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童貞にして最強 ―穢れなき力を手にした男の黙示録―  作者: 忠犬むつ公
第一部

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第七十一話 判断

依頼票を持った男は、しばらく受付の前に立っていた。


「誰が決めるんだ?」


 緊急かどうか。


 そう聞かれた職員は、すぐには答えられなかった。


 王都から届いた追加規定には、条件が書かれている。


 生命または身体に差し迫った危険があること。


 童術を使用しなければ、その危険を回避することが著しく困難であること。


 だが、その場で誰が判断するのかまでは書かれていない。


「……基本的には、現場の状況を踏まえて判断することになります」


「だから誰が?」


「使用された場合は、帰還後に状況を報告していただきます。その内容をギルドで確認します」


「使った後に決めるのか?」


「結果的には、そうなります」


 男――レントは眉を寄せた。


 二十四歳。


 冒険者になって五年になる。


 童術を学び始めたのは一年ほど前で、第一《童駆》と第三《童衣》を使える。


 礼から基礎を学び、その後の訓練はハインから教わることが多かった。


 登録については、まだ決めていない。


 反対しているわけではない。


 バルトのように、登録しないと決めたわけでもない。


 ただ、急いで決める必要もないと思っていた。


「じゃあ、魔物が襲ってきても剣でどうにかできるなら使うなってこと?」


「原則としては」


「剣で無理だったら?」


「緊急使用として認められる可能性があります」


「可能性」


「事前にすべての状況を想定することはできませんので」


「……まあ、そうだよな」


 レントは頭を掻いた。


 職員を困らせたいわけではなかった。


「じゃあ、これ受けられる?」


 依頼票を差し出す。


「確認します」


 職員が内容を見る。


 北東街道周辺に現れた魔物の討伐。


 確認されているのは《灰牙犬》数頭。


 単体ではそれほど危険な魔物ではないが、群れになると厄介だ。


「パーティーは?」


「三人。俺入れて」


「他のお二人は?」


「普通の冒険者。魔術師一人と剣士一人」


「童術使用者はレントさんだけですね」


「ああ」


 職員は少し考えた。


「分かりました。ただし、依頼中の童術使用については先ほど説明した通りです」


「分かってる」


「必要がなければ使用しないでください」


「そのつもりだよ」


 レントは依頼票を受け取った。


「俺だって、規則破りたいわけじゃないから」


「はい」


「じゃあ行ってくる」


「お気をつけて」


 レントは片手を上げてギルドを出た。



     ◇



 北東街道へ向かったのは、その日の昼前だった。


 レント。


 剣士のオルド。


 魔術師のフェン。


 そして、ギルドから一人の職員が同行していた。


 名をユアンという。


 討伐対象の確認と、周辺被害の調査を兼ねた同行だった。


「監視じゃないですよ」


 町を出てすぐ、ユアンが言った。


「何も言ってないけど」


「顔に書いてあります」


「どんな顔だよ」


「面倒そうな顔です」


「それはいつもだ」


 オルドが横から笑う。


「こいつ朝からこんな顔だぞ」


「うるせえ」


「じゃあ問題ありませんね」


 ユアンも笑った。


 まだ若い職員だった。


 冒険者として戦うわけではないが、現場へ同行することには慣れているらしい。


 腰には護身用の短剣。


 革鎧も身につけている。


「本当に監視じゃないの?」


 レントが聞く。


「違います。最近、あの街道で荷馬車が襲われているので、被害状況の確認です」


「俺が未登録だからついてきたわけじゃない?」


「それだけのために職員を一人出せるほど、うちも暇じゃありません」


「それならいいけど」


「ただ」


 ユアンがレントを見る。


「童術を使用した場合は、私も状況を報告します」


「……やっぱ監視じゃん」


「仕事です」


「分かってるよ」


 険悪ではなかった。


 少し面倒。


 それだけだった。



     ◇



 最初の《灰牙犬》を見つけたのは、街道を外れて森へ入ってからだった。


 三頭。


