第六十五話 王都
ローデンから王都までは、早馬を乗り継いでも数日を要する。
街道を行き交う商人や冒険者にとって、それは決して短い距離ではない。
だが、紙に記された情報にとっては違った。
ローデンのギルド長、ヴァルター・クロイツの署名が入った報告書は、いくつかの中継地を経て王都へ運ばれた。
封を切られたのは、王都中央ギルドの一室だった。
窓の大きな、長方形の部屋。
中央には十人以上が座れる長机があり、その上には同じ内容を写した資料が並べられている。
集まった者たちの服装は統一されていなかった。
中央ギルドの職員。
王都で魔法に関する研究を行う者。
冒険者管理を担当する者。
そして、王国の軍務に関わる者もいる。
彼ら全員の前に、一つの言葉が置かれていた。
――童術。
「では、始めましょう」
長机の上座に座る男が言った。
「ローデンより、童術に関する追加報告が届いています。今回はクロイツ氏より、現在確認されている術式について、使用者側の了承を得た範囲で回答がありました」
一人の男が資料をめくった。
「使用者側というのは、如月礼か?」
「如月礼、およびリオ。この二名と協議したと記載されています」
「全二十二名ではない?」
「術式そのものについて最も把握している二名、ということでしょう」
別の男が口を開く。
「まず確認したい。二十二名という数字に変化は?」
「現時点ではありません。新規指導については、引き続きローデン側で停止されています」
「停止ではない。保留だ」
「同じことでは?」
「違う。停止命令を受けているわけではない」
短いやり取りのあと、上座の男が手を上げた。
「そこは後ほど。まずは術式そのものを確認しましょう」
紙の擦れる音が重なる。
「第一童式。《童駆》」
読み上げる声に合わせ、何人かが資料へ目を落とした。
「脚部を中心とした身体加速。使用者自身の移動能力を向上させる。戦闘だけでなく、救助や緊急時の移動にも使用例あり」
魔術研究者らしい老人が顎に手を当てる。
「身体強化魔法に近いな」
「結果だけを見れば、そうでしょう」
隣に座る若い研究者が答えた。
「ただし、報告上では魔力とは異なる力を使用するとされています」
「童力、だったか」
「はい」
「魔力との同時使用は?」
「情報がありません」
老人は少し不満そうな顔をしたが、それ以上は言わなかった。
「第二童式。《童撃》。四肢の一部へ童力を集中させ、打撃能力を強化する」
「これも身体強化の派生に見える」
「局所強化と考えればな」
「対人使用は?」
「危険性あり。最大出力での対人訓練は禁止しているそうです」
「禁止?」
「使用者側が自主的に設けている安全基準です」
何人かが顔を上げた。
「誰が決めた?」
「如月礼とリオを中心とした、童術使用者側です」
「なるほど」
短い言葉とともに、何かを書き留める者がいた。
「第三童式。《童衣》。童力を全身へ循環させることで、身体能力、防御能力、反応能力を向上させる」
「先日の事故報告にあったものか?」
「そうです。荷崩れから作業員を守るために使用されています。使用者はマルク」
「怪我は?」
「軽度の筋肉痛のみ」
「童術によるものか、単に木材を受け止めた結果なのかは?」
「不明です」
そこで、小さな笑いが起きた。
「それはさすがに後者ではないか?」
「推測を報告書へ書くわけにもいかないでしょう」
「真面目だな、クロイツは」
「昔からそういう男だ」
少しだけ部屋の空気が緩む。
「第四童式。《童閃》。武器へ童力を付与し、攻撃能力および耐久性を向上させる。剣だけでなく、弓矢での使用も確認」
軍務側の男が初めて口を開いた。
「武器強化か」
「はい」
「魔法による付与との違いは?」
「原理が異なるとしか」
「その原理を聞いている」
「ローデン側は指導方法、童力操作法について回答していません」
軍務の男が資料から顔を上げた。
「回答を拒否したのか?」
「クロイツ氏の判断です」
上座の男が別紙を確認する。
「『能力の概要および危険性については制度設計上必要と認める。一方、当該技術を再現可能とする具体的操作法、訓練法、指導法については現段階で提出の必要性を認めない』」
