表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族に売られてたどり着いた先は、王女様の侍女でした。 ――掃除だけは誰にも負けません。  作者: 月城 蓮桜音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/83

第37話 兄妹の温度差

 昼下がりの回廊は、珍しく人影が少なかった。王女宮を抜ける道すがら、兄は手にした書類をくるりと丸め、気の抜けた声を出す。

 

「しかしまあ」

 

 前を歩く私に向けて、軽い調子で続けた。

 

「いい侍女を拾ったな」

 

 私は、歩みを止めなかった。

 

「拾ったんじゃないわ」

 

 即答だった。兄の足音が、ぴたりと止まる。一拍置いて、少しだけ意外そうな声が返ってきた。

 

「……ほう?」

 

 私は振り返る。

 

「偶然でも、運でもないわ」

 

 言葉を選ぶ必要はなかった。

 

「最初から、そこにいたの。私が見ようとしなかっただけ」

 

 兄は、口を開きかけて、閉じた。からかうつもりだったらしい表情から、わずかに笑みが引いていく。

 

「随分、肩入れしているな」

 

「ええ」

 

 否定しない。

 

「だから、手放さない」

 

 冗談ではない。強がりでもない。ただ、決めたことを告げただけだ。兄はしばらく私を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。

 

「……所有じゃないな、それは」

 

 私が沈黙で応えると、兄は苦笑した。

 

「覚悟、か」

 

 私は頷いた。兄は、ほんの少しだけ視線を逸らし、いつもの調子に戻った。

 

「重い王女様だな」

 

「今さらでしょう?」

 

「違いない」

 

 二人で、歩き出す。前を行く妹の背中を見ながら、兄は思った。拾ったんじゃない。囲い込んだのでもない。——見つけ出し、背負うと決めたのだ。それは、王女としての判断であり、人の上に立つ者としての選択であり、何より、一人の人間としての覚悟だった。

 

 兄は、もう一度だけ、後ろを振り返る。視線の先に、あの侍女はいない。それでも、不思議と「断ちがたい絆」の予感があった。……面倒なことになりそうだな。だが、その面倒を、この妹は、引き受けるつもりらしい。兄は、口角をわずかに上げた。

 

 ——なら、俺も、少しは付き合うとするか。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