27話 帰路
うっすらと、意識が戻ってきた。
俺は何をしていたんだっけ。
頭に靄がかかっているような感覚で、はっきりとしない。
「……あれ?」
微かに感じる土の匂い。
今、俺は外に居るのだろうか。
重たい瞼を、億劫ながらも少しだけ開ける。
目を開くと、俺の上から、みんなが心配そうに覗き込んでいる様子が見えた。
「目を覚ました! よかった……!」
ティアがいた。
目に涙を浮かべており、今にも泣き出しそうになっている。
あたりを見渡すと兄さんが居るのが分かった。
とても心配そうにこちらを見ており、俺が目を開けるのを確認すると、小さくため息をついた。
カイル、アニー、イオも、どこか安心したような表情をしていた。
とてつもなく気だるいが、首を動かし辺りを確認する。
視界の隅に、ワイルドコックが映る。
思い出した。
ワイルドコックの群れに襲われたんだった。
「ワイルドコックは?」
「セリニスが魔法でほとんど倒したんだ。倒しきれないのも何体かいたけど、死にかけだったからな。簡単に止めを刺すことが出来たさ」
ちゃんと仕留めることが出来たようだ。
良かった。本当に。
どこか、無理だと考えている自分がいて、その恐怖に必死に堪えていた。
もしかしたら、絶望に負け、挫けていたかもしれない。
そうなっていたら――
身体を起こそうとしが、激しい倦怠感で思うように身体が動かない。
身体をよじって、起き上がるために地面に着いた手に、全く力が入らない。
(主様、今は体内魔力がほぼ空になっています。周囲から魔力を集めれば動けるようになるはずですよ)
どうなっても構わないと、魔力を全力開放したから、魔力が無くなるのも当たり前か。
魔力がなくなると、身体が動かなくなってしまう。
今回は上手くいったから良いものの、
ワイルドコックを倒しきれなかった場合を考えるとぞっとする。
全滅もありえた。
たまたま上手く済んだ、それだけなんだろう。
再度目を閉た。
ケット・シーから言われた通り、魔力を体内へ集めるため、意識を集中させる。
魔力が体内へ徐々に吸収され、満たされる感覚。
疲れた身体へ魔力が駆け巡る。
しばらくの間魔力を集め続けると、なんとなくだが、倦怠感が取れてゆく気がした。
身体を起こそうを試みたところ、なんとか上体を起こす事は出来たが、まだ、全身に力がうまく入らない。
「まだ、立ち上がれなさそうだよ」
「いいって。もう少し休みなよ。わたし達はいくらでも待つから」
「ゆっくり休むといいさ。僕たちはセリニスに助けられたんだ。後は僕らに任せると良いさ」
その言葉に甘え、重たく、閉じようとする瞼に抵抗すること無く閉じた。
今にも寝てしまいそうだが、ここから離れなくては。
いつ魔物がやって来るか分からない。
俺はゆっくり、周囲から魔力を集める。
腹の上に乗っているケット・シーが協力してくれているみたいだ。
いつもより、魔力が集めやすい。
比較的濃い魔力が、俺も周りに集まっている。
「あんな規模の魔法、見たことないわよ」
となりで、膝を抱え込んでいるようにしゃがんでいたイオが、不思議そうな顔で訪ねてきた。
「無我夢中だったからかな。あんまり覚えていないと言うか、なんとなく出来たと言うか」
「なんとなくって、あんたね……」
俺が独自で考えた魔術だ。
この世界の事は良く分からないが、俺が変わっているのは、ここ最近の出来事で何となく理解している。
曖昧にして誤魔化すしか出来ないし、説明しろって言われても、俺もよく分かってないのだから説明できない。
「しかし、この数のワイルドコック。どうするさ」
この数のワイルドコックを俺達だけで運ぶのは無理だ。
放置するのは良くないだろうけど、持ち運べない。
「黒いヤツと、持てるだけ持って帰ればいいじゃない。他のヤツはどうしようもないじゃない」
「そうだな」
大きさから考えると、持って帰れるのは、
黒いワイルドコックと、普通のワイルドコックが1,2羽程度だろう。
「どちらにせよ、日が暮れる前には帰らないといけないわ」
なんとか立ち上がれる程度には回復した。
俺はどの程度気を失っていたのだろうか。
日はまだ高い位置にあるが、のんびりしている訳にもいかない。
軽く身体を動かして確認すた感じだと、歩く程度であれば問題無い気がする。
「大丈夫。なんとか動けると思う」
「良いのかい?」
持ち帰る事が出来たのは、黒いワイルドコックと、普通のワイルドコックが1匹だった。
兄とティアが、黒いワイルドコックを持ち、アニーとイオで普通のワイルドコックを持つ形になった。
俺とカイルは、何かあったときの保険で、両手を空けておくことにしたのだ。
といっても、さっきみたいな戦闘は出来ないだろうから、何も起こらない事を祈るしかないのだが。
魔物が近づいたら、ケット・シーが教えてくれる事になっているから、大丈夫たと思うけど。
帰り道は、俺とカイルが先導する形になり、あとのメンバーは後ろから着いて来ている。
みんな、疲労の色は濃いが、あと少しの辛抱だ。
「セリニスは魔術師だったんだな。あんな威力の魔法使えるなんて凄いさ」
魔術を使える事は、基本的に隠している。
おおっぴらにするべきではない、と言われているから。
「まぁ、ね」
「凄い事さ。俺たちみたいに人族の血が濃いと、上手く扱えないことが多くてね。だから羨ましくなっちゃうさ」
「え?」
人族とはなんだろう。
俺含め、見た目は同じだけれど。
俺は人族ではないのだろうか。
ティアはエルフだよな、たしかそんな事を言っていたような。
エルフと何かの混血だったけか。
兄さんは、前世で見た、欧米人に近い。
兄弟だし、俺も似たような感じだと思うのだけど。
「僕らって、何族なんだろうね」
兄とティアは、不思議そうな顔をしていた。
「知ってると思うけど、私はエルフと魔族のハーフだよ、お父さんがエルフ族で、お母さんは魔族」
「え、おばさんって魔族だったんだ」
ハーフとかどうとか聞いたような気もするけど、魔族のハーフとは聞いていなかったような。
「俺達は人族なんだろうけどなあ」
「魔族って、一部の魔族以外は、見た目は普通の人族と変わらない事も多いからね。ヘリオスとセリニスは、もしかしたら魔族かもしれないさ」
今度聞いてみるか。
魔法が使えるってことは、人族でない可能性は十分あるし。
「ちなみに、僕とアニーは両親とも人族だけど、少しばかり魔族の血が混ざっているらしいさ。イオは――まあイオの話はま良いさ」
アニーとイオの方を、ちらっと見た。
アニーはどこ吹く風と聞き流しているように見える。
イオには目をそらされた。
しかも、少しばかり機嫌が悪そうに見える。
詮索しない方が良さそうだ。含みのある言い方だったし。
カイル達は一般的な生い立ちでは無いだろうし、変に聞いて冷やかしになってしまうのは良くない。
「ようやく街が見えてきたよ。報告済ませて帰るとするさ」
道中は問題が起こることもなく、無事に街にた辿り着けて良かった。
早く孤児院に帰りたいが、まだ報告が残っている。
もうひと踏ん張りだ。




