第98話 [楽園]
[ケイ視点、場所は[楽園]]
天国とはこういう所を指すのかもしれない。
人々は皆笑顔で、好きな事をして、不平不満なく幸せに暮らす毎日……
「いや…おかしいだろ」
そんなもの、違和感しかない。
吐き捨てる様にケイは呟いた。
苦労して何かを達成するのが全て。
なんてクソみたいな理論を振りかざす気はないが、人生には少なくとも小さな達成感の積み重ねは欲しい。
(この楽園より、綺麗な言葉はあるのか?)
説得して、皆に楽園から脱出させる?そんなものは不可能だ。現実はここより楽園…なんて事は万に一つないのだから。
お花畑が似合うこの楽園の人達は生きて…いるのだろうか?そもそもこんな所に意識を保っているケイの方がおかしいのかもしれない。
少し歩き、花に触れると……
「結界…しかも強力な…」
地面や壁に触れただけじゃ本来強弱など分からないものだが、結界術を使った事のあるケイだからぼんやりと感じた。
しかもオリアーナが作ったという箔つきのせいでここが最高硬度の牢屋だろう。
ルティアはここを破りケイを送り込んだのか。
姉妹揃ってとんでもない実力者だ。
恐ろしい。
「とりあえず…探索だな。ここにいれば良くも悪くも妨害はない」
仲間はきっと、戦ってくれている。それに応える為にケイは“まだ”戦う。
最後まで………
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[レノア視点、場所は服屋]
「…と言う感じで良いですね?」
ルティアを含めた作戦会議が終わった。
やる事はシンプル。
ケイを[楽園]からの救出、オリアーナを倒す事。
本当はルティアをメンバーに含める気だったのだが、状況の急変が最も恐ろしい。
彼女は遠くからの援護に努める事にした。
「ケイさん救出は……」
椅子から立ち、拳に力を入れたのは……
「俺が参謀を助ける」
ハウ・ゲレーロだ。
他のメンバーは全てオリアーナへと集中させ、ケイを救出。
その後はケイを含め戦い有利に持っていく。
救出にハウが挙げられる理由としては、タイマン特化、他メンバーのサポート性能がない事。
そして……
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[数分前]
「俺が参謀を助ける、こればかりは譲れない」
作戦の流れとしてはレノアを救出に向かわせるつもりだったが、ハウがまさかの立候補。
「ごめん、いくらハウ君でも譲れない」
ギロっと一瞬だけ、ハウを睨みつけたレノアだが彼は動じない。
“想定通り”とでも良いだけだ。
「それに…私は戦える!」
「…だからだ」
「?」
彼女は戦える。[燃焼]を慣らしたララを真正面から打ち破ったレノアを戦力として数えているに決まっている、だからこそ…
「“僧侶”としてのお前と“剣士”としてのお前。どちらも貴重な戦力だ、それに比べて俺は自分関係の能力しか持っていない」
『魔の目』に神の四天王レインは対応し無効化された。一回は不意打ちで効いたとしても二回からは絶対に対応されるだろう。
無論[刻刹]は動体視力の強化と言うだけで他者に何かできる訳ではない。
ハウは現実をしっかりと受け止め、レノアに託すべきだと理解している。
(レノアが参謀に特別な感情を向けているのは知っている。だが、この戦力を手放すには…あまりにも惜しい)
まだ納得していない彼女にトドメを刺す様にハウは続ける。
「俺達は絶対に勝たなくてはならない。生き残るだけなら誰でもできる、そこから相手の攻撃を潜り抜け、勝たなくてはならないんだ。レノア」
合理的で、ともかく勝ちを優先したハウの意見に、レノアは黙り込んでしまった。
「心配するな、参謀は俺が命にかけて救いだす」
「………うん。頼んだよ!!」
あぁ!と力強く返したハウに、ケイ救出を任されたのである。
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[視点はケイ:場所は楽園]
「どこもかしも…花畑だな」
幸せそうにしている人々を見るに、この世界の方が正しいのではないかと思ってきた。
何も苦労なしに幸せを享受する世界──なんと素晴らしい事か。
ここの支配を受けていないのは何故か、正直それは分からない。
(“チャンス”ではあるか)
いつ[楽園]に支配され、ルティアと思い込まされたリサの様にされてもおかしくはない。
さっさと動いて、情報を集めるのだ。
「よし!みんなに会いにいくんだ」
お花畑の調査が始まる!!
