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家族に売られてたどり着いた先は、王女様の侍女でした。 ――掃除だけは誰にも負けません。  作者: 月城 蓮桜音


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第22話 知りたい

 侍女長の執務室には、独特の静けさがあった。書類が擦れる音すら、整えられているかのような空間。

 

「記録を確認したいのだけど」

 

 私の言葉に、侍女長は一瞬だけ目を伏せたが、すぐに頷いた。

 

「どの件でしょうか」

 

「……リーナのことを」

 

 それだけで、察したらしい。侍女長は無言で立ち上がり、壁際の書架へ向かった。

 

「奉公人の記録は、こちらになります」

 

 差し出された帳簿は、古い。紙の色も、綴じ方も、使い込まれている。私は頁をめくる。名前。年齢。出身地。——十五歳。男爵家の三女。そこまでは、特別ではない。

 

「奉公に出た理由は?」

 

「家計の都合だと聞いています」

 

 即答だった。

 

「弟の治療費が必要だったと」

 

 胸の奥が、きしむ。私は、さらに目を走らせる。奉公開始時期。面談記録。技能欄。……空白が多い。

 

「魔力量の測定は?」

 

「ございません」

 

 侍女長は、淡々と言った。

 

「実施されておりませんので」

 

「なぜ?」

 

「不要と判断されたのでしょう」

 

 その言葉に、私は手を止めた。不要? 王女付きの侍女である以上、最低限の魔力量測定は——慣例だ。私は、別の頁を開く。業務内容は、まだ掃除が主だ。昨日の作業時間は……あまりに長い。明らかに、魔力補助を前提とした仕事量だ。それを、一人で?

 

「彼女の補助をしている人がいますか」

 

「いいえ」

 

 侍女長は、静かに首を振る。

 

「基本的に、単独で行動しています」

 

 帳尻が、合わない。魔力量の記録がない。なのに、魔法を使うことを前提とした仕事量。私は、頁を閉じた。

 

「……彼女の家族について、もう少し」

 

「母親は数年前に他界しています。父親は存命ですが、詳細な記録はありません」

 

 詳細が、ない。病歴も、教育歴も、魔法教育の有無も。——何も。私は、指を組んだ。これは、偶然だろうか。それとも、意図的に削られたものだろうか。

 

 侍女長は、私を見ない。だが、その沈黙が「異常」を肯定している。私は、深く息を吸う。怒りは、まだ出てこない。ただ、胸の奥に、冷たい疑問が沈む。

 

 ……親は、何をしていたの? その問いは、言葉にならなかった。声に出すには、まだ早い。

 

「——ありがとう」

 

 私は、帳簿を返した。

 

「もう少し、調べます」

 

 侍女長は、静かに一礼する。

 

「必要であれば、古参の侍女にも話を通しましょう」

 

 私は頷いた。調査は、始まったばかりだ。これは、疑うためのものではない。


 ——守るために、知るための調査だ。

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