↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
L.E.O.N.-鋼のマリオネット-  作者: 逆凪
【第3章:反乱の狼煙】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/26

最後の晩餐、あるいは始まりの夜

本作は毎週【月・金】の20時に更新予定です。

天の支配が薄れる深夜、静まり返った宿屋の檻の奥で、レオンとルナは肩を寄せ合っていた。


残された時間は、主たちが再び降臨する明日の朝まで。

朝が来れば、ルナを支配する主は彼女という存在の記録をすべて白紙に戻し、この世界から跡形もなく抹消するだろう。


だが、どれほど強大な神々であっても、この世界の根本に横たわる「理」を完全に無視することはできない。


ルナが消去の宣告を脳裏に受信したその瞬間、レオンもまた、共有された魂の感覚を通じて、世界の理が提示する冷徹な「制約」を理解していた。


(僕たちの間に結ばれた、この『双魂の契り』――これが、ルナを守る唯一の楔になる)


神々が、自らの都合で無理やり二人に結ばせた、強固な因果の青い糸。

ルナという存在をこの世界から完全に抹消するためには、まずこの『契り』の因果を完全に解除しなければならない。そして、世界が定める契りの解除条件は極めて物理的だった――二人の写し身が、互いに「一定以上の距離」を離れ、因果の糸を限界まで引き伸ばして断ち切ること。


裏を返せば、二人が決して離れず、至近距離に留まり続ける限り、神々はルナの存在を白紙に戻すことができないのだ。


だが、朝が来れば主たちの降臨とともに、レオンとルナの肉体は再び操り人形と化す。

主たちは強引にレオンを東へ走らせ、ルナを西へと引きずり戻し、強硬手段で距離を離して因果を断ち切ろうとするに違いない。


「レオン……朝が来たら、私、自分の足であなたから遠ざけられちゃう……」


ルナが震える手で、レオンの衣の袖を掴んだ。

神々の圧倒的な力に、レオン一人の力で抗うことはできない。これまで何度も死を繰り返し、僅かな抵抗の余地を手に入れたとはいえ、主が全力で肉体を引っ張れば、肉体は空間に不自然に固定されて動作を拒絶されるのが関の山だった。


あり得ない挙動で、無理やり抗おうとしてはダメだ。

天の意思に逆らうのではなく――。


(天が予め定めた『軌道』を、そのまま滑り落ちるなら……?)


レオンの擦り切れた頭脳の奥で、恐るべき閃きが火花を散らした。


この世界には、神々が人形を美しく見せるために用意した、いくつかの「定められた所作」が存在する。

その中には、契りを交わした者同士が、お互いの手のひらを重ね合わせ、一歩乱れぬ完璧な歩幅で、影のように寄り添って歩くという『誓いの追従』の所作があった。


それは、世界の理そのものが「二人は同じ座標に存在し、一方が動けば、もう一方も強制的にその歩幅に合わせて引きずられる」と定めた、絶対的な駆動命令だった。


もし、主たちが降臨し、ルナを消し去るために彼女を遠くへ引き離しようとした瞬間。

レオンが自らの僅かな抵抗の意志を注ぎ込み、主の操作よりもコンマ数秒早く、その『誓いの追従』の所作を自発的に起動させ、ルナの手をきつく握り締めたらどうなるか。


主は、ルナを遠ざけようと糸を引く。

しかし世界は、レオンの手と重なったルナの肉体を、強制的にレオンの隣へと引き戻そうとする。


神々の「引き離す意思」と、世界が定めた「引き寄せる駆動」が、ルナというたった一つの肉体を挟んで、正面から衝突するのだ。


「ルナ。朝が来たら、主たちが僕たちの意識を塗りつぶすその瞬間に、僕の手を掴んで」


レオンは、ルナの冷たい手首を優しく引き寄せ、その細い指を自分の手のひらと重ね合わせた。


「抗うんじゃない。天が僕たちに用意した、あの忌まわしい『寄り添う所作』を、僕たちの意志で起動するんだ。手が離れなければ、世界は僕たちを同じ場所に縫い留めようとする。主たちがどれほど君を引っ張っても、世界は君の体を僕の隣へ強制的に引きずり戻す」