 木々の間から姿を現し、低く唸っている。


「三か」


 オルドが剣を抜く。


「報告と同じだな」


 フェンが杖を構えた。


 レントも剣を抜く。


 童術は使わない。


 必要もない。


「来るぞ」


 一頭が駆けた。


 レントは正面から受ける。


 噛みつきを剣で逸らし、首筋へ斬り込む。


 横から二頭目。


「レント!」


「見えてる!」


 身体を沈める。


 爪が頭上を通った。


 そのまま剣を振り上げる。


 腹を裂いた。


 最後の一頭は、フェンの火球を受けて倒れた。


 短い戦闘だった。


「終わり?」


 レントが周囲を見る。


「たぶんな」


 オルドが剣についた血を払う。


 ユアンが倒れた魔物を確認した。


「三頭。討伐確認します」


「童術なし」


 レントが言う。


「はい」


「ちゃんと書いといて」


「使っていないものは書きませんよ」


「そうなの?」


「何を報告するんですか」


「未登録者、頑張って剣だけで倒しました」


「必要ありません」


 フェンが笑った。


「褒めてほしかったんじゃないか?」


「違うよ」


 空気は軽かった。


 そのまま周辺を調べる。


 足跡。


 糞。


 荒らされた草。


 群れがまだいる可能性があった。


「少し奥も見ます」


 ユアンが言う。


「依頼は三頭じゃないの?」


「確認されているのが三頭です。これで全部だったかを確認します」


「なるほど」


 四人は森の奥へ進んだ。



     ◇



 異変に最初に気づいたのはフェンだった。


「待って」


 全員が止まる。


「何?」


「音」


 耳を澄ます。


 枝が折れる。


 一つではない。


 右。


 左。


 後ろ。


「囲まれてる?」


 オルドが呟いた。


 唸り声が聞こえた。


 一頭。


 二頭。


 木々の間に灰色の毛が見える。


「……多くない?」


 レントが剣を構えた。


 六頭。


 いや。


 さらに奥にもいる。


「八」


 フェンが言う。


「少なくとも」


「下がりましょう」


 ユアンが言った。


「街道まで戻ります」


「走る?」


「刺激しないように」


 四人がゆっくり後退する。


 灰牙犬も距離を詰めてくる。


 一頭が飛び出した。


「来た!」


 オルドが受ける。


 戦闘が始まった。


 フェンの火球が一頭を弾く。


 レントが別の一頭を斬る。


 だが、先ほどとは数が違う。


「右!」


「分かってる!」


 一頭を防ぐ。


 その隙に別の一頭が回り込む。


「レント!」


 ユアンの声。


 レントは反射的に脚へ童力を流しかけた。


 第一《童駆》。


「使うな!」


 声に止められる。


 レントの足が止まった。


 剣を振る。


 灰牙犬を追い払う。


「まだ対応できます!」


 ユアンが叫ぶ。


「下がってください!」


「分かってる!」


 レントは走る。


 童術は使わない。


 使わなくても走れる。


 使わなくても戦える。


 まだ。


 四人は街道へ向かって後退した。


 だが灰牙犬は追ってくる。


「フェン!」


「今やってる!」


 火球。


 一頭が倒れる。


 魔術を放ったフェンの足がもつれた。


「っ!」


 地面に膝をつく。


 灰牙犬が飛びかかった。


「フェン!」


 レントが間に入る。


 剣で受ける。


 牙が刃へ噛みつく。


 押される。


 もう一頭。


 横から来る。


「レント、離れろ!」


 オルドが斬りかかる。


 間に合わない。


 レントは童力を脚へ流した。


「《童駆》!」


 地面を蹴る。


 身体が一気に前へ出た。


 フェンを抱えるようにして引きずり、牙を避ける。


「レント!」


 ユアンが叫んだ。


「緊急だろ!」


「まだ退避できます!」


「今噛まれるところだった!」


「フェンさんは無事です! そのまま下がって!」


「分かったよ!」


 レントは童駆を止めた。


 フェンを立たせる。


「走れる?」


「大丈夫」


「行け!」


 再び下がる。


 灰牙犬が追う。


 残り六頭。


 オルドが一頭を牽制する。


「街道まであと少しだ!」


 木々の向こうに明るい場所が見えた。