「ずいぶん使用者側に配慮する」
「彼の仕事はローデンを安定させることです。中央を喜ばせることではない」
「それで管理ができるのか?」
「だから今、それを決めるために集まっているのでしょう」
また、部屋が静かになった。
上座の男が次の項目へ指を滑らせる。
「第五童式」
資料を読み上げていた職員が、一瞬だけ言葉を止めた。
「《童貞破》」
何人かの視線が上がった。
しかし、誰も名前には触れなかった。
「童力を圧縮し、外部へ一気に放出する攻撃型童術。高威力。対人使用には重大な危険性あり」
「高威力とは?」
軍務の男が聞く。
「以上です」
「以上?」
「はい」
「具体的な威力は」
「記載されていません」
「実績は?」
「記載されていません」
「射程は?」
「記載されていません」
「破壊範囲は?」
「同じです」
軍務の男の眉間に皺が寄った。
「何も分からないではないか」
「最大出力に関する質問は、クロイツ氏が回答不要と判断しています」
「なぜだ」
「能力の概要を説明することと、最大戦闘能力を開示することは別だと」
今度は、誰もすぐには話さなかった。
先ほどまで興味深そうに資料を眺めていた研究者の老人も、第五の項目を見つめている。
「……妙だな」
老人が呟いた。
「何がです?」
「わざわざ『重大な危険性あり』と認めている」
「はい」
「それでいて、最大出力は伏せた」
老人は指先で紙を叩いた。
「弱いから書かなかったとは思えんな」
軍務の男も黙っている。
「この第五は、誰が使える?」
「如月礼だけではありません」
職員が答えた。
「体系化された童式です」
「習得者は?」
「正確な人数については、今回の回答にありません」
「では、二十二名全員が習得可能なのか?」
「可能性としては」
「……可能性か」
軍務の男は背もたれへ身体を預けた。
「一人の強力な魔術師がいる、という話ではないのだな」
「最初からそうでしょう」
若い研究者が言った。
「この件で注目すべきなのは、如月礼の強さではありません」
「では?」
「伝わることです」
男は第一から第五まで並ぶ文字を指でなぞった。
「如月礼が発見した。リオへ教えた。そこから人数が増えた。現在ではハインという使用者が、マルクへ第三童式を指導している」
「如月礼を介さずに」
「はい」
若い研究者は資料から顔を上げた。
「これは個人の特異能力ではない。少なくとも、彼らは技術として扱い始めています」
その言葉に、何人かが新しい紙へ何かを書き始めた。
「第六童式。《童癒》」
話が進む。
「治療型童術。止血、疼痛軽減、自然治癒の促進などが確認されている」
老人が身を乗り出した。
「治療?」
「はい」
「魔力を使用せずに?」
「正確には、童力を使用する、と」
「傷だけか?」
「現時点で確認されているのは主に外傷です」
「病は?」
「不明」
「毒物」
「不明」
「欠損再生」
「不明」
「臓器損傷」
「不明です」
「不明ばかりだな」
「如月礼本人から、『できないのではなく、まだ分からない』と訂正を求められたそうです」
老人が眉を上げた。
「……ほう」
「何か?」
「いや」
老人は少しだけ口元を緩めた。
「研究者らしいと思ってな」
軍務の男が横を見る。
「笑うところか?」
「少なくとも、分からないことをできるともできないとも断言する人間よりは信用できる」
「それは同意する」
老人は第六の項目をもう一度読む。
「これだけでも研究する価値はある。既存の治癒魔法とは異なる経路で人体へ干渉しているのであれば、医療そのものが変わる可能性がある」
「だから危険性を無視しろと?」
「誰がそんなことを言った」
「第五を見たあとで、第六だけを都合よく評価することはできん」
「第五があるから第六を捨てるのも同じだろう」
「捨てろとは言っていない。把握しろと言っている」
「なら最初からそう言え」
老人と軍務の男が睨み合う。
上座の男が小さく咳払いした。
「続けます」
部屋が再び静かになる。
「体系化されている童式は、以上六つ」
資料がめくられた。
「そして、もう一件」
「まだあるのか?」
