第六歩 日記帳
「今日はロッカは定休日だから仕事は仕込みだけ。ひまりとリオネルは休みね」
「え、何か手伝います」
「今日はいーの。リオネルと通りのお店でもみて来たら?」
そう言われても何をすれば良いかわかんないや。手持ち無沙汰になったわたしは朝ごはんの食器を洗いながら、同じように隣で暇してるリオネルに聞いた。
「サリュー以外にもサマセット領の土地ってあるの?」
「隣の森でしょ、その奥の田舎町でしょ、他にもたくさんあるらしいけど、俺サリューから出たことないからわかんねぇや」
「そうなんだ」
「……ひまりのいたとこってどんな感じなの?やっぱ変な場所?」
「普通だよ。ここより人がたくさんで、みんないっつもすごい忙しそう。夜でも明るくて、変な乗り物があってそれに乗って仕事に行くの。」
「やっぱ変じゃん」
「うん、変なところかもね」
「ほら!2人とも、せっかくの休みなんだから食器なんて洗ってないで遊んできな」
「「はーい」」
初めての休日は何だかくすぐったかった。
せっかく給料ももらったし、今日は通貨の価値をちゃんと知りたくて、リオネルに連れられて通りのお店をいろいろ見て回ることにしたんだ。だけど、思っていたよりもずっとたくさんの人に声をかけられてびっくりした。
「ひまりちゃん、いつもありがとね。うちは家内が死んじまってからご飯作れるもんがいなくてね、「ロッカ」がないと食い倒れちまうんだよ。」
「ひまりちゃん、うちの店寄ってきな。安くするよ」
「ひまりねえちゃん、オレ昨日誕生日で6歳になったんだ!「ロッカ」でケーキ出してよ!」
どこに行っても、たくさんの人が話しかけてくれて。照れくさくなって、少し前を歩きながら、ガイドさんみたいにあれこれ説明してくれるリオネルを見つめた。リオネルはわたしのこと全然知らないけど、わたしもリオネルのこと知らないな。
「そういえばリオネルって何歳?学校とか行かないの?」
「は?15歳だけど。お貴族様じゃあるまいし俺が学園なんて行けるわけないじゃん。」
「そうなんだ。」
「ひまりってわけわかんねぇことよく言うよな。初めは世間知らずのお貴族様かと思ったけど、魔法知らないしそうだとは思えない。」
「……」
「まぁ、深くは聞かないけどさ。もし貴族なら、匿ってやった恩返しでなんかご馳走してくれよな。」
イヒヒって笑うリオネルを横目に歩いていると、小さな文房具屋さんを見つけた。覗き込んでみると、ツンと鼻を刺すインクの匂いがどこか懐かしい。
「ひまり、文字読めないんじゃないの?」
(うん、ここのはね)
心の中でそう答えて棚に並んだ商品を眺める。色とりどりのインク。見たことのない形のペン。それでも、インクの匂いだけはどこか懐かしかった。
ふと、目に止まった一冊の日記帳を手に取った。
「リオネル、これいくら?」
「銀貨5枚」
「少し高いな、」
「でも、ひまりの手持ちなら全然買えんじゃん。」
結局わたしは文房具店で日記帳を買って「ロッカ」に戻った。リサおばさんに良い買い物したわね、って言われて夕食をみんなで食べたあと、わたしは買った日記帳を手に2階に上がった。引き出しを開けて制服を確認する。
よかった、ちゃんとある
ここでの生活が楽しければ楽しいほど、あたたかければあたたかいほど、日本にいた時の記憶が薄れていく気がしてこわい。いつか、引き出しにしまってたはずの制服が消えてしまって、帰ることができなくなっちゃうんじゃないかって。不安な気持ちをしまうように、今日買った日記を制服の上に置いてそっと引き出しを閉めた。




