5離縁通告
夫は責任が全て自分にあると言われて慌てたらしい。
あっ、と言うふうな顔をしたかと思うと言い訳を始めた。
「いや、オリディア、何もそこまで急がなくても良いじゃないか。私も仕事もあるし、領地経営の事も色々引き継がなくてはならない。だろう?母はもう年だし、執務は君にほとんど任せていたんだ。いっそ、このままここで働くのはどうだろうか。そうすればこのままここで暮らせるし給料も払う。何しろ君なら全てを理解しているから、私も困らない。だろう?」
ボルターは見た事もないような柔らかな微笑みを浮かべオリディアを見た。
(よくも平気でそんな空々しい事を言えるわ。散々私を馬鹿にしてこき使っておきながら今度は二人の為に働け?私は奴隷じゃないわ)
きれいな言葉を並べて人の心の傷をナイフで抉るような事を平気で言うこの男を見ていられないと思っているとリリア様が反応してくれた。
「えぇぇ、そんなの嫌です。ボルター様、元の奥様と一緒に暮らすつもりですか?そんなの信じられない」
「いや、リリア、聞いてくれ。確かに君のいう通りだが、実際オリディアには領地のことを殆ど任せていて私も引き継ぎをして貰わないと困るんだ。だからしばらくの間。いや、そうだ。オリディアには領地に行ってもらって仕事をしてもらおう。なっ、それならいいだろう?」
さっきはここで働けと言い、今度は領地で働けと言っている夫。
(こいつ、殺してやりたい!あなた達の思い通りになるとでも思ってる?まさか)
もくもくと湧き上がる殺意をぐっと堪えオリディアは言った。
「リリア様ご心配なく。私はすぐに出て行きますから。ああ、心配はありません旦那様。重要な取引や支払いの事などは全て引き継ぎます。帳簿も業者の連絡先も控えがありますし、困った事は執事のダンカートがわかると思います。私もダンカートに教えて貰いましたので、という事で旦那様?リリアさんも嫌がってらっしゃる事ですし、すぐにでも出て行きますので」
オリディアはさっと立ち上がったがそれを見ていて焦ったのはボルターだった。彼は急いで立ち上がりオリディアの方に回り込んで手を取った。
「なあ、オリディア。いや、何もそんな急でなくてもいいんだ。君が家の仕事をやってくれた事は分かっている。私だって君の働きを認めている。なあ、オリディア、竜族って言うのは人の何倍も強い種族じゃないか。これくらいの事お前なら平気だろう?」
オリディアは掴まれたバシッと手を振り払うとボルターを睨みつけた。
既に充分傷ついた心に塩を塗られる気になる。
「ああ、大切な事を忘れていました。離縁についての賠償金については追って公証所を通じてやりとりを行うつもりですのでよろしくお願いしますね」
「待て、私が賠償金を払うのか?」
「当たり前です。あなただって財務局にお勤めなら分かりますよね?税金だって期日を過ぎれば超課金を払います。脱税に至っては追徴金を支払うじゃないですか。これは言わばあなたの我儘を通した一方的な理不尽。不倫に妻への離縁の申し立て。言われなくても追い出した妻にそれくらいの金払うのが普通でしょう」
「そんな。私はお前を追い出そうとは思っていない」
ボルターがそう言うと慌てたのはリリアだった。
「ボルター様、それはどう言う事ですの?私と結婚してくれるって言ったじゃない!」
リリアが甘えた声でボルターを見ると彼はリリアの手を握って言う。
「もちろんリリアと結婚する。そうだ!オリディア私が離縁を決めたのはお前が冷たくなったからだ。リリアは関係ない。だから離縁に責任はオリディアお前にある。それにこんなに頼んでいるのに仕事まで放り出すなんて、だから賠償金なんか払う義務はない!」
ボルターはまた訳のわからない自信を取り戻したかのようにオリディアを見据える。
「ボルター様、すごいです」
隣でリリアが言うとボルターはさらに胸を張った。
(めんどくさい。離縁が私のせいって…よくもまあ。こんな人達の相手なんかしてられるもんですか!とにかく早くここから出て行った方が良さそう)
「私が悪いなんて絶対に認めません。ですがとにかく離縁には同意します。後の事は公証所を通して話をしますので。では、失礼します」
オリディアは、はっきりと言った。
「そんなぁ、ねえ、ボルターはあなたはそんな事を言うような人じゃないって言ってたのよ。あなたは人に逆らえるような人じゃないって。私、あなたは素直に離縁してこの家から出て行くとばかり」
「あら、リリア様。私はあなたのお望み通り離縁するんです。侯爵夫人の座を譲るんです。だったらその責任も取って頂かなくては」
「そんな話ボルターから聞いてないわ。ちょっと竜族のくせに生意気よ。三年間侯爵夫人になれただけでも感謝するべきじゃない!」
(ついに本性を見せたわね)
「リリア様、人の夫を寝とっておいてそれはちょっと図々しいのではないですか?私だってそこまでお人好しではありませんよ。あっ、リリア様、あなたは妻がいると知った上で夫を誘惑したんです。あなたも損害賠償請求の対象になりますのでそこはお忘れ無く。覚悟しておいて下さいね」
(あの日寄り添って歩くあなた達を見れて良かったわ。あれで私の決心はついたの。おまけに離縁まで言い出してくれるなんて。とことん二人には責任を取ってもらうから覚悟して下さい)
「嘘でしょう!?ひっ、どーい!ちょっと、そんな事させないから!覚えておきなさい!」
リリアが何か叫んでいたがそんな事どうでも良かった。




