第94話 風vs雷
[時は二日前、場所は服屋]
作戦会議中、レノアはずっと黙っていた。
「どうしたの?レノアちゃん?」
リサが心配そうに聞くと、現実に戻ったかの様にはっとしたレノアは慌てて
「あ、うん、大丈夫」
と、返す。
頭の中ではずっと何故ケイは一人で背負ったのかと考えてしまい、そこだけに意識が向かって作戦会議に集中できない。
するとフレアがレノアに近づきデコピン
「あいた!」
「私達は仲間なんだ、不満や考えがあるなら言った方がいい」
きっとみんな、同じ事を考えているだろうから。
少し黙った後、彼女は重い口を開いた。
「……どうして…ケイ君は私達を遠ざけたのかな…って」
その時は、レノア達がケイにまつわる記憶が消去されるなど分からなかっただろうに。
そうして彼は、全員を気絶させレノアを…斬った。
後は頼むと言い残して。
「あいつは最初から…一人でオリアーナに挑むつもりだったんだ」
悔しそうに呟くハウにレノアはまだ納得していない。
「それならなんで私を斬ったのかな…」
斬られた事については正直怒ってないし、全く致命傷にもならなかった。
少し前に気絶していたフレアが血だらけのレノアを治療し次のループで全て無かった事になったのだ。
「考えられるのは…まぁ大方お前達を巻き込みたくなかったんだろうな」
ガイルがここで口を挟む。
必要なのは“ケイが裏切った”ではなく、“ケイがレノアを斬った”という所。
仲間を信じ、仲間の為に生きている彼がそこまでしたという事実が大切なのだ。
実力だけ見れば、ケイより強い五傑だったりと頼る所はあった。
だがもしオリアーナが[永劫]の時に仕掛けたルールを無視できる場合、貴重な戦力をドブに捨てる事にもなる。
ルティアが切り札かもしれないという狂気にも近い無根拠な考えで、彼はこのループを破壊した。
「……私達を信じていた…」
今はただ、彼の意志に報いるしかやる事はない。
レノアはレノアの敵を…切り伏せるのみだ。
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[場所は八階、時は現在]
互いに技を出し合い、二人は均衡を保っていた。
保ちたくて保っている訳ではないが、本気をいつ出すかが重要だ。
「[燃焼・反]」
トルネードの様に回転するララの風は[嵐]よりカウンターに優れてはいないが、その効果は剣戟の時に強く出る。
二度三度…と剣がぶつかるとレノアの剣が弾かれた。
剣を真っ直ぐ振るう事による衝撃と、
風の回転による鋭い衝撃がララとレノアの間にある膂力の差を補っているのだ。
「………!!」
剣術も村で戦った時よりも鋭くなっている。
敵に剣豪がいるのだ、まぁ当然と言えば当然だ。
風と雷。
ケイとドライブの様にどちらが正しいかを決める戦いになるかもしれない。
(スピードは互角、パワーは奴の方が上か、力押しでこられると少し困るな)
気配を曖昧にする結界を破壊された事により、ララは仲間の全滅を悟った。
故に、レノアを軽く倒し他メンバーの惨殺をも求められる。
こうなる場合も想定していた。
そのためにララの秘策。
「[燃焼・颶]」
ララが編み出した四つの型の一つ。[颶]は“武器の魔力”を燃料として使う、サポート能力。
戦いにおいては、[反][疾][嵐]の三つを大幅に強化するものに過ぎない。
人体実験の繰り返しで魔力を抽出。
それで作ったのが[宝剣・裏]
圧倒的な強度を誇る。
(スピードが上がった!?)
無論その事を知らないレノアは、“過程”よりも“結界”を意識。
加速方法よりも、加速されたならどうするか?を重視する。
竜巻の様にレノアの周りを何周もして、攻撃の機会を伺うララ。ここでもし燃焼を使っても発動前に潰されるだけだろう。
「…まだ追える!」
背後に迫り斬りかかってくるララ、それをレノアは…[燃焼]を腕だけに纏いカウンター。
ギリギリで避けられたが、ララの攻撃を無効化する事には成功した。
「…ぶね」
かなりの速度で斬ろうとしたはずなんだが…と不満の一つこぼしたくなったが抑える。
肉体の負荷を考えないレノアの一撃で腕はあらぬ方向に曲がっていた。
「そんな怪我じゃもう利き手で触れないだろう」
「別にこうすればいい話でしょ」
左手の光により、レノアの右手はどんどん元に戻っていく。彼女の才は……
(僧侶!治癒魔法か……そう言えばこいつ、僧侶一家のマフォード家の人間か)
あの家から産まれる人間は僧侶としての鍛錬を積まれ、他の僧侶として一線を画す実力を得るのだ。
その四女がレノアである。
(だが魔力は確実に削れる、あの時の反省を活かして戦うとしますかね)
「[燃焼・斬]」
雷の斬撃を飛ばし、ララはそれをしゃがんで避けた。
勢いそのまま奴に接近したレノアは剣を振るう。
型に嵌めた彼女の剣技は目新しさこそないものの一つ一つが強力だ。
「やるね……ボクとしても正直こんな剣戟を味わう事なんて二度とないからね」
真っ直ぐな鋭いレノアの一撃はこちらも綺麗に防御しなければ姿勢を崩されるだろう。
(まぁ…でも)
ここでララはレノアが剣を振り上げた時に、片手で刃先を掴んだ。
(この人片手で!?)
