28話 完遂報告
疲れた身体を引きずりながらも、やっとの思いで冒険者ギルドに着いた。
たった1日の出来事だったけれど、色々あって本当に疲れた。
反省する点も多いけれど、無事に帰って来れた事を喜ぼう。
後ろにいる兄さん達を確認しようと振り返った。
兄達は、交代することもなくワイルドコックを運んでいため、ものすごく疲れているみたいだ。
分かりやすく顔に出ている。
俺はワイルドコックを運んでいないから申し訳なく思う。
無事に帰ってくるためには、出来る事が多い俺が護衛という意味も含めて、すぐ戦闘状態に移れるようにと皆と話した結果だ。
体の調子を心配されたって事も理由の一つではあるのだけれど。
ケット・シーの探索能力のお陰で、魔物がいるルートを避ける事ができた。
おかげで、戦闘は起こらず、無事に帰って来ることが出来た。
皆が頑張ってくれたから、この状況があり、無事に帰って来れたんだ。
「みんな、お疲れ様。無事に帰ってくることが出来たよ」
みんな笑顔で返してくれた。
隣りにいたカイルに、背中を軽く小突かれた。
なんだろう。
仲間って認められたのだろうか。
そうだとしたら凄く嬉しいな。
さて、あとは報告して終わりだ。
さっさと終わらせて帰ろう。
今日は、少し美味しいものでも作って、今日の話しながら食事というのも良いだろう。
酒は――まだ子供だもんな。それは大人になってからの話かな。
この世界は未成年者飲酒禁止法はあるのだろうか。
調べてみよう。
冒険者ギルドに着いた。
ギルド内は、いつものように冒険者がいて賑やかだ。
「さっさと報告をすませるのさ」
カイルを先頭に、ワイルドコックを引っさげた皆が後を着いていく。
ギルド内に、魔物の死体持ち込んで良いのだろうか。
それはカイルに任せればいいか。
受付のお姉さんにの所へ向かう途中、俺たちに気付いた冒険者達の間でどよめきが起こった。
驚いた顔をしている冒険者達が、俺たちを見ながら何か話している。
正確には、俺達が狩ってきたワイルドコックを見ている様だ。
ワイルドコックってFランクの魔物だろ。
別に騒ぎが起こるほどの事では無いと思うのだが。
俺達がワイルドコックを狩れた事が、そんなに珍しいのだろうか。
確かに俺達はまだ子供だけど、カイル達はいつもやっている事だと思うのだけど。
不思議に思いながらも、受付嬢のリゼットが座るカウンターへ向かう。
報告は誰がするのかなと、皆が居る方を見たら、不思議そうな顔でみつめられた。全員に。
俺か。
確かにこの依頼を受けたのは俺だけど、報告は誰がやってもいいと思うんだけど。
まあいいけどさ。
「お帰りなさい。無事に帰って来てくれて心から嬉しいわ」
「ただいま戻りました。あの、このワイルドコックなんですけど」
みんなで運んできたワイルドコックを見るように促した。
すると、リゼットさんはとても驚いた表情になった。
ワイルドコックってそんな珍し魔物じゃないと思うんだけど。
確かに、普通のワイルドコックには見えないのも狩って来たけど。
「……そう。あなた達、頑張ったわね。ちょっと待ってて、ギルド長に話してくるわ」
リゼットさんは、ギルド長を呼びに冒険者ギルドの奥の方へ引っ込んでしまった。
「うーん、その黒いヤツのせいで面倒なことになりそうだね」
後ろを振り返ると、目を逸らしているカイル組3人の顔が見えた。
そうか、こうなる事を分かってたんだね。
だから、俺が報告するまで口を挟まなかったんだね。
まんまと罠に引っかかってしまった。
悔しい。とても悔しい。
「ぷっ、何その顔」
アニーは、笑いを堪えられ無かったらしく吹き出した。
カイルはニヤニヤしながらこちらを見ている。
イオは顔を横にそらし、肩を震わせていた。
その他、ふたりはきょとんとしている。
「きっと、褒められるんだよー、わたし達がんばったもん!」
ティアは純粋で可愛いな。
この3人の様に、汚れた大人になってはいけない。
まだ、子供なんだけど、あえてそう言おう。
けど、その可能性は、無くはない。
そうか、俺たちは褒められるんだ。
確かに、俺達は頑張った。
褒められても、可怪しくはない。
うん、きっとそうだ、ティアの言う通り褒められるんだろう。
「うむ。君たちよく頑張った。褒美をつかわすぞ」とか言われるんだろう。
報酬に色を付けて貰えるかもしれない!