取り敢えず、端の端まで行ってみると壁…所謂この楽園の端にぶつかった。
そんなに歩いていない。
体感十五分くらいで着いた気がする。
「硬。」
この奥に何があるんだと思うが、ひとまず置いておく。
端に何かあるかと思ったが思惑は外れ。
オリアーナ…彼女は思ったより慎重だ。
[楽園]に閉じ込められた人間は例外なく支配を受けていると言うのにこんなに強固な結界。
絶対的な実力に裏付けられたその性格は彼女が神である何よりの証明になる。
「…聞き込みだな」
先程の場所に戻り、幸福感に包まれた人達に話しかける事にした。
往復に三十分あたり、時間を無駄にした気がするが…まぁ選択肢を一つ一つ潰していくしかない。
早速、幸せそうに空を眺める男を見かけた。
「すみません、この場所について何か知りませんか?」
「アリサ…パパと何して遊ぶ?俺が遊びたいもの?そうだなぁ〜?パパはな〜鬼ごっこしたいなぁ……」
無視。なんとなく想像はついていたが。
「触れようとしても触れられない…か」
ここら辺りの人は多く、話しかけようとしても無視され何かブツブツ喋る人形の様な存在になっていた。
「すみません──」
「お父さん……私ね…画家になる夢を……」
─────
「すみません」
「僕は…医者になって…みんなを…助けたい」
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「あの…」
「爺ちゃん…釣りでも…しよう…よ」
「…………………」
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楽園による支配。それは単に人をがんじがらめして牢屋に閉じ込めているだけではない。
その人その人の幸せを願ってここに閉じ込めているのだ。
「人が…それを望んでいるから」
きっとこの花畑も俺に合わせた世界。
人によって天国は変わるから。
ほぼ全ての人に話しかけたが特に収穫はなし。
何もない。
「お困りかい?」
女の人に話しかけられた。
誰……?いや、聞き覚えのある声だ、こいつと殺し合った仲だ。
振り返るとそこには、白髪の美しい女性…
「オリアーナ…!?」
「?」
ケイに向けられる殺意にいまいちピンと来てない様子だ…忘れられたのか…それとも?
「……ムムム…成程!君は何か勘違いをしているな」
「勘違い?」
「私はオリアーナでありオリアーナじゃない」
そう言っても信頼できるわけがない、ケイは彼女に心臓を貫かれ一回死に、彼女に殺され、助けられた。
二度殺されるのはごめんだ。
「…信頼してない感じだね」
「まぁな」
雑に返したケイ。この楽園のシステムか不明だが魔力を一切感知できない。
(武器を作れない…!格闘で応戦できるか?)
彼女が怪しい動きをした瞬間、腹パンを狙う。
ほとんど魔力のない彼にできる最大限の抵抗…
「ここで争い事なんてできないよ、私も…君も」
どこか残念そうに呟いた彼女に、取り敢えずケイは殺意を鎮めた。
殺そうと思うなら最初から話しかけずに殺すか、そもそも。
「それじゃあ行こうか」
「行く?」
「君がここに来たのは理由があるのさ」
二人はこの花畑の楽園をただ歩く。
そこには変わり映えのない景色があるだけで、特に何もないと言うのに。
「……忘れる事が有難いと思うとの同時に、思い出す事は苦痛になるのさ」
「…………?」
人がいるという事実が、どこかケイを冷静にさせる。
彼女がこれから何を話し、何を思うのか。
それは彼だけに決められた使命である。
時間帯は大体ここら辺りで投稿します。
よろしくお願いします。




