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L.E.O.N.-鋼のマリオネット-  作者: 逆凪
【第2章:絶望の引鉄と『強制された契り』】

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悲嘆の剣舞

本作は毎週【月・金】の20時に更新予定です。

――ギギッ、ピィィィィィン――


脳髄を煮え立たせるあの高周波が、限界を超えた音量で頭蓋を内側からぶち抜いた。

耳から血が噴き出すのではないかと思うほどの激痛。だが、レオンの肉体は、苦悶の表情を浮かべることすら許されない。


(動け、動け、動いてくれ……! 刃を、刃を引けぇっ!!)


視界の端に浮かび上がった、アリアの「命の残量を現す赤い帯」。それはすでに、怪物の振り下ろした巨腕の衝撃波に掠めただけで、残すところ一割にも満たない極細の糸と化していた。

熱い砂の上に倒れ伏し、絶望に濡れた瞳で自分を見つめるアリア。


怪物はアリアの元へとさらにその巨体をにじり寄らせ、とどめの一撃を放とうとしている。

だが、その瞬間。


天の上の主たちが弾き出した「攻略手順」は、何より冷酷で、極めて「最適」なものだった。


怪物の身体が、アリアという囮に完全に引き寄せられたこの瞬間。

アリアのすぐ傍にある怪物の胴体に宿る「弱点の核」が、世界の因果のねじれによって赤黒く燃え上がった。

その核を、アリアの身体ごと――最大出力の一撃で叩き伏せる。

それが、天が算出した、この場を切り抜けるための最短、かつ最も安価な手法。


(やめろ……やめてくれ……! 避けるんだ、アリア! 逃げてくれ!!)


レオンの魂は、暗闇の奥で血の涙を流しながら叫んだ。

しかし、肉体はレオンの絶叫を完璧に黙殺する。

首元に食い込んだ『黒い獣の首飾り』がドクンドクンと不吉に脈打ち、全身の筋肉へ、凍てつくような圧倒的な暴力の波動を注ぎ込んだ。


肉体が、大地を爆砕せんばかりの力で踏み込んだ。

視界が超速度でブレる。

大剣の刀身が、世界の法則を書き換えるほどの強烈な「青白い閃光」を帯び、キィィィィンと耳障りな共鳴音を立て始める。

これまでの人生で一度も学んだことのない、極限の殺戮術式。肉体はその術式を寸分の狂いもなくトレースし、大剣を上段へと振りかざした。


怪物の「弱点の核」、そしてその直下で、か細く手を伸ばすアリア。

大剣の軌道は、その二つを、一直線に射程へと収めていた。


(嘘だ……嘘だ、嘘だ、嘘だ!!)


レオンの魂は狂い、自らの脳髄を引きちぎらんばかりに叫んだ。

だが、鉄のマリオネットは、その滑らかな鉄の意志で、全力の刃を振り下ろした。


ドォォォォォォォン!!!


空気が爆縮し、衝撃波が村の広場を薙ぎ払った。

大剣が肉を引き裂く。

だが、その手応えは、泥でできた怪物だけの重みではなかった。

もっと脆く、柔らかく、あまりにも愛おしい「別の肉の質量」が、刃の刃元に確かに食い込み、それを両断した生々しい衝撃。


「……あ……」


アリアの声は、悲鳴にすらならなかった。

怪物の巨躯が中心から真っ二つに裂け、それと同時に、アリアの細い身体もまた、レオンの振り下ろした大剣によって無慈悲に一刀両断されていた。


(アリアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)