 そのときだった。


 奥から低い唸り声が響いた。


 今までのものより、ずっと重い。


「……何だ?」


 茂みが揺れる。


 一回り大きな灰牙犬が姿を現した。


 背中に古い傷。


 牙も長い。


「群れの頭か」


 オルドが呟く。


 そいつが走った。


 狙いはフェンだった。


「避けろ!」


 フェンが杖を向ける。


 火球。


 外れた。


 魔物は止まらない。


 レントが踏み込む。


「《童衣》!」


「レント!」


 全身に童力を巡らせる。


 魔物へ体当たりする。


 軌道が逸れた。


 フェンの横を灰牙犬が通り過ぎる。


「今だ! 走れ!」


 レントが叫ぶ。


 そのまま剣を構える。


 だが、ユアンが腕を掴んだ。


「退避してください!」


「離せ!」


「これ以上の使用は――」


「来てる!」


 灰牙犬が向きを変えた。


 レントは腕を振りほどこうとした。


「離せって!」


「街道へ!」


「だから来てるだろ!」


 互いに引いた。


 ほんの一瞬。


 ユアンの足が木の根に引っかかった。


「あ――」


 身体が傾く。


 レントの腕を掴んだまま倒れた。


 後頭部ではなく、肩から地面へ落ちる。


「ぐっ……!」


「ユアン!」


 灰牙犬が迫る。


 レントは迷わなかった。


 第三を維持したまま、地面を蹴る。


 第二。


 拳へ童力を集中させる。


「《童撃》!」


 拳が灰牙犬の顎を捉えた。


 鈍い音がした。


 大きな身体が横へ飛ぶ。


 木へぶつかり、地面へ落ちた。


「走れ!」


 オルドがユアンを起こす。


「立てるか!」


「……肩が」


「俺が支える!」


 四人は街道へ走った。


 灰牙犬は追ってこなかった。



     ◇



 ローデンへ戻ったころには、空が暗くなり始めていた。


 ユアンの肩は腫れていた。


 ギルド付きの治療師が確認する。


「骨は大丈夫そうです。ただ、しばらく腕を上げないでください」


「分かりました」


 ユアンが顔をしかめながら答える。


 その横で、レントは黙っていた。


 オルドとフェンも残っている。


 ヴァルターが報告書を机に置いた。


「最初から確認します」


 声はいつもと変わらなかった。


「討伐対象は当初三頭と認識していた」


「はい」


 ユアンが答える。


「三頭を討伐後、追加個体の確認のため森の奥へ進んだ」


「はい」


「そこで八頭以上の群れと遭遇」


「はい」


「退避中、レントさんが第一童式を使用した」


「フェンが襲われたからです」


 レントが言う。


「聞いています」


 ヴァルターは続ける。


「その後、第三童式を使用」


「それもフェンが狙われたから」


「はい」


「最後に第二童式を使用」


「ユアンが倒れたから」


「……はい」


 ヴァルターがペンを置いた。


「ユアンさん」


「はい」


「あなたはレントさんへ、童術を使用しないよう制止した?」


「しました」


「なぜですか」


 ユアンは少し考えた。


「最初は、まだ通常の手段で退避できると思ったからです」


「第一童式を使用した時点でも?」


「……あのときは」


 フェンが口を開いた。


「俺が転んだ」


 全員が見る。


「レントが引っ張ってくれなかったら、噛まれてたと思う」


「フェンさん」


「事実だろ」


 ユアンは黙った。


「第三は?」


 ヴァルターが聞く。


「大型個体がフェンさんへ向かったためです」


「緊急使用として認められると思いますか?」


「……今考えれば」


 ユアンは負傷していない方の手で、膝を握った。


「はい」


「では、なぜ止めた?」


「判断できなかったんです」


 声が小さくなる。


「その場で」


 誰も口を挟まなかった。


「規則には、必要な範囲でと書いてある。でも、どこからが必要なのか分からなかった。俺が同行している以上、勝手に使わせていいのかも分からなかった」


 レントがユアンを見る。


「だから俺を掴んだ?」


「はい」


「そのせいで転んだ」


「……はい」


「俺が振りほどいたからだろ」


「それもあります」


 レントは頭を掻いた。


「じゃあ、どっちが悪いんだよ」


 答える者はいなかった。


 ヴァルターもすぐには答えなかった。


