26話 全力
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「何なのよ、早く倒れなさいよ」
「うるさいわね」
鬼気迫る、黒いワイルドコックの咆哮。
まだ諦めていない、力のこもった目。
「そう簡単に死んでたまるか」と、心の叫びが聞こえたような気がした。
(主様! 辺りから魔物が集まってきてます!)
ケット・シーの警告から少しして、激しく草木かき分ける音がする。
明らかに複数の敵の気配だ。
俺達は複数の魔物を相手にする経験なんて無い。
囲まれたら一瞬で終わる可能性が高い。
どうやってこの状況を乗り切る。
どうすれば良い……考えるんだ。
「大変だ! 周りから魔物が集まってるみたい! みんな固まって、川の近くに!」
俺の言葉で、皆は黒いワイルドコックから離れ、川を背にするように、陣形を組む。
この陣形だったら、まず背後を取られる可能性はかなり低くなるだろう。
普通ではない状況に、皆はかなり戸惑っている様子だ。、
辺りをキョロキョロ見渡して、戸惑っているようだった。
それはそのはずで、前方の草木をかき分ける音が、絶え間なく響いている。
「何で、こんな数の魔物の気配がするのさ!」
きっと、黒いワイルドコックの咆哮のせいだ。
こいつが仲間を呼んだんだろう。
草むらの影から、複数のワイルドコックが飛び出して来て、羽をバサバサとバタつかせながら、俺達の目前に迫る。
ざっと数えただけでも、10匹は越えているだろう。
この数のワイルドコックを対処出来るのだろうか。
いや、倒さないと俺達はこの場所で終わってしまう。
「こんな数、聞いてないぞ!」
兄が焦ったように叫んでいた。
全くその通りで、このような事は想定していなかった。
「きゃっ!」
ティア石につまずいて、転んでいる。
ためだ、勢いに呑まれてしまう。
このままだと崩れるのはあっという間だ。
このパーティは一瞬で崩壊してしまう。
現に、皆の顔色は絶望で染まっており、諦めの色が伺える。
とにかく、みんなが生き残ることを考えなくてはいけない。
やれるだけの事はしなくちゃいけない。
「アニーとイオは下がってて!」
そう言って、俺は前線に参加する。
陣形は、川を背にした状態で、アニとイオを守るように、前衛が扇状に展開している。
出し惜しみは無しだ、全力を出さないと俺たちはやられてしまう。
取り込む魔力、出力する魔力の循環を最大まで引き上げる準備を行う。
(主様! 魔力収集のサポートをします!)
ケット・シーは、俺におんぶされる様な形で、俺の後ろから首に捕まるようにぶら下がったような状態になった。
この辺り一帯から魔力を集め、俺の周辺の魔力濃度を上げているようだ。
さっきより魔力が集めやすくなったように感じる。
「みんな、諦めたらだめだ! 俺たちなら出来る!」
取ってつけたような言葉だが、士気を上げなければ戦闘にすらならない。
俺の希望であり、願いも込めた言葉だ。
こんな所で終わってたまるか。
皆は精神状態を持ち直したようで、目に力が宿った気がする。
これなら戦える――
その直後だった。
一匹のワイルドコックが飛び出すのを皮切りに、他のヤツらが一斉に飛びかかってきたのだ。
「一匹ずつ確実に仕留める! 他のヤツは、俺が魔法で抑えるから!」
俺達は一匹を倒すのに、最低でも、ワイルドコックを抑える盾役が一人と、攻撃役が一人の1セット必要だ。
自然と、カイルと兄がその役に収まった。
俺とティアは、カイルと兄がワイルドコックを仕留め切るまで、二人の邪魔をさせないため、敵を近寄らせない役割になる。
ティアはワイルドコック体当たりを防ぎ、俺は風魔法で弾き飛ばしたり、雷魔法でワイルドコックを仕留めるサポートをする。
アニーは弓矢で牽制をしつつ、隙きがあれば短剣で攻撃に参加する。
イオは、盾役のカイル、ティアの傷や、攻撃するために、どうしても懐に入らなければならない兄が怪我をした時に癒してくれてる。
「やったぞ!」
兄がワイルドコックを仕留める。
いいぞ、思ったより上手くいっている。
さきほどの黒いワイルドコックとの戦いがいい経験になったのだろか、動きが洗練されている。
このまま順調にいけば問題なく片が付きそうだ。
「4匹目だ! この調子だ!」
いい調子だ。このまま全て倒しきれる。
焦らず、確実に仕留めよう。
「くっ!」
そんな時だったカイルが5匹目のワイルドコックの体当たりに耐えきれず、
激しく転倒をしてしまったのだ。
順調に見えたようだが、疲労は確実に蓄積していたようで、踏ん張りが効かなかったんだ。
戦力を見誤っていた。
皆は、まだ体が出来上がっていない子供だった事が、完全に頭から抜けていた。
魔力を体外から集め、身体能力を上げることが出来たため、疲労は殆ど感じていない。
そのせいで、順調に事が進んでいたとだと錯覚していた。
ヘリオスの転倒から、ジリ貧になってくる。
