20話 神殿2
俺達はお互いの顔を見合い、どうしたものかと考えていたら、ティアがずいっと一歩前に出た。
「じゃあ歳上の私が一番に先に行くね!」
ティアが祭壇に登る。
それを俺達は後ろから見守っている。
ティアの体、爆散しないよな。
期待もあるが、心配でもある。
「じゃあそこ、中心に立って。目を閉じてリラックスしていてちょうだい。」
そう言われ、ティアは頭を少し下げた。
こちら側にいると、表情は見えないが、言われた通り目を閉じているんだろう。
「今からアスティアナに魔力が流れ込んでくると思うわ。ありのまま受け入れて頂戴。拒絶しようなんて思ったら失敗するわよ」
ティアは軽く頷いた。
「始めるわよ」
リディエルは、軽く目を閉じた。
何かを念じているのか、目を閉じて意識を集中させているように見える。
口元は少しばかり動いており、何かを唱えているようだった。
直後、泉の水晶が輝いた。
その輝きに呼応するように、さらさらと流れ出ている水面が薄っすらと輝き、ほぼ同時に文様が輝き出した。
その幻想的な光景に、我を忘れて魅入ってしまった。
部屋が薄暗い事もあるのだが、祭壇の上に立っているティアとリディエルが、儀式の光に綺麗に照らされていて綺麗だ。
光景に見惚れていたら、気づけば発光が収まっていた。
「ふぅ。終わったわよ」
「え、終わったの?」
ティアは、なんとも言えない表情をしながら祭壇を降りてきた。
「どうだった?」
「えっと……何が起こったのか分からないなー」
「そっか」
試しに、魔力を見ている時のようにティアを診てみたが、普段の魔力と変わらないように感じた。
「次、上がってきてちょうだい」
「俺が行く」
兄さんは祭壇に上がり、ティアと同じように儀式を受けた。
ティアが受けた時と同様に儀式が行われ、
一通り終わった後、身体の様子を訊いてみたが、ティアと同じく「特に変わった気がしないな……」と言い、不思議そうにしていた。
ティアが、兄さんを触ったりつついたりしている。
絶対、そんなので分から無いと思う。
「じゃあ最後は、アナタね」
俺は祭壇に上がり、目を閉じた。
魔術の訓練中のように、魔力を操作するような、余計なことはしないほうが良いだろうか。
軽く深呼吸をして、あるがままを受け入れる。
部屋はしんとしており、さらさらと水の流れる音だけが聞こえる。
「始めるわよ」
リディエルの言葉が聞こえ、俺は軽く頷く。
儀式が始まったのだろう。
目を閉じてるのだが、辺りに薄っすらと光を感じる。
徐々にだが、普段訓練している時よりも力強さを感じる様になった。
魔力が流れ込んでいる量が、いつもより多く感じられる。
体内の魔力がざわつくというか、いつもより鋭く駆け巡っている感覚がして落ち着かない。
しかも感覚が研ぎ澄まされてきたのか、皆の気配も感じるし、部屋にある水晶、そこから流れる水、祭壇の高さも、何となくだが感じ取れる。
とても不思議な感覚だ。
結構時間が立ったと思うのだが。
二人が行った儀式の時間より、長く感じたのがどうしても気になってしまい、薄っすら目を開けた。
辺りの光は収まっている。
儀式は終わったのだろうか。
不思議なことに、目の前に居たはずのリディエル姿が無かった。
これは可怪しいと思い、あたりを見渡したら、足元に膝を折ってへたり込んでいるリディエルが見えた。
「え、大丈夫ですか!?」
「えぇ、いつもより多く魔力を使ったみたいね。こんな事あまりないんだけど。しかも3人程度じゃ」
そう言いながらリディエルが顔を上げた。
そして、俺の顔を見て、とても驚いたような表情をしている。
不思議に思い、俺は両手で自分の顔を確認した。
特に変わった様子は感じられ無く、いつも通りだと思うのだがどうしたのだろうか。
「あなた、その瞳。信じられない」
瞳がどうかしたのだろうか。
かなり気になるが、確認する方法がない。
「変ですかね。普段と変わらず、辺りは見えますけど」
「あなた、その瞳は危険――いえ、特別な事になっているのよ」
リディエルは気が動転しているのか、
へたり込んだまま軽く震えている。
「と、取り敢えず、下に降りるわ――きゃっ」
降りようとした時に、リディエルふらついて転びそうになった。
俺は慌てて、腕を掴んで、落ちるのを防ごうと、ひっぱった。
「うぐぅ」
軽く引っ張っただけなのに、リディエルがこちら側に勢いよく吹っ飛んできた。
思っている以上に力を掛けてしまっていたらしい。
「あ、ありがとう」
リディエルは掴まれた方の肩をさすっている。
おかしい、思っている以上と言っても、この体格で、俺より大きいリディエルをさきほどのように引っ張れるとは思えない。
何が起こっているのだろう。
「肩、大丈夫ですか?」
「え、えぇ。少し痛むけど大丈夫よ。あなた、見かけによらず力があるのね」
リディエルに気をかけながら、祭壇を降りた。
「うわぁ、セリニスの目キレイだね!」
何だろうか、さっきリディエルも変わったこと言っていたけれど。
鏡は無いのか。自分の目がどうなっているのか、ものすごく気になる。
「どんな感じになってる?」
「いつもの色に、銀色が混ざってる感じって言えば良いのかな」
「そうだな。光ってるぞ。なんか星空みたいだ」
俺の瞳にコスモが誕生しているようだ。
とても気になる。ものすごく確認したい。
(あ、なるほど)
(ん?)
