表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家族に売られてたどり着いた先は、王女様の侍女でした。 ――掃除だけは誰にも負けません。  作者: 月城 蓮桜音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/84

第20話 侍女長と真実

 今はまだ、真夜中だった。王女宮の廊下は静まり返り、足音がやけに響く。私が侍女長の部屋を訪ねるのは、久しぶりだった。扉を叩くと、すぐに返事がある。

 

「どうぞ」

 

 侍女長は机に向かっていた。書類の山はすでに片づけられ、灯りも落とされかけていた。

 

「遅くに、ごめんなさいね」

 

「いえ。お待ちしておりました」

 

 ……待っていた? 私は眉をひそめたが、侍女長はそれ以上何も言わず、椅子を勧めた。

 

「二つ、確認したいことがあります」

 

 私の声は、思っていたよりも低かった。

 

「私の侍女の件です。それと……あの噂は、どこから流れたのですか」

 

 侍女長は即答しなかった。一度、ゆっくりと瞬きをしてから、口を開く。

 

「意図的です」

 

 短く、はっきりと。

 

「王女宮内の噂は、わたくしの管轄です」

 

 胸の奥で、何かが落ちる音がした。

 

「……なぜ」

 

 問いは、それだけだった。

 

「選別のためです」

 

 侍女長は、目を伏せない。

 

「王女付きの侍女には、技術よりも先に、態度が求められます。噂に流される者。先入観で動く者。それらを、早い段階で弾く必要がありました」

 

 私は、唇を噛んだ。

 

「では……リーナは」

 

「最後の面談でした」

 

 その言葉が、重く響く。

 

「書類上、他の奉公候補はすでに不適と判断しておりました。正直に申し上げれば——」

 

 侍女長は、少しだけ言葉を選んだ。

 

「リーナは、頼みの綱でした」

 

 私は、息を詰めた。

 

「彼女の受け答えは、曖昧でした。自己評価も低く、弁明もしない」

 

 侍女長は、静かに続ける。

 

「ですが、質問に対する理解力は高かった。何より、“余計なことを言わない”」

 

 ——怒られても、何も言わなかった。あの時の光景が、鮮明に蘇る。私は、何を言った? 彼女は、どうして黙っていた?

 

「リーナは……叱責を受けても、視線を逸らさず、言い訳もしなかったわ」

 

 侍女長の声が、わずかに低くなる。

 

「はい。その態度を、わたくしは評価しました」

 

 胸が、痛む。評価した。——私ではなく。

 

「……彼女は」

 

 声が掠れた。

 

「自分が誤解されていると、分かっていたのですか」

 

「はい」

 

 迷いのない返事だった。

 

「ですが、説明する必要はないと判断したのでしょう」

 

 私は、背もたれに身を預ける。怒りは、もうなかった。代わりにあるのは、自責だ。順番を間違えた。見て、聞いて、確かめる前に——裁いた。

 

「明日」

 

 私は、ゆっくりと立ち上がった。

 

「彼女に会うわ」

 

 侍女長は、何も言わない。それが、承認だった。扉を出る直前、私は一度だけ振り返る。

 

「……あの子は」

 

 喉が詰まる。

 

「怒られても、何も言わなかった」

 

 侍女長は、静かに頷いた。

 

「ええ。それが、彼女の仕事でしたから」

 

 その言葉を胸に、私は廊下へ出た。——もう、逃げられない。明日、私は頭を下げる。王女としてではなく、一人の人間として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