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「あいつは丈夫だけが取り柄だからな」と言う夫には愛想が尽きましたので離縁します  作者: はるくうきなこ


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9/18

9今夜、泊まるところ


 オリディアはルノス商会の店の裏手にある住まいに案内された。

 大きな家には幾つもの部屋があって、各部屋の中を見せて貰った。部屋にはベッドや収納庫、小さな机や椅子があって、整ってないベッドや机の上に無造作に置かれた小物、椅子に掛かったままの上着などがあって、実際にそこで暮らす人の姿が垣間見えた。

 食堂は20人くらいは入れる広さで真ん中に大きなテーブルがあり椅子もたくさんあった。

 「料理人がいるから食べる事は心配ない。但し時間が決まっているから気をつけて、掃除や洗濯は自分でやる事になるけど」

 「それは大丈夫です。自分で出来ます」

 「侯爵夫人が?」

 「ええ、家計は火の車でしたので、最低限の使用人で家の事を賄っていましたから」

 「それならここはピッタリだと思う。部屋に案内するから少し休んだ方がいい」

 「はい、少し疲れました」

 オリディアは会頭やエドワードの好意に甘える事にしてその日はゆっくり休んだ。

 夕食はエドワードやルノス商会の従業員達と一緒に取った。

 おかずはアルノール公国の羊肉の煮込みだった。母が生きていた頃よく作ってくれた物だった。

 オリディアは懐かしくておかわりをしてしまった。

 事務係のアメリアさんも会計係のルーライさんも副会頭のクラビスさんもみんなが一緒にテーブルを囲んで和やかで楽しい食事だった。

 誰も自分を怪訝な目で見たりしない。屈託のない笑顔で話しかけられ言葉を交わし食事を共にした。

 エドワード様に部屋まで送られて部屋に戻った。

 「オリディア、ゆっくり休んでくれ。俺は家に帰るから明日の朝また来る。おやすみ」

 「エドワード様、あなたに会えていなかったらどうなっていたか。本当にありがとうございました。でも、エドワード様もお忙しいんでしょう?明日は私一人で大丈夫ですから」

 「俺の都合は自分で決める!いいからオリディアはゆっくり休んで、じゃ、おやすみ」

 エドワード様は返事を待つ気がないようい急いで帰って行った。

 オリディアは夕食をいっぱい食べたせいか寝る支度をしてベッドに横になるとあっという間に寝ていた。



 翌朝もみんなと一緒に朝食を取った後、エドワード様がやって来た。

 オリディアはルノス商会に行くと公証所に行きたいと言った。

 部屋には会頭もやって来てオリディアは話を始めた。

 「公証所?何する気だオリディア」

 エドワード様が尋ねる。

 「夫に離縁したいと言われましたが、まだ手続きが済んでいないのです。それに賠償金の話もありますし、でも、またあの家に行って話をするのも嫌なのです。夫は私を無理やり…」

 「オリディア?お前、暴行されたって事か?それで魔力が?」

 エドワード様の頬に鱗が現れる。竜族が竜人の血を濃く引いている。竜にはなれないが気が昂ると古の竜人の名残が現れると聞いた事がある。

 「エドワード様!落ち着いて下さい」

 「エドワード様。違うんです。夫から襲われそうになったけど、殴ってやりました。それで家を飛び出したから離縁届も書いて貰う暇も無かったんです」

 「そうか。それなら公証所で離縁申請を出せばいい。でも、賠償金なんか無くたって金には困らないぞ」

 「ええ、それはさっき聞きましたけど、私は被害者です。このまま夫の思うままに離縁するのは気持ちがおさまらないんです」

 「そうだよな。オリディアは被害者だ。確かにあいつは浮気してすんなり離縁も出来きちゃ気分が悪いな。それでどうするつもりだ?」

 「まずは離縁します。これは相手も望んでいる事なのですぐに話に応じると思います。ですが、私はただで離縁するつもりはありません。夫にはそれだけの責任を取って貰うつもりです。これまで私は頂いた商権の配当金のお金を使って先代の残した借金や領地で必要なお金を用立てて来ました。必死でやりくりをし借金を返し領地の為に働いて来たんです。でも、夫は侯爵夫人にしてやったんだからそれくらい当たり前だと本気で思っているんです。確かに今までは私もそう思って来ました。でも、夫は私に苦労や気遣いをまったく分かっていなかったとはっきり分かったんです。だから私は今までやって来た仕事は全て夫に返します。会頭、離縁が完了したらロードナート侯爵家の取引責任者はボルターです。今後の話は全て夫として下さい。あの家の今後の取引は夫がやるべき事です。だからと言って私は領地に為に使ったお金まで取り戻すつもりはないんです。ただ、このまま夫の望み通りになる事だけは嫌なんです。私はきっと三年間やって来た事をなかった事にされたくないんだと思うんです」


 「オリディア様、あなたのお気持ちはわかりました。ですが、取引の事は心配いりません。あなたがあの家から手を引かれるのです。ルノス商会としてはロードナート侯爵家との取引自体を見直す事になるでしょうな」

 会頭は当然だとばかりに涼しい顔でさらりと言った。


 「まあ、そこら辺の事は会頭に任せれば大丈夫だ。安心しろ。オリディア、今の流れだとまずは公証所に行くんだな。オリディア、万が一という事もある。俺がお前の護衛をするから安心しろ」

 エドワード様が胸を叩いた。

 「そんな、エドワード様。倒れている所を助けてもらいここに連れて来て頂いただけでも感謝してます。だからこそそこまでして頂く訳にはいきません!」

 「そんな事言うな。俺とお前の仲だろう?」

 「いえ、エドワード様とは知り合ったばかり。そのような間柄ではありません。それに今は夫におかしな誤解をされるのも癪に障りますから、どうかもう私には構わないで下さい」

 エドワード様の眉がオリディアが一言断りを言うたびに下がって行く。しゅんとなった彼は項垂れてがっくり肩を落とす。


 「オリディア様、エドワード様が仰る事も当然の事です。実際あなたも夫に襲われそうになったのでしょう?この先離縁は出来てもロードナート侯爵家が困ればきっと侯爵様は商権を取り戻そうとされるはず。話で片付かなければ力尽くと言う事も充分考えられます。ですから護衛は必要かと思います」

 会頭の話は実に説得力があった。

 「やっぱりそうですかね」

 「なっ、だから俺がお前を守る!」

 「でも、それはエドワード様で無くてもいいんじゃ…」

 「オリディア様、ここはエドワード様の顔を立ててあげて頂けると」

 「そうですか?まあ、ルノス商会にはお世話になる事ですし、では、エドワード様お願いします」

 オリディアはエドワード様にお辞儀をした。

 エドワードはバシッと立ち上がって胸をドンと叩いた。

 「ああ、何があってもオリディアは絶対に守る、安心してくれ!」

 「まあ、そこまで心配はないと思うけど、よろしくお願いしますね」

 「おお、任せろ!」

 エドワード様は超ご機嫌でオリディアの手をぎゅっと握った。

 その瞬間エドワード様は頬から耳まで真っ赤になった。



 







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