前進
三歩進んで、二歩下がる。
昔どこかで聞いた歌を思い出しながら、私は扉を出た。扉の向こうには、さわやかな草原が広がっていた。
一歩ずつ、足元を踏みしめながら歩いてゆく。自由だ。俺は自由だ。そのことが、だんだんと感じられてくる。
足どりは次第に軽くなっていく。先ゆく道は明るい。そんな良い気持ちにひたりながら、私は歩いていた。
そんな私を、もといた建物の中から覗いている人物がいた。
「いいんですか、所長」
近くにいた人間が、その人物に話しかける。
「あいつを出してしまって」
所長と呼ばれた人物は、黙って私を眺めている。
「いいんだ」
不意に、所長が口を開いた。
「いいんだ、あれで」
そう言ったきり、彼は口をつぐんでしまった。周囲の人間も、あえてそこから言葉を発しようとはしない。
私は歩く。どんどん歩く。
そうこうしているうちに、お腹がすいてきた。無意識に腹をおさえる。それでも足はどんどん進んでゆく。
「どこかに宿でもないものだろうか」
そう思いながらあたりを見回す。しかし、気持ちの良い草原には建物らしい建物もない。
なんとなく、心細さが私の頭をかすめるが、それを振り払うように進んでゆく。
もといた建物では、もう私を気にかける者はいなくなった。
私の姿はすこしずつ小さくなり、やがて地平線の向こうに消えていった。