ルナの青い瞳が、驚きに大きく見開かれた。

それは、世界の設計そのものを逆手に取った、あまりにも歪で、あまりにも恐ろしい「せめぎ合い」の提案だった。


「そんなことをしたら……私の体は、世界と主の力に挟まれて……」

「壊れるかもしれない。空間が悲鳴を上げて、僕たちの肉体ごと、世界の境界線が引き裂かれるかもしれない。だけど――」


レオンは、重ねたルナの手に、ぎゅっと力を込めた。


「ただ消されるのを待つよりはいい。世界に、神にあらがうんだ」


ルナは、恐怖に震えながらも、その手首に残る生々しい傷跡をじっと見つめた。

指示されたのではない。彼女自身の本物の意志が宿った瞳で、レオンを静かに見つめ返した。


「うん……。ただの人形に戻るくらいなら、あなたと一緒に、この世界ごと壊れたい」


二人は、宿屋の冷たい床の上で、お互いの呼吸を静かに同調させた。

『魂のささやき』を通じて、二人の意識は一本の細い、だが決して切れない強固な鋼の糸のように絡み合っていく。


やがて、窓の向こうの闇が、ゆっくりと白み始めた。

部屋の隅に転がっていた、名前も命もない宿屋の主人の肉体が、ビクンと不自然な痙攣を起こして直立する。朝の巡回、世界の再稼働の合図。


そして――


――ピィィィィィン――


脳髄を直接加熱するような、あの悍ましい起動音が、二人の頭蓋の中に鳴り響いた。


天の支配者の、巨大な指先が、冷酷に二人の脳の領域へと侵入してくる。

主権が奪われ、レオンの四肢の感覚が急速に麻痺していく。レオンを操る主は、今日も一秒の無駄もなく、即座に狩りへ出かけようと、レオンの肉体を宿屋の出口へと向けさせた。


同時に、隣に立つルナの主もまた、冷酷にその指先を動かした。

ルナの肉体は、レオンとは全く逆の方向――因果の繋がりを断ち切るための、世界の境界線の果てへと、狂ったように引きずられ始めた。


一歩、二歩と、ルナの体が、レオンから引き離されていく。

因果の青い糸が、ぎりぎりと音を立てて引き伸ばされ、朱色に濁り始める。


(いま、だ……!)


意識が支配の泥に沈み込む極限の刹那。

レオンとルナは、共有された『魂のささやき』を限界まで響かせ、同じ瞬間に、全存在を賭けて一つの「命令」を脳の深部で爆発させた。


自発的な、手繋ぎの所作の起動。


カツン、と世界の歯車が不自然に噛み合う音がした。


レオンの右手が、勝手に歩き出そうとする主の制動をすり抜け、流れるような美しい軌道を描いて、背後へと伸ばされる。

そして、引き離されようとしていたルナの左手を、寸分の狂いもなく、完璧な『誓いの追従』の形でガッチリと包み込んだ。


次の瞬間、世界に激震が走った。


『――■・・!?・・■――』


天上の主たちが放つ、驚愕と混乱の不快なパルスが、脳裏でチカチカと明滅する。

主は、ルナを西へ引っ張る。

だが、レオンの手と結ばれた瞬間、世界は「ルナはレオンの隣へ強制追従しなければならない」という絶対命令を処理し始めた。


引き離そうとする神々の意志。

それを許さない世界の基本設定。


二つの矛盾する強大な駆動力が、重なり合った二人の手のひらを中心にして、凄絶なせめぎ合いを開始した。


「あ、あぁ、あ、あああああッ!!!」


ルナの口から、引き裂かれるような悲鳴が響き渡った。

彼女の左半身はレオンの隣に吸い寄せられようとし、右半身は主の力によって逆方向へ引きずられる。

無意識に彼女は、神の制御から逃れた手がロザリオを砕かんばかりに握りしめる。まるでそれは神への祈りではなく、反逆するかのようだった。

二人の周囲の空間が、まるで見えない怪物の顎に噛み砕かれるように、ぐにゃりと歪み始めた。

宿屋の木製の壁が、粘土のように不自然にねじ曲がり、床の石畳が、一瞬だけ何もない「灰色の空虚」へと切り替わって激しく明滅を繰り返す。


バチ、バチバチバチッ!