ギルド長が部屋から出てきた。
「君たち。ちょっとこっちの部屋に来なさい」
険しい表情。冷たい声。
柔らかい雰囲気のギルド長ではない。怖い。
ええ、そんな気がしていましたよ。
皆も理解したのだろう、あからさまに肩を落としている。
そんな中ティアは、想像していた事と異なる結果に驚いたようで、口をあんぐりと開け「そんな筈では」と言っているような表情をしている。
俺はそれを見て吹き出してしまい、ギルド長に睨まれた。
◇
「さて、君たちが狩ってきた黒いワイルドコックだけど、あれは君たちだけで狩ったのかな?」
ピリピリとした空気を感じる。
とりあえず質問には答えなければ。と周りを見渡す。
みんなこちらを見ているだけで何か言うような気配がしない。
なんで俺が。
また罠に引っかかる訳にはいかない。
断固拒否だ。
「なんで黙っているんだい?」
くそ、ギルド長まで俺を見ている。
なぜだ、なんでなんだ。
俺が何かやったとでも言うのか。
ちくしょう、「あ、ここは俺が」とか言って手を挙げたら、みんなつられて手を挙げたりしてくれないかな。
「あ。じゃあ俺が」みたいな?
そんなこんなで、最後の人が結局答えるみたいな?
ははっ。
「どうなのかな?」
はっ。
あまりの重い雰囲気に耐えきれず、脳が勝手に現実逃避をしてしまったようだ。
これ以上、相手を不愉快にさせる訳にはいかない。
「……はい。僕たちだけで狩りました」
「そうか」
ギルド長はそれだけ言うと、少し考え込んでしまった。
しばらく沈黙の時間が流れた。
ギルド長は、相変わらず難しい顔でいる。
「まず、君たちが無事に帰ってきてくれて、本当に良かったよ」
「はい、なんとかですが」
バルトロメは、深くため息を吐き、みんなを見渡した。
「こちらの不手際で、危険な目に合わせてしまって本当に申し訳ない」
「ワイルドコックを狩る場所、あの森は危険ではないと高を括ってしまっていて、事前の調査が疎かになってしまっていたようだ」
「事前に分かっていれば、本来、君たちのランクだと、受けることが出来ない依頼になっていた」
「しかし、最近、そんな情報は上がって来なかったのだが……というのは、言い訳になってしまうね」
話が見えないぞ。
ワイルドコックはFランクの魔物だし、依頼する相手は俺達で問題ないはずだ。
「ワイルドコックって今回の依頼にあった討伐対象じゃ……」
「そうだったね。君と話していると、どうしても調子が狂うな。なぜか、年齢が近い大人と話してような気分で、状況を知っている前提で話してしまうよ」
感が鋭いのか、たまたまなのか。
本当の俺の年齢を探られているようで驚いた。
「否定はしないのかな?」
「え、そんな訳ないじゃないですか!」
「ははは。そうだったね。冗談だよ」
怖えぇ。
本当にばれてないよな。
「さて、本題なんだ」
「君達が狩ってきた、あの黒いワイルドコック。
状況にもよるけど、本当だったら、Dランク、もしくはCランクに相当する魔物なんだ」
「え、そうなんですか」
「ワイルドコックの長と言えば良いのかな。一般的には、エルダーコックと呼ばれているんだ」
「群れが、普通のワイルドコックで作られている場合はただの鳥同然なんだけど、エルダーコックが居る場合、ワイルドコックは群れで行動するようになり、複数同時に連携して襲ってくるんだ」
「はぁ…だから沢山のワイルドコックが集まってきたんですね」
ギルド長は眉を顰めた。
「可怪しいな。君達が狩ったワイルドコックは、あの2匹だけじゃないのかな?」
そうだった。
持ちきれなかったワイルドコック。
あれは、戦闘があった場所に放置しっぱなしだ。
今、怪しまれているのって、きっと、大量のワイルドコックを倒したのではと思われているからだろう。
実際、10羽以上のワイルドコックを倒したけどさ。
正確な数を、そのまま伝えて良いのだろうか。
正直に、討伐した内容を伝えたりしたら、面倒なことになりそうだ。
これ以上、疲れたくない。どうしたものか。
「セリニスが、魔法でたくさんのワイルドコックをやっつけたんですよー」
「凄かったな。10匹近くはいたワイルドコックが全滅だ」
正直でよろしい。
純粋な子供って可愛いなあ。
「ぷっ」
そこ、笑うな。
「二人が言っている事は本当なのかな?」
「……はい」