ワイルドコックを抑えてくれる盾役が、攻撃に耐えきれずよろめく事が多くなってきた。
そのため、兄も攻撃の機会をを失う状況が増える。
「きゃあ!」
次に崩れたのはティアだった。
ティアが一匹受け持っていてくれたのだが、俺の風魔法による防壁を突破してきた、もう一匹のワイルドコックが、ティアの側面から体当りしてきたのだ。
イオの回復でなんとか持ち直したものの、疲労はどうしようも無い。
攻撃を防ぐ盾を持つ手に、ほとんど力が篭ってないように見える。
そこからはどうしようもならなくなった。
盾役が機能しなくなってしまったため、決定的な攻撃を決める手段が無くなってしまった。
兄さんと俺も、皆を防ぐ盾役として立ち回る事になった。
ワイルドコックから攻撃を防ぐため、ぎりぎり剣で攻撃を受け流して入るものの、このままでは攻撃が出来ず埒が明かない。
「僕は、やられる訳にはいかない無い! チビ達が待ってる、俺はあいつらを。約束を守らないといけないのさ!」
「ふぁ×く……!」
「嫌、まだ死にたくない」
完全に舐めていた。
いや、舐めていた訳では無い。
自分の考えの中だけでは、しっかりと警戒して対策を練っていたと思い込んでいただけだ。
「どうせ、たかが鶏だ。それが数匹いる程度だろう」そう油断していたのだ。
相手は魔物だ、鶏とは全く違うと言うのに。
俺は剣で応戦しているため、魔法を使う余裕がほとんど無くなっている。
陣形も崩れてしまった。
俺と兄さん、ティアは、ワイルドコックの体当たりを避けつつも、鉤爪の攻撃を必死に受け流している。
カイル、アニー、イオは、イオを中心に、カイル、アニーで挟むように陣形を組んでおり、
攻撃から身を守っているようだ。
どうする。考えるんだ。
「兄さん! ティア! イオを囲むように陣形を組んで!」
俺は指示を出しながら、風魔法でワイルドコックを吹き飛ばす。
複数箇所を同時に飛ばしたい所なんだが、そんなことをした事がないから出来るのかわからない。
感覚がいまいち掴めていない。
この一帯へ、十分な風魔法を発動させるとしても、魔力を練る時間がかかるため、相応の時間が必要だ。
この乱戦では長すぎる。
兄さんとティアは、命からがらイオを取り囲む陣形を取る。
二人は出血しているように見える。
怪我を治す役のイオは、回復魔法を使う余力は残っていないようだった。
しかし、ワイルドコックの猛攻が収まる気配は全く無い。
魔力を出し惜しみしている場合じゃない。
可能な限り、周囲から魔力を集める。身体が軋む。
(主様。それ以上は危険です!)
一度に確実に仕留めないと、魔法を発動した後、この体がどうなってしまうか全く分から無い。
なりふり構っている場合じゃないだろう。
複数のワイルドコックを仕留める範囲を、一度に巻き込むように魔法を発動させるとなると、半径10メートルの規模でないといけない。
その量の魔力を操作なんて出来るのだろうか。
いや、出来ないといけない。でないと、みんな終わってしまう。
俺達がいる領域を除く、ワイルドコックがいる範囲全てに意識し、
魔力を練り上げる、辺り一帯に電撃魔術を発動させる。
ワイルドコック感電し、動きを停止させている。
直後、脳に響く体の軋みが警告音として発せられた。
その領域を極限まで圧縮、全ての動きを停止している状態、冷魔術を発動している状態にする。
「くぁっ!」
一瞬、意識が持って行かれそうになった。
こんな事だったら、もっと、ちゃんと、訓練していれば良かった。
今更考えた所で仕方のない事なのだが、後悔は、いつも、後からやって来る。
ワイルドコックの動きが極端に低下した。
視界の隅で、一部、完全に意識がないように倒れ込んでいるワイルドコックがいるようにも見えた。
間違いなく効いているようだ。
しかし、脳を強く揺らさ続ける感覚で視界が定まらない、気持ち悪い。
体が軋むけど、痛みはなくなった。
きっと、脳が処理しきれなくなったのだろう。
俺はどうなってしまうのだろうか。
最悪、爆散してしまうらしい。
死に方として最悪だ。
でも、皆を守れるのであれば良しとしよう。
次は風魔術だ。
体の調子は、すこぶる悪いが、どこか冷静だ。
なんだろうか、身体が死期を悟っているせいなのだろうか。
ワイルドコックがいる範囲に、渦を巻く竜巻を発動させる。
気が遠くなるが、意識を保つよう自分の下唇を強く噛む。
俺は、どこまで持つのだろうか。
竜巻の渦を、ネジを巻くイメージで渦を上空へ向ける。
ワイルドコック達が、俺の上空を回るように吹き飛んでいった。
やり過ぎだろうか。
でもこれ位やらないと、確実に仕留めることは出来ないかもしれない。
現状、俺が使える最大の魔術だ。
これで終わらせることが出来なかったら――そんな事はさせない。絶対に。
俺の体が弾けるくらい、どうでも良い。
次の瞬間、視界が横にぶれた。
体が、何かに叩きつけられた感覚がした。