「正式な童式ではありません」
読み上げる職員自身も、わずかに戸惑っていた。
「ローデン側では現在、未体系現象として記録されています」
老人が紙へ目を落とす。
「名称は?」
「ありません」
「効果は?」
職員は資料を見た。
「武器形成」
誰かが紙をめくる音がした。
それきり、しばらく音が消えた。
「……武器形成?」
老人が聞き返した。
「はい」
「第四の誤記ではないのか」
「違います」
「武器を強化するのではなく?」
「何もない場所から、武器そのものを形成すると報告されています」
老人の表情が変わった。
「待て」
資料を手元へ引き寄せる。
「召喚では?」
「不明」
「どこかに存在する武器を転移させている可能性は」
「不明です」
「形成されたものは実体なのか?」
「重量あり。接触可能。武器として使用可能。その後、消失」
「材料は?」
「使用していないとのことです」
「魔力は?」
「ほぼ使用していない、あるいは確認できない」
「……そんな馬鹿な」
老人が初めて椅子から背を離した。
先ほどまで第五を警戒していた軍務の男は、別のところを見ていた。
「形成できるのは、剣だけか?」
「現在確認されているのは剣のみです」
「一本?」
「一度に一本」
「他の武器は?」
「成功例なし」
「できないのか?」
「そこまでは記載されていません」
「複数形成は?」
「確認されていません」
「不可能なのか?」
「分かりません」
軍務の男は黙った。
指先で机を一度叩く。
「……つまり」
ゆっくりと口を開く。
「分かっているのは、今のところ一本の剣を作った。それだけか」
「そうなります」
「だが、剣しか作れないという根拠はない」
「ありません」
「一本しか作れないという根拠も」
「ありません」
老人が軍務の男を見る。
「何を考えている?」
「単純な話だ」
男は資料を置いた。
「武器を所持している人間なら、武器を取り上げればいい」
誰も口を挟まなかった。
「町へ入るときに預けさせることもできる。王城なら持ち込みを禁じる。拘束する必要があれば、武装解除する」
指が資料の一行を叩いた。
『未体系現象――武器形成』
「だが、何もないところから作れるなら、その前提が崩れる」
「現在は剣一本だ」
老人が言う。
「分かっている」
「ならば、まだ脅威と決めるには早い」
「脅威だとは言っていない」
「顔がそう言っている」
「私は軍人だ。武器を見て危険性を考えない方がおかしい」
軍務の男は腕を組んだ。
「問題は、これがどこまで発展するかだ」
若い研究者が口を開く。
「そして、現時点では如月礼にしか確認されていない」
「そうだ」
「では、先ほどの第五とは違う。まだ伝播可能な技術ですらない」
「今はな」
その一言で、再び部屋が静かになった。
今は。
第一も、最初は如月礼だけだった。
第二も。
第三も。
それが今は、二十二人へ広がっている。
「……この男は、何者なんだ」
誰かが呟いた。
答えはなかった。
資料に書かれているのは、名前だけだった。
如月礼。
二十一歳。
冒険者。
童術の発見者。
そして、その力を他者へ教えた者。
「如月礼本人について、王都で話を聞くべきでは?」
別の職員が言った。
「召喚するのか?」
「召喚という言葉は強すぎる。まずは要請でしょう」
「応じなければ?」
「その話をする段階ではない」
「だが、いずれは必要になる」
老人が鼻を鳴らした。
「若者一人を王都へ呼びつけて囲めば、素直に研究成果を全部話すとでも?」
「研究成果ではない。危険性の確認だ」
「同じことだ。相手からすればな」
「では放置するのか?」
「放置と対話の区別もつかんのか」
また声が重なり始める。
「そもそも登録制度そのものを急ぎすぎでは?」
「二十二人まで増えている」
「まだ二十二人だ」
「半年後もそうだと誰が保証する?」
「だからといって締め付ければ、表から消えるぞ」
「登録が締め付けなのか?」
「内容によると言っている」
「最低限、誰が使用できるかは把握すべきだ」
「それはすでに――」
「静かに」
上座の男の声で、議論が止まった。
しばらく沈黙したあと、男は手元の資料を閉じた。