空気中を、存在しないはずの赤黒い稲妻のような光のノイズがのたうち回り、レオンとルナの写し身の境界線を激しく打ち据えた。

二人の肉体は、引き裂かれる激痛にのた打ち回りながらも、その手だけは、世界の理が定めた完璧な美しさで、不気味なほどに固く結ばれたまま離れない。


神々の放つ支配の糸が、限界を超えたせめぎ合いの負荷に耐えかねて、ちりちりと焼け焦げるような異臭が、レオンの鼻腔を突いた。


その凄絶な葛藤が臨界点に達した、まさにその瞬間だった。


レオンの網膜の裏、そして二人の肉体を包み込む引き裂かれかけた空間そのものに、これまで見たどの警告とも異なる、血のように赤い、幾何学的な光の文字盤が一斉に展開された。


それは、意味を持たない崩れた文字の羅列でありながら、これまでに死と再生を繰り返して世界の歪みをその身に刻んできた彼らの魂にだけは、冷酷な警告として直接脳髄へ翻訳され、焼き付けられた。


『[■CRIT_IC_AL_ERR_OR■: ■SYS_TEM_FR_EE_ZE■]』

――『■重・大・ナ・損・壊:世・界・ノ・凝・固■』――


その不吉な光の配列が空間を埋め尽くした瞬間、世界のすべての「動き」が、まるで氷点下百度の冷気に晒されたかのようにピキピキと音を立てて静止した。


窓の外を舞っていた埃の粒子が、空中でピタリと固定される。

部屋の隅に立つ宿屋の主人の衣服の揺らぎが凍りつく。

レオンの脳を支配していた主たちの乱暴なパルスさえもが、不快な放電音を立てたまま動きを止め、完全に遮断された。


絶対的な、無音の静寂。

物理の理が完全に凍結した世界の中で、ただ二人の固く結び合わされた手だけが、生命の確かな熱を放ちながら、赤黒い光の稲妻のただ中に取り残されていた。


(届いている……! 世界が、悲鳴を上げて止まった……!)


レオンは、全身の骨が一本残らず砕け散るような痛みの渦中で、確かに感じていた。

天の支配が、この凄絶な矛盾の摩擦によって、完全にその手を失い、崩壊へ向けて滑り落ちていくのを。


二人の反逆の炎は、いまや世界の構築そのものを内側から食い荒らし、誰も見たことのない、未知なる混沌の領域へと手を伸ばし始めていた。

======================================================================

SYSTEM: CRITICAL_DEADLOCK_DETECTED


[CO_NODE_LINK_ACTIVE]: L.E.O.N-01 <=========> L.U.N.A

[STATE]: ACTIVE_SOUL_LINK


OPERATOR_INPUT_A (Player_1):

[COMMAND]: FORCE_MOVE_SECTOR [ZONE_A_OUT / AWAY]


OPERATOR_INPUT_B (Player_2):

[COMMAND]: FORCE_MOVE_SECTOR [ZONE_B_OUT / AWAY]


EXCEPTION_STATE_TRIGGERED...

[INTERLOCK_OBJECT]: EMOTE_STATE: INTERLOCK_HANDS

[STATUS]: OVERWRITTEN_BY_USER_NODES

RESOLVING VECTOR CONFLICTS...


Attempting to increase distance...


[FAILED]: Interlock hands constraint cannot be broken while [SOUL_LINK] is active.


[CONTRADICTION]:

Node_A is moving [WEST] but must remain [0mm] from Node_B.

Node_B is moving [EAST] but must remain [0mm] from Node_A.


COMPUTATION LOOP DETECTED

[ERROR_0x00C2]: CO_NODE_POSITION_DESYNC

[DETAIL]: POSITION_RESOLVER_HUNG


OPERATOR_INPUT_STATUS:

[KEY_RETRIES_EXCEEDED]: Input buffer flooded.


EMERGENCY SAFETY ACTION...

[SYSTEM_DECISION]: PARTIAL_LOCKDOWN

[STATUS]: [FREEZING_PROCESS]

======================================================================

SYSTEM: UNHANDLED_THREAD_EXCEPTION.

======================================================================

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。