表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族に売られてたどり着いた先は、王女様の侍女でした。 ――掃除だけは誰にも負けません。  作者: 月城 蓮桜音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/82

第35話 知られた真実

 兄が測定の結果を知ったのは、翌々日のことだった。公式の報告ではない。書面でもない。——私が、口頭で伝えた。

 

「測定は終わったわ」

 

 執務室でそう告げると、兄は一瞬だけ眉を動かした。

 

「……で?」

 

「結果は、想定を上回るものだった」

 

 それだけで、十分だったらしい。兄は、それ以上は聞かなかった。数字も、属性も、詳細も。訊けば、面倒な立場になると分かっている男だ。

 

「噂は?」

 

「抑えている」

 

「そりゃそうか」

 

 短いやり取りで終わる。——いや、終わらせた。兄は、私を真っ直ぐに見る。

 

「守るつもりだな」

 

 問いではない。確認でもない。既に分かっていることを前提とした言葉。

 

「ええ」

 

「……了解」

 

 それだけだった。だが、その返事は軽くない。兄が「了解」と言う時は、腹を(くく)って動く時だ。その日の午後、外国からの使節が王女宮を訪れた。規模は小さい。形式ばらない挨拶と、今後の予定の確認だけ。通訳が入り、私は定型通りの応対をこなす。

 

 リーナは、いつも通り控えていた。前に出ることはない。発言もしない。ただ、影のようにそこにいる。使節が口にした挨拶は、少し訛りのある言葉だった。通訳が訳す。私は頷き、返礼を述べる。場は、何事もなく終わった。

 

 ——そのはずだった。謁見が終わり、私が席を立つと、リーナが静かに後ろにつく。廊下に出たところで、私はふと足を止めた。

 

「……今の挨拶」

 

 独り言のように言う。リーナは、少しだけ迷う素振りを見せてから、口を開いた。

 

「はい」

 

 そして、使節が口にした言葉を、ほぼ同じ音でなぞってみせた。意味は添えない。ただ、音だけを。私は、息を呑んだ。完璧ではない。けれど、初めて聞いた言葉を、そのまま再現できるほど正確だった。

 

「意味は?」

 

「分かりません」

 

 即答だった。誇る風でも、遠慮する風でもない。

 

「……そう」

 

 それ以上は、聞かなかった。教えていない。読ませてもいない。それでも、彼女は覚えている。耳で。

 

 私は歩き出す。リーナも、何事もなかったように続く。だが、私の中で、また一つ、線が繋がった。

 

 掃除の順番。空気の違和感。音で気配を拾う癖。言葉を、音として蓄える力。——これは、偶然などではない。

 

 夜、兄が再び執務室を訪ねてきた。

 

「外国使節、来てたな」

 

「ええ」

 

「……あの侍女」

 

 少し間があった。

 

「言葉、なぞっただろ」

 

 私は、目を伏せずに頷いた。

 

「聞こえていたのね」

 

「聞いてた」

 

 兄は、短く息を吐く。

 

「厄介だな」

 

「……ええ」

 

 厄介。危険、ではない。問題、でもない。扱いを間違えれば、壊れる。だからこそ、慎重になる必要がある。

 

「まだ、手放す気はないんだろ」

 

 兄の言葉は、静かだった。

 

「ないわ」

 

 即答した。兄は、それを聞いて、小さく笑った。

 

「なら、俺も様子を見る」

 

 ——“様子を見る”。それは、兄なりの距離の取り方だった。踏み込まない。だが、目は離さない。

 

 私は、確信する。もう、後戻りはできない。だが、急ぐ必要もない。調査は、次の段階に入った。疑うためではない。

 

 ――すべてを知った上で、守るために。

いつもお読みくださり、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