「本日、結論を出す必要はありません」
軍務の男が何か言おうとしたが、上座の男は続けた。
「しかし、何も決めないという選択もできないでしょう」
机の上に置かれた資料を見る。
「童術はすでに一人の能力ではない。体系化され、教授され、増加している。既存の魔法と類似する現象を持ちながら、その原理は異なる。そして第五のような高威力の攻撃術、第六の治療術、さらには未体系ながら武器形成まで確認されている」
誰も異論を挟まなかった。
「まず、登録制度案を具体化します」
紙へペンを走らせる者がいる。
「氏名、年齢、所属」
一つずつ挙げていく。
「習得している童式」
老人が顔を上げる。
「それは必要か?」
「検討項目です。決定ではありません」
「続けてくれ」
「指導者」
若い研究者の手が止まった。
「指導者?」
「誰から童術を学んだか、です」
「なぜ必要なんだ」
「広がり方を把握するためです」
室内の空気が、ほんの少し変わった。
「習得時期。実戦での使用歴。新たな人物へ指導を行っているか否か」
「待て」
老人が口を挟んだ。
「それは使用者の登録ではなく、伝播経路の調査ではないか」
「だから検討項目です」
「言い換えても同じだ」
「技術が人から人へ伝わる以上、誰が教えることのできる人物なのかを把握する必要はある」
「必要かどうかを、今まさに議論しているんだろう」
「ええ」
上座の男は老人を見た。
「ですから、ローデンへは案として送ります。クロイツ氏にも意見を求める」
「強制は?」
「現時点では考えていません」
軍務の男が聞いた。
「現時点では?」
「制度すら完成していない段階で、強制も何もないでしょう」
男は資料を閉じた。
「如月礼への王都での聞き取りについても、まずは任意の要請として検討します」
「本人が拒否した場合は?」
短い沈黙。
「そのとき、改めて考えます」
それ以上の答えはなかった。
会議が終わっても、資料は消えなかった。
複写された報告書の一部は中央ギルドに残され、別の一部は関係部署へ回された。
魔術研究を担当する部署にも、そのうちの一部が届いた。
午後。
王都の魔術師たちが利用する資料室で、一人の青年が机に向かっていた。
積み上げた本の横には、書きかけの術式。
インクの付いた指先。
細い眼鏡の奥で、青年は古い魔法陣の写本と睨み合っていた。
「セイル」
後ろから声をかけられる。
「はい?」
「面白そうなのが来たぞ」
「また古代術式ですか?」
「いや。新しい方だ」
「新しい?」
振り返ったセイルへ、数枚の紙が渡された。
「ローデンで確認されている新体系だ。まだ外には出すなよ」
「新体系……?」
セイルは資料を受け取った。
最初のページ。
『童術』
「……どうじゅつ?」
聞いたことがない。
ページをめくる。
童力。
既存の魔力とは異なるとされる力。
複数の使用者。
体系化された六つの基礎術式。
「へえ……」
眼鏡を押し上げる。
最初は純粋な興味だった。
新しい魔法。
いや、資料上では魔法とは異なるとされている。
そんなものが本当に存在するなら、魔法使いとして興味を持たない方が難しい。
さらに読み進める。
そして、ある名前で指が止まった。
『発見者――如月礼』
「…………」
セイルは瞬きをした。
もう一度読む。
『如月礼』
「……礼?」
小さく声が漏れた。
同じ名前。
偶然かと思った。
だが、その下に書かれた年齢を見て、偶然とは思えなくなった。
さらにローデン。
冒険者。
魔力適性は極めて低い。
「……お前かよ」
椅子の背へ身体を預けた。
しばらく天井を見る。
記憶の中にいる礼は、もっと幼かった。
細い身体。
ろくに剣も振れなかった。
文字すら読めなかった少年。
それでも、知りたいと言った。
だから本を渡した。
初級魔術理論。
本当に初歩の初歩だった。
魔力とは何か。
どう流れるのか。
初歩的な術式がどう組まれるのか。
そんなことしか書かれていない本だった。
「……何してるんだ、お前」
セイルは資料へ戻った。
第一童式。
「身体加速……」
第二。
「打撃強化」
第三。
「全身循環……」
第四。