「第二童式については?」


 やがて聞く。


 ユアンが顔を上げる。


「俺を助けるためです」


「使用しなければ?」


「噛まれていたと思います」


「分かりました」


 ヴァルターは記録する。


 レントが椅子に座り直した。


「俺、処分されます?」


「まだ分かりません」


「またそれか」


「申し訳ありません」


「いや」


 レントは首を振る。


「ヴァルターさんが決めてないのは分かってます」


 少し間を置く。


「でも、次も同じことあったら使いますよ」


 ヴァルターのペンが止まる。


「人が噛まれそうになって、使えば助けられるなら」


「……はい」


「俺、待てないです。その場で王都に聞くとか無理だし」


「当然です」


「じゃあどうすればいいんです?」


 ヴァルターは答えられなかった。



     ◇



 礼とリオが話を聞いたのは、その翌日だった。


「職員が怪我した?」


 礼が聞く。


「肩を痛めただけです。骨折はありません」


 ヴァルターが答える。


「童撃で?」


「違います」


「え?」


「転倒です」


 礼は少しだけ目を見開いた。


「レントが攻撃したわけじゃない?」


「違います」


「じゃあなんで……」


 ヴァルターは昨日の状況を説明した。


 制止。


 腕を掴む。


 振りほどこうとする。


 足を取られる。


 転倒。


 その直後、レントが第二《童撃》で魔物を退けた。


 リオが腕を組んだ。


「それ、レントが悪いんですか?」


「私はそう言っていません」


「ユアンさんが悪い?」


「それも言っていません」


「じゃあ」


「判断できなかったんです」


 ヴァルターは言った。


「二人とも」


 礼は黙る。


「ユアンは、規則を守らせる必要があると思った。レントは、仲間を守るために使う必要があると思った」


「どっちも間違ってない?」


「少なくとも、私は簡単にどちらかだけを責めることはできません」


 リオが小さく息を吐いた。


「王都には?」


「報告します」


 礼が顔を上げる。


「どう書くんですか?」


「起きたことを、そのまま」


 ヴァルターは机の上に置いていた報告書を二人へ見せた。


『未登録童術使用者による緊急使用事例』


 その下に経緯が細かく書かれている。


 対象となる魔物。


 退避状況。


 第一、第三、第二の使用。


 職員による制止。


 接触。


 転倒。


 負傷。


 そして。


『職員一名負傷』


 礼の目が止まった。


「……これ」


「事実です」


「でも童術で怪我したわけじゃない」


「そのことも書いています」


「ちゃんと?」


「はい」


 ヴァルターが該当箇所を指す。


『負傷は童術による直接的なものではなく、使用者を制止する過程で生じた転倒によるもの』


 礼は少し安心した。


「なら……」


 その隣で、リオはまだ報告書を見ていた。


「ヴァルターさん」


「はい」


「これ、誰が読むんですか?」


「王都中央ギルド。制度策定に関係する部署にも共有されるでしょう」


「全部?」


「この報告書がそのまま共有されるなら」


「そのままじゃなかったら?」


 ヴァルターがリオを見る。


「どういう意味ですか?」


「いや」


 リオは首を振った。


「なんでもないです」


 礼がリオを見る。


「何?」


「別に」


 リオは報告書を机へ戻した。


「ちゃんと書いてあるなら、大丈夫だろ」


 そう言って、少し笑った。



      ◇



 報告書は、その日の午後にローデンを出た。


 数日後。


 王都中央ギルドへ届いたそれは、制度運用に関わるいくつかの部署へ写しが回された。


 その中には、王国魔術院も含まれていた。


 魔術師の登録を扱う部署ではない。


 新たに確認された術式、既存の魔法体系に属さない現象、危険性の判明していない魔道具や技術。


 そうしたものを調査する部門だった。



 窓の少ない部屋で、一人の男が報告書を読んでいた。


 机の上には、ローデンから届いたものとは別に、何枚もの紙が広げられている。


『未登録童術使用者による緊急使用事例』


 男は最初から最後まで目を通した。


 依頼中、想定を上回る数の魔物と遭遇。


 同行者に危険が迫ったため、第一童式を使用。


 その後、第三童式。


