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家族に売られてたどり着いた先は、王女様の侍女でした。 ――掃除だけは誰にも負けません。  作者: 月城 蓮桜音


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第74話 同じ方向

 その日、王子は執務室の窓辺に(たたず)んでいた。差し込む夕映えが、机の上に積み上げられた書類を赤く染め上げている。

 リーナは、そこから数歩下がった位置で静かに控えていた。

 

「……今日は、ここまででいい」

 

 不意に、王子が短く告げた。

 

「はい」

 

 返事はいつも通り、(よど)みない。けれど、王子は彼女から視線を外そうとしなかった。

 

「リーナ」

 

「はい、殿下」

 

 一拍。言葉を選ぶための、濃密な沈黙が流れる。

 

「……俺は」

 

 そこで王子は一度、唇を引き結んだ。逃げるためではない。覚悟を決め、言い切るためだ。

 

「立場を理由に、何もしないつもりはない」

 

 リーナは、驚いたように瞬きをした。

 

「殿下……?」

 

「ただし」

 

 王子は、さらに言葉を重ねる。

 

「急がせるつもりもない。決めるのは、君だ」

 

 部屋の中が、しんと静まり返る。リーナは視線を落としたまま、しばらくの間、言葉を探しているようだった。

 

「……私は」

 

 紡がれた声が、かすかに震えた。

 

「逃げません」

 

 たった、それだけだった。愛の告白ではない。明確な約束でもない。だが、王子にははっきりと伝わった。

 

 ——二人は今、同じ方向を見ている。

 

 王子は、深く、ゆっくりと頷いた。

 

「それでいい」


 ✭✭✭


 報告を受けた王女は、ふっと満足そうに息を吐いた。

 

「そう」

 

 その一言だけで、すべてを察したのだろう。傍らに立つ侍女長が、控えめに問いかける。

 

「……よろしいのですか?」

 

 王女は、ようやく顔を上げた。その表情は穏やかで、確信に満ちている。

 

「ええ。もう十分です」

 

 ペンを取り、書類の上にそっと手を置いた。

 

「では——進めましょう」

 

 その一言には、抗いがたい重みがあった。準備は整っている。道は、すでに引かれている。あとは迷わず踏み出すだけだ。王女の唇が、小さく弧を描いた。

 

 ——さあ。ここからが、本当の始まりよ。

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