ。
大変だったけど、子供達も楽しそうで、いい笑顔が見れたし、結果的には良かったんじゃないかと思う。
ちなみに、振る舞った料理は、こちらの世界の食材で作った、日本食を意識したような、創作料理のような物だ。
◇
明け方の香りが、鼻孔をくすぐる。
空気は澄み切っておりとても美味しい。
辺りはまだ若干薄暗く、目を凝らさないと遠くの山が見えない。
空を漂う雲は、特別多く無い所から考えると、今日は良い天気になりそうだ。
絶好の帰省日和となりそうで安心した。
明け方の、まだ人の気配がほとんどしない大通りを、街の出口に向かって歩いている所だ。
兄とティアはまだ眠そうで、瞼が開ききっていなく、寝起きのように見える。
カイル達は出口まで見送ってくれるとの事で、明け方の街の大通りを一緒に歩いている所だ。
少し雑談をしていたら、今となっては見慣れた街の出口に着いた。
「この街に来た時は声を掛けるといいさ。また美味い飯を作って欲しいさ」
カイルは食いしん坊だ、日本食風の料理がとても気に入ったらしい。
次は、シンプルに唐揚げでも作ろうか。
調理ギルドにはスパイスっぽい物も置いてあったし、カレーが作れるかもな。
キッズ共はきっと気に入るだろう。
「あんたには色々世話になったわね。危ない目にあったけどなんとかなったし」
「私も感謝している。遠慮する必要はないわ。パスタだったかしら、また、あれを作って欲しいの」
料理は、かなり気に入ってもらえたようだ。
料理に自信があった訳では無いから、期待して貰えると素直に嬉しい。
頑張った甲斐があるという物だ。
「じゃあ、また」
「気をつけて帰るのさ」
カイル達と握手をして、また会うことを約束した。
背後に、小さくなっていゆく街を見て、後ろ髪を引かれる思いになりつつも、街道を歩く。