(主様の目、幻神の素養が反応しているようですね。体内の魔力が著しく活性化してるんですよ)
(活性化?)
(はい。身体的には問題は無いと思いますよ。魔力総量が増えている状態なので、状態としては良いものと言えるでしょう)
確かに、普段より体が軽い。
それに、いつもより周りの状況に敏感になっているというか、この部屋の状態が、直接見なくても分かるような感覚だ。
後ろにいる、リディエルが考え込むように、顎に手を添えて俯いているのが分かる。
(このままだと、困るのだけれど)
(魔力を放出して、活性化している体内魔力を安定させれば元通りです)
(そうなんだ)
俺は目を閉じて、活性化した魔力を体外へ流しだすため、体の調子を確認する。
魔力をいつも以上に、はっきりと感じる。
からだのどこに、どのくらいの魔力が通っているか。
この魔力を外に流しだけば良いんだよな。
(あ、一気に放出したらだめですよ。何が起こるか分かりませんから)
面倒だから、一気に放出する所だった。
もう少し遅かったら危なかったぞ。
焦りながらも、体内で活性化した魔力を確認して、少しずつ放出していく。
どのくらい続ければ良いのだろうか、割と大量の魔力を放出したけ気がするけど、問題ないだろうか。
(そのくらいで十分でしょう)
魔力を放出するのを止め、目を開けた。
「いつもの目に戻ってるな」
「ほんとだ。さっきの方が綺麗だったのになー」
ティアが少し残念そうにしているけれど、あのままで居ると、きっと目立つだろう。悪目立ちはしたくない。
二人と話していたら、急に、リディエルが視界に飛び込んできた。
どこか、慌てているような、恐れているような表情をしている気がする。
「元に戻ったのね……良かったわ」
リディエルは深い溜め息を吐き、少し安心したように姿勢を正した。
「良い? あなた達、今の事は誰にも言ってはいけないわ」
「この国は、それほど問題にはならないだろうけど、他の国に行ったら特に気をつけるのよ」
「体に、銀色の特徴を持っている人間は不吉の象徴と言われて、何をされるか分からないもの。最悪、殺されてもおかしくないわ」
そうだったのか。だから、あんなに慌てていたのか。
という事はリディエルもそうなのだろうか。
「リディエルは、リディエルの目とかも銀色に近いけど……大丈夫なの?」
リディエルは目を見開き、驚いたようにこちらを見ている。
「あなた、自分のことじゃなくて、他人の心配?
私は良いの、国から守ってもらっているし、精霊の巫女って言う特別な役職についているもの。
精霊の加護の儀式が出来る人間なんて中々いないのよ。だから、見逃してもらえているのよ」
そうなのだろうか。
神殿の警備は、見た所万全では無いだろうし、安全とは言い切れない気がするけれど。
「しかし、なんで元に戻ったのかしら」
リディエルは、何かぶつぶつ呟いている。
魔力を自由に操れるなんて、わざわざ伝える必要は無いだろう。
これ以上、問題を抱えるのは止めておきたい。
必要になったら話せば良いだろう。
「とにかくあなた。あなたは何かあったらすぐ私に言いなさい。少しは何とかしてあげるわ」
リディエルはそう言い、俺をびしっと指差を指されて、びくっと体が反応した。
「そ、その時はお願いしまうす」
威圧感、迫力のある子だな。
今まで、どんな事がその身に降り掛かっていたのだろうか。
強くあろうとする意思を感じる。
「次は、それぞれの属性を調べるわよ」