魂の叫びは、喉の膠着を突き破ることはない。

レオンの肉体は、ただ返り血に濡れた大剣を引き抜き、冷徹に大地の泥を払った。


怪物の泥の身体が崩壊し、光の塵となって大気へと融解していく。

そして――アリアの身体も。

切断された細い身体から、血は流れなかった。ただ、傷口から温かい光の粒子がボロボロと溢れ出し、彼女の輪郭そのものを、おぞましい速度で削り取っていく。

彼女の美しい瞳が、自分を見つめたまま、ただ光の塵となって夜空へ消えていく。


何も残らない。

自分が命がけで守りたかった、この世界で唯一の本物の温もりが。

自分自身の、この血塗られた右手によって、ゴミのようにすり潰され、この世界から永遠に抹消されたのだ。


レオンの心の防壁は、音を立てて完全に粉砕された。

暗闇の底で、彼は自らの喉を掻き毟り、狂気と憎悪の混ざり合った泥水を吐き散らすようにして発狂した。


だが。



天の意思にとって、最愛の死など、ただの「手順の消化」に過ぎなかった。


網膜の直上に、暴力的な輝きを伴って、黄金に輝く「重苦しい紋章」が幾重にも実体化した。それは戦いの完了を告げ、莫大な「対価」がレオンの所有として確定したことを無言で告げる、冷徹な勝利の宣告。


そして、真の地獄は、その直後に訪れた。


(……え……?)


最愛の少女を殺したばかりのレオンの肉体が。

突如として、レオンの狂気的な哀しみを嘲笑うかのように、信じがたい「挙動」を開始したのだ。


大剣を鞘に収めた両手が、不自然なほど優美な円を描いて左右に広げられた。

右足が、まるで宮廷の舞踏会でステップを刻むかのように、流れるような滑らかさで後方へと引かれる。

肉体は、アリアの血肉が光の塵となって舞い散るその中心で、完璧な姿勢で、美しく「ターン」を決めた。


(やめろ……何をしている……? 何を躍らせているんだ!!)


レオンの魂は絶叫した。

しかし、見えない支配者の指先は、レオンの四肢を無邪気に、そして残酷に躍らせ続ける。

右へ、左へ。

一歩の乱れもない、完璧なステップ。

大剣士としての引き締まった四肢が、空中に美しい光の軌跡を描き、勝利を祝う「完璧な感謝の礼」をトレースしていく。

顔面には、あのプラスチックの仮面のような「無機質な笑顔」が、無理やり、引きつった角度で貼り付けられていた。


心の中では、アリアを殺した絶望と、神々への底知れぬ憎悪で狂い狂い、魂がボロボロに引き裂かれて死に絶えようとしている。

なのに、自分の肉体は、最愛の骸の灰の中で、まるで極上の喜劇を終えた役者のように、華麗に、楽しげにステップを踏み続けている。


クルリ、と肉体が最後のターンを決めた。

その瞬間、レオンの右手の指先に、何かが触れた。


アリアがその場から完全に消滅する直前。

彼女の身につけていた衣服の切れ端が、レオンの鉄の指先に、まるで最初からそう演出されていたかのように、ハラリと引っかかって残ったのだ。


その切れ端の温もりだけが、神経を通じて、狂ったレオンの魂へとドロリと流れ込む。


踊りは、終わった。

天の意思は、満足したようにレオンの肉体から引き抜かれ、唐突に「プツン」と支配の糸が切れた。


「あ、が、あぁ、あ、ああああああああああああああああああっ!!」


主権を取り戻したレオンは、その場に崩れ落ち、頭を地面に叩きつけながら絶叫した。

アリアを引き裂いた右手を、狂ったように石畳にこすりつけ、皮が剥け、血が吹き出すのも構わずに何度も何度も殴りつけた。


手のひらに残された、小さな青い布の切れ端。

アリアはもういない。

ここにいるのは、最愛を自らの手で屠り、その死骸の上で華麗に躍らされた、中身の空っぽな、おぞましい大剣士の「抜け殻」だけだった。


「許さない……絶対に、許さない……お前たちを、絶対に……!!」


夜空を見上げるレオンの、引き裂かれた瞳の奥で。

赤黒い憎悪の炎が、世界のルールそのものを焼き尽くすための、冷酷な決意へと変わっていった。

[QUEST_CLEAR: 報酬:割けたアリアの衣服の切れ端 ]

鈍色の大剣[ITEM_CONVERSION:SUCCESS]悲嘆の魔剣

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