もし掴む瞬間を、振り下ろす時にしていれば間違いなくララの手は両断されていただろう。
「それ、ダメ」
寸分の遅れなく利き手で握る剣でレノアの胴を両断しようとしたが……
「[燃焼・放]」
「!!」
剣から光が漏れ始め閃光の様に輝く時、雷が“死”を知らせるのだ。
雷の大規模放電。
人体に蓄え加速装置として使うのではなく、ただ魔力密度の高い雷を放電は最も殺傷能力が高い。
「……チッ」
ギリギリで回避した様に思えたが左腕と足が酷い火傷に襲われた。痛みと痺れが走る。
(あんな大規模放電、魔力の消費は辛いだろうが……)
少し受けただけで、半身にここまでのダメージ。
あれを連発できるなら……流石に危険だ。
剣にも肉体にも負荷がかかるその威力はドライブ程コントロールできている訳ではない。
ある程度のインターバルが求められるだろう。
「でも、二度目は──」
投げた剣がみるみる光っている。
二発目──
急いで弾くとその“短剣”は放電せずそのまま壊れた。
ダメージは与えられない、ただ隙は出来る。
レノアは滑り込む様に背後へと回り剣を構えていた。
ララは顔だけこちらを見ているが体は反応できていない。
剣を振ると、まさかのノールックで防御された。
レノアの目が大きく見開かれ、あの時の戦いを思い出す。
(ノクシアさんみたいに、曖昧な姿勢での防御!?)
そのままララは体を捻りレノアを弾き飛ばした。
思うがままに戦う奴のセンスは異様と言える。
一度聞いたもの、一度見たもの、それを再現する“才”は彼女が最も突出しているものだろう。
「やっぱり…そう上手くはいかないな」
レノアとは異なる才能は際限なく突き進む。
(彼女が優秀なのは充分に伝わった。
レノアも“万能”で少なからずリスクを負う様な戦い方はせず少なからず安定気味だ)
“安定して殺せ”と強く訴えてくるララの理性。
ここでお互いにダラダラと戦い、出来た隙を突いて…もしくは突かれて死んだ場合、それは面白い戦いと呼べるのだろうか。
そんなものはつまらない。
(戦いには“スパイス”がなきゃな)
ララは大事そうに剣を見ると、レノアをニヤニヤした表情で見据える。
「ボクは[燃焼]…この技術が大好きだ!」
「……?」
「ケイと初めて戦った時…あの時見た“雷の一撃”は素晴らしい…ボクもあの境地へと行ってみたいと柄もなく思ってね」
まだここに着く前の話、ララのアジトに乗り込んだ時にケイが見せた[燃焼]は彼女の部下達を一瞬で気絶させた。
「人生は変わる……こんな胡散臭い言葉を信じるきっかけになったよ、やはり戦いに必要なのはあれ程の“力”!!だと確信した」
天を仰ぎ、剣を空に掲げたララ。その顔には自信と高揚に満ちている。
「[燃焼]は『殺す技術』としてこれからボクは世界に広めるさ」
レノアの目が熱くなった様にカッと見開き、手は震え、剣を強く握っていた。
それが怒りによるものだと、すぐ分かったから。
「お前が…お前が……!!」
───れのあさん…俺…人…殺しちゃって……
───俺は人殺しだ、誰がなんと言おうと。
それに苦しんでいる人間を…知っているから。
「お前が…!!それを語るなぁ!!」
レノアとは思えない程、声を荒げ大声を出した彼女はララへと急接近。
誰かを守る為に使う技術か、誰かを殺す為に使う技術なのか、どちらも選んで間違いはないと思う。
「それでも…あなたなんかに……それは語れない!」
「それを決めに行くんだろ!レノア・マフォード!!」
もう出し惜しみのない戦いが始まる。
ケイが不在な今こそ決めるべきだ、この技術は“守る”ものなのか“殺す”ものなのかを───
次回:敬意




