第45話 揃った事実
報告は、夜に届いた。封は簡素。装飾も、余計な言葉もない。王族権限による調査——その名にふさわしい、無機質な紙の束だった。
私は机に向かい、最初の一枚を繰る。男爵家。構成人数。使用人の内訳。再婚時期。ここまでは、すでに知っている。問題は、その先だ。
魔力測定の申請記録:なし。教育機関への照会:なし。理由欄は空白。違反ではない。だが、偶然と切り捨てるにはあまりにも不自然だ。私は次の頁をめくる。——使用人からの聞き取り。
「長女は、屋敷の管理役でした」「勉強は不要だと言われていました」「文字を覚える必要はない、と」
家政を理由に、将来を摘み取る判断。さらに頁を進める。
「叱責は日常的でした」「直接の暴力は、少なかったと思います」「ただ……他の使用人からは」
そこで、一行の空白がある。
「叩かれることは、ありました」
報告書を握る指先が、白く強張るのを感じた。
「目立つ場所ではありません」「掃除の失敗、言葉遣い、動きが遅い時」「注意、という名目でした」
痕跡の確認。医師の所見。
「古い打撲痕が複数」「日常生活に支障はないが、継続的なもの」
私は、そっと目を閉じた。
次。——弟の治療費。支出記録は、確かに存在した。だが、その金額は——。
「奉公に出た時期と、支出増加が一致」
偶然と言い張るには、材料が揃いすぎている。最後の頁。
「奉公の経緯について」
紹介ではない。推薦でもない。
「実質的な取引に近い」
条件。期間。引き換え。私は、静かに紙を閉じた。
——揃った。誰も、法律を破っていない。誰も、明確な違反はしていない。だが。測らなかった。学ばせなかった。守らなかった。そして、都合のいい時だけ、戻せと言った。それはもはや、単なる判断の積み重ねではない。
私は兄の執務室へ向かった。報告書を机に置く。
「……出たな」
「ええ」
兄は、黙って目を通す。途中で、指が止まった。
「使用人の暴力」
「黙認ね」
「弟を使った呼び戻し」
「彼女が逆らえないことを分かってやっている。悪質だわ」
兄は、深く息を吐いた。
「これで——」
「ええ」
私は、はっきりと言葉を紡ぐ。
「これは、事件として扱える」
感情ではない。客観的な判断だ。兄は、短く頷いた。
「もう、一家庭の問題じゃないな」
「ええ」
私は立ち上がる。
「ここからは、制度が動く」
誰かを罰するためではない。取り戻すために。
——奪われた選択肢を。
私は、次の命令書に手を伸ばした。もう、迷いはない。この件は、白日の下にさらされる。失われた光は戻らない。けれど。
葬られた理由は、必ず、照らされる。
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