第24話 決意
その夜、私は眠れなかった。寝台に横になっても、呼吸のリズムが定まらない。苦しいわけではない。ただ、浅い。——考えすぎだ。そう思って、一度、目を閉じる。けれど、すぐにあの言葉が脳裏に浮かんでくる。
「使ってはいけません」
あの声。言い訳でも、遠慮でもない。揺るぎない事実として、そこに置かれていた言葉。私は、寝返りを打つ。「使えない」ではなかった。「使わない」でもなかった。「使ってはいけない」。それは、能力の問題ではない。選択の問題ですらなかった。
——制限だ。
私は、天井を見つめた。もし、あの子が魔法を使えると分かっていたら。もし、使えば楽になると分かっていたら。それでも、使わないように生きてきたのだとしたら。胸の奥が、ずきりと痛む。怒りが、首をもたげそうになる。誰に? 何に? ——今は、まだだ。
私は、ゆっくりと息を吐いた。感情を、外に出さない。あの子は、説明しなかった。理由を語らなかった。それは、語れないからではない。語る必要がないと諦めているからだ。
私は、ふと昼間の光景を思い出す。空気が乱れた瞬間。指先を握りしめた、あの仕草。恐怖ではない。怯えでもない。——癖だ。長い時間をかけて、その身に刻み込まれた反射。
私は起き上がり、窓辺に立つ。夜の王宮は、しんと静まり返っていた。整えられた廊下。整えられた空気。それらを、あの子は「使わずに」維持してきたのだ。誰にも気づかれずに。評価もされずに。
私は、両手を固く握る。今、怒ってしまえば簡単だ。誰かを責めて、正しさを振りかざして。けれど、それをした瞬間——あの子は、また一歩、心を引くだろう。守るためには、まず、知らなければならない。
私は、決めた。明日は、問い詰めない。裁かない。自分の正義を持ち込まない。ただ、事実を集める。あの子が、何を背負わされてきたのか。誰が、何を「しなかった」のか。怒るのは、そのあとでいい。
私は、深く、息を吸う。
——大丈夫。今の私は、あの子の前で、正しく踏みとどまれる。それだけで、十分だ。