 さらに第二童式。


 現場職員が使用を制止。


 使用者との接触時に転倒し、肩を負傷。


 童術による直接的な負傷ではない。


 使用はいずれも同行者の安全確保を目的としたもの。


 男の指が、一つの記述で止まった。


『本人は聴取に対し、同様の状況下では再び童術を使用する意思を示した』


「…………」


 しばらく、その一文を見る。


 やがて別の紙を引き寄せた。


 古い紙だった。


 端に折れた跡がある。


 そこには、人の名前が並んでいた。


 二十二人。


 男の指が、その中の一つを探す。


『レント』


 見つける。


 その横には、いくつかの記録が残されていた。


 習得状況。


 訓練経過。


 指導者。


 男はローデンから届いた報告書と、その古い記録を見比べた。


「第二まで」


 小さく呟く。


 別の紙へ目を移す。


『マルク――基礎循環訓練開始』


『指導者――ハイン』


 男は椅子へ深く座った。


 机の向かいに立っていた灰色の外套の男が聞く。


「問題が?」


「いいえ」


 男は報告書を置いた。


「確認できただけです」


「何をでしょう」


「止まっていない」


 灰色の外套の男は黙っている。


「如月礼だけではない。すでに使用者同士で教授が始まっている。新規の指導を止めても、既存の使用者から別の者へ伝わる」


 男は二十二人の名前を見る。


「そして、規則によって使用を制限しても」


 指先で、レントの名を押さえた。


「必要だと本人が判断すれば使う」


「今回の使用は、人命救助を目的としたものだったとあります」


「そうですね」


「では、危険性を示す事例とは言い切れないのでは?」


 男は否定しなかった。


「今回の判断は、正しかったのでしょう」


 報告書には、死者はいないとある。


 レントが童術を使わなければ負傷者が増えていた可能性もある。


「問題は、彼が正しかったことではありません」


 男は言った。


「次も正しいと、誰が保証するのです?」


 灰色の外套の男は答えなかった。


「制度は、正しい人間だけが使うことを前提にはできない」


 男は新しい紙を取り出した。


 上部に記す。


『特異術式調査報告――童術』


 ペンを走らせる。


『未登録童術使用者は、ギルド職員による制止後も複数回にわたり童術を行使した』


 事実だった。


『制止の過程において、ギルド職員一名が負傷した』


 これも事実だった。


『当該使用者は聴取に対し、同様の状況下では今後も童術を使用する意思を明言している』


 それも、報告書に書かれている。


 さらに続ける。


『現在確認されている童術使用者は二十二名』


『既に発見者である如月礼を介さない使用者間の教授事例が確認されている』


 ペン先が一度止まった。


 そして、最後に書き加える。


『以上より、現行の登録制度および使用制限のみでは、童術の拡散ならびに使用を十分に管理できない可能性が高い』


 男は書き終えた紙を読み返した。


 灰色の外套の男が、それを見る。


「中央ギルドへ?」


「制度検討会議へ回してください」


「分かりました」


 男が紙を受け取る。


 扉へ向かう途中で、足を止めた。


「一つ、よろしいでしょうか」


「何です?」


「ローデンのギルド長が作成した名簿と、こちらの記録では、一部の指導者情報が異なっています」


「いつの記録と比べました?」


「三か月前のものです」


「なら、不思議ではありません」


「更新しますか?」


「ええ」


 男は机の上に残った古い紙へ目を落とした。


 グレイグの筆跡が残っている。


「誰が誰に教えているのか。そこは特に」


「承知しました」


 扉が閉まった。


 一人になった部屋で、男はもう一度、二十二人の名簿を見る。


 その一番上にある名前。


 如月礼。


 男はしばらくその名を見つめたあと、名簿を閉じた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひ評価や感想をいただけると嬉しいです!

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これからも『童貞にして最強』をよろしくお願いいたします!

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