「武器強化か」
読み進めるほど、表情が変わっていく。
既存魔法に似た結果を生み出している。
だが、魔力を使わない。
魔法陣もない。
詠唱についての記載もない。
「どうやって……」
疑問が次々に浮かぶ。
そして第五。
『第五童式《童貞破》』
「…………」
セイルは黙った。
一度、資料から顔を上げる。
誰も自分を見ていない。
もう一度読む。
『第五童式《童貞破》』
「……礼」
眼鏡を外した。
目元を押さえる。
「お前、何を研究してたんだ……」
思わず漏れた声に、近くの机にいた魔術師が振り返った。
「何か言ったか?」
「いえ。何でもないです」
眼鏡をかけ直す。
名前だけなら、笑えた。
だが、その下にある説明を読んで、セイルの表情から笑いが消えた。
『高威力の放出型童術』
『対人使用には重大な危険性あり』
『最大出力――非開示』
「……最大出力を伏せた?」
理由を考える。
弱いからではないだろう。
礼は、そういう誤魔化し方をする人間ではなかった。
少なくとも、自分が知っている礼は。
「どれくらい強くなったんだよ……」
次へ進む。
第六《童癒》。
「治療まで?」
さらにページをめくる。
そこで、セイルの手が完全に止まった。
『未体系現象――武器形成』
「……何だこれ」
資料を顔へ近づける。
『何もない空間から実体を伴う剣を形成』
『重量あり』
『使用可能』
『一定時間経過後、消失』
『形成時の魔力消費――極少、あるいは確認できず』
『現時点での確認使用者――如月礼』
「召喚……?」
すぐに首を振る。
「いや。だったら召喚元があるはずだ」
転移。
違う。
物質変換。
材料がない。
魔力による疑似物質形成。
それなら大量の魔力が必要になる。
資料には、どれも当てはまらないと書かれている。
「……何だよ、これ」
今度の声には、笑いが混じっていた。
セイルは紙を机へ置いた。
椅子に深く座り直す。
しばらく資料を見ていた。
やがて、笑みが消える。
童術使用者の正式登録。
王都への聞き取り要請。
新規教授への対応。
そんな言葉も、資料の後半には並んでいた。
「……礼」
窓の外へ目を向ける。
王都の建物が並んでいる。
そのずっと先。
ここからでは見えないほど遠くに、ローデンがある。
あのとき。
自分たちは礼を置いていった。
事情があった。
他に方法がなかった。
何度そう考えても、その事実だけは変わらない。
再会したとき、礼は生きていた。
怒鳴りもしなかった。
許したとも言わなかった。
ただ、生きていた。
その礼が今、また自分たちの知らないところで、大きなものの中心にいる。
今度は魔物でも、遺跡でもない。
王都が動き始めている。
「大丈夫かな……」
小さく呟いた。
会いに行くべきか。
そんな考えが一瞬浮かぶ。
けれど、すぐに答えは出なかった。
セイルはもう一度、資料を手に取った。
第一から読む。
第二。
第三。
第四。
第五で少しだけ眉を寄せる。
第六で指が止まる。
そして最後。
『未体系現象――武器形成』
しばらく、その文字を見つめた。
「…………」
礼のことは心配だった。
王都がどう動くのかも気になる。
童術がこれから何を引き起こすのかも、まだ分からない。
それでも。
魔法使いとして。
あの日、初級魔術の本を一冊渡した人間として。
目の前にある未知を見て、何も感じないことなどできなかった。
セイルの口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……でも」
もう一度、『武器形成』の文字を見る。
「これは、面白いな」
窓から差し込む午後の光の中で、セイルは最初のページへ戻った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
少しでも「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、ぜひ評価や感想をいただけると嬉しいです!
皆様からの評価や感想は、今後の執筆活動の大きな励みになります。
これからも『童貞にして最強』をよろしくお願いいたします!




