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第18話:指導方針

三つの視線がこちらに向いている。彼らが俺の口から出る言葉を待っているのが伝わってくる。


「それでは、今日からの本題に入りましょうか」


俺が口を開くと、彼らは背筋を伸ばし、顎を引いて俺を見る。


「本題、ですか」


「はい。皆さんへの指導方法について、一つ提案があるんです」


俺は椅子の背もたれから体を離し、座り直した。頭の中で何度も形を作り、壊し、また作り直してきた計画を、一つずつ声に乗せて外に出していく。


「ケイン君の一振り。あの日、確かに太刀筋は変わりました。太刀の軌道から迷いが消え、風を切る音すらもそれまでとは違っていた。足の踏み込みから腰の回転、そして腕への力の伝達。全てが噛み合っていました」


ケインの目が、数日前の光景をなぞるように動いた。


「でも、あれはあくまで、俺が『付与した』感覚です。本人の中に元から備わっていた力じゃない。俺の能力による補正が、あの結果を導き出しただけです」


「はい……それは、分かります」


ケインはうつむき、膝の上で拳を握り込んだ。彼の視線は床の木目に落ちている。自分の手柄ではないと事実を突きつけられ、奥歯を噛み締める音が耳を打った。剣を振るう者として、他人の力で結果を出した事実を受け入れるには、時間を要するはずだ。


「だから、ただ俺が力を付与し続けるだけじゃ、意味がないと思うんです」


俺が言葉を継ぐと、隣で腕を組んでいたフィンが身を乗り出した。


「意味がない、というと?」


フィンは机の上に置いた革表紙のノートに手を置き、俺の言葉の先を待っている。彼の指先が、ペンの軸を叩く音が響く。


「一度きりの結果じゃ、駄目なんです。俺の力で動きを補正された状態を何度も経験し、最後は俺の力がなくても、自分の意志でその動きを再現できるようにする。それが、俺の考える育成方法です」


「例えばケインなら、付与、解除、振る、付与。それを繰り返す、ってことですか」


リナの声が部屋の空気を切った。彼女は窓際に寄りかかりながら、視線をこちらに向けている。物事の芯を捉える速さは、相変わらず群を抜いていた。


「そうです。借り物の感覚を、ただ与え続けるんじゃない。何度も繰り返し体験させることで、最終的には、本人自身の答えとして再現できるようにする」


俺は、あの日の訓練場で得た検証結果を思い返した。ケインの体に力が馴染む瞬間、そして力が抜けた瞬間に彼の動きが元に戻る様子。あれをどう繋ぎ合わせるかが、この方法の鍵になる。


「例えるなら、最初は俺が答えの書かれた紙を渡している状態です。でも、その紙を丸暗記させるんじゃなくて、答えに辿り着くまでの体の動かし方、筋肉の張り、足の踏み込み、呼吸の合わせ方。その感覚そのものを、何度も味わってもらう。反復すれば、いつか俺が紙を渡さなくても、自分の足で先ほどの答えに辿り着けるようになるはずです」


俺の説明を聞き終えても、ケインの眉間に寄った皺は消えなかった。首を傾げ、自分の手のひらを見つめている。


「そんなこと、本当に可能なんですか。与えられた感覚が、完全に自分のものになるなんて」


ケインの疑問には理がある。効果が切れた後、自身の肉体に何が残るのか。誰にも証明されていない。俺自身、この方法で誰かを導いた経験を持たないのだから。


「体に覚えさせる、ということですか」


フィンがノートを開き、ペンを走らせ始めた。紙を引っ掻く音が部屋に一定の間隔で響く。


「筋肉の記憶、反復練習による神経網の構築。繰り返し一連の動作をなぞることで、体がその形を保存していく。俺が本で読んだ理論と合致します。理屈の上では、あり得る話だと思います」


フィンの言葉は、この場に理屈という名の土台を置いた。ペンの動きを止めずに語るその姿は、俺の提案を頭の中で分解し、再構築しているかのようだ。だが、理屈だけで納得できるほど、剣を振るう者の感覚は容易に上書きできるものではない。

リナは窓際から離れ、机に両手をついて俺を覗き込んだ。


「本当に、そんなことが可能なんですか」


「分かりません」


俺は彼女の目を見返し、取り繕うことなく事実を口にした。


「分からないからこそ、俺は君たちと一緒に確かめていきたいんです。この方法が実を結ぶかどうかは、皆さんの意志と、俺の能力の使い方の両方にかかっています」


部屋の中に沈黙が落ちた。窓の外から聞こえていた日常の音すら、この瞬間だけは遠のいたように感じる。リナは俺から視線を外さず、瞬き一つしなかった。数秒の時間が流れ、やがて、彼女は息を吐き出し、机から手を離した。


「……分かりました。やってみます」


リナの言葉を合図にしたかのように、ケインが顔を上げた。握りしめていた拳は解かれ、前を向いている。


「俺も、やります。自分の感覚にして見せます」


ケインが頷くと、フィンもノートを閉じ、ペンを置いた。


「データ収集の面でも、試す価値があります。俺も参加します」


三人の意志が揃った。俺は机に両手をつき、立ち上がった。彼らを見下ろす形になるが、威圧する意図はない。ただ、これから始まる時間の重さを共有したかった。


「じゃあ、早速明日から、実戦形式で試してみましょうか。最初は戸惑うかもしれないません。でも、必ず皆さんの良い結果に結びつけます」


「よろしくお願いします、ノアさん」


三人が揃って頭を下げる。その動作から伝わってくる熱が、内心あった、迷いを吹き飛ばした。俺も彼らに応えるように、顎を引いて頷きを返した。明日から、彼らと積み上げる時間が始まる。

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