「魔物を仕留めきれるほどの威力の魔法を? しかも、10匹ものワイルドコックをかい? その歳で? 信じられないよ」
俺もそう思うから、どうにか誤魔化そうかなって考えたんだ。
「通りで、纏っている魔力の質が普通の子達とは違うわけだ。生まれ育った場所から考えても、魔術の教えを受けている訳でもないだろうし、セリニス君はだいぶ変わっているようだね。困ったものでもあるが、やはり、セリニス君は優秀でもあるようだね」
ギルド長の口角が上がった。
どこか、悪い笑顔に見えたのは……気のせいだと思いたい。
ギルド長は魔力が見えるのか。
魔術が使える事を無理に隠した所で、魔力が見える人間にはバレてしまうのだろうか。
「しかし困ったな。エルダーコックを討伐したと言うだけでも、悪目立ちしてしまうというのに、そんな数のワイルドコックを倒したなんて危険だ」
「危険?」
「例えば、その力を利用しようとする人間だったり、奴隷として売るためだったり、悪意のある人間に襲われる可能性が高くなる」
人間相手のいざこざは避けたい。
敵わない場合がほとんどだろう。
「だから、今回のことは口外してはいけないよ」
「分かりました」
ギルド長は顎を触りながら、こちらを見つめている。
「……やっぱり、お願いするならこの子達が良いかな」
「えっ、お願いですか?」
「うん。そのうち話すよ、楽しみにしておいて」
「あまり、楽しみに出来るような事では無さそうですね」
ギルド長がにやっと笑った。
やはり、先程垣間見えた悪い笑顔は、気のせいではなかった。
今のギルド長の笑顔、はっきりと分かった。
何か良からぬことを企んでいるに違いない。
「しかし、今回は運が良かった。最悪、全滅もあり得たんだからね。状況が悪く、仕方が無かったのかもしれないが、無理は良くないな」
「今回の依頼は、ワイルドコック1匹の狩猟だ。身の危険を感じたら、一目散に逃げることだって選択肢にあったはずだ。まず、自分達の命を大切にするんだよ」
「はい。肝に銘じます……」
状況的に難しかったが、判断が早ければその場から離れることが出来たかもしれない。
逃げに徹すると決めておけば、俺が風魔法で吹き飛ばしながらであれば、簡単に逃げれたかもしれない。
いや、きっと上手く行っただろう。
ワイルドコックの足は大して早くない。
今回は腕試しと考えていたのが良く無かった。
意識が、完全に戦闘に向いていた。
俺のエゴでみんなを死なせてしまっていたかもしれない。
俺はなんて危険な橋を渡っていたのだろうか。
一瞬の判断と、事前の準備で結果が大きく変わる。
今回がそれが身にしみた。
「失礼します」
リゼットさんがノックと共に入ってきた。
「例のエルダーコックですが、エストルスの村からの嘆願書にあった物だと思われます」
「なんだって? 君は仕事を増やすのが、本当に上手だね。分かっていると思うけど、村の人達にも言いふらしてはいけないよ」
そんなこんなで、冒険者ギルドを後にした。
今回の件は、ギルド長や職員のリゼットさん達が情報操作を行い、”とある、腕の立つ冒険者が討伐して、ワイルドコックの運搬を俺達が手伝っただけ”といった方向で落ち着けるようだ。
ちなみに、放置してきたワイルドコックは、専用の依頼が新たに発行されによって、他の冒険者達に回収に向かうようだった。
◇
「いやあ、お疲れ様さ」
俺はカイルを睨んだ。
カイル達は俺を売ったのだ。
なんてやつらだ。
「そんな顔をしないでほしいのさ。俺たちが話すと、またどやされるのさ」
その話しぶりだと、何度か問題を起こし来たのだろう。
「そんな事になると、僕らのお小遣いが減ってしまうのさ」
ちくしょう。
上手く使われたのがくやしい。
「今度アニーが何か買ってくれるさ。そういえば、この間、新しい菓子屋が出来たらしいさ」
「ちょっと、何でわたしが買うことになってるのよ!」
「そっか、変わりにイオがに買ってくれるさ」
「あんた、殺すわよ」
カイルはへらへらと笑っていた。
アニーに蹴られて、地面に倒れながらも。
そんなこんなで孤児院に着き、早め夕食を済ませた。
ベッドに寝転んでいたら、いつの間にか寝ていたようで、一度、目が覚めたら夜中だった。
当たり前だが、みんなは眠っており、俺はその様子を見ながら今日の反省をする。
夢と、現実の間を彷徨いながら。
ブックマーク有難うございます。
引き続き、楽しんでもらえると嬉しいです。




