第五歩 給料袋
「いらっしゃいませー!空いてるお席にどうぞー」
「ひまりーこれ手前のテーブル持ってって」
「ロッカ」が混むのはお昼時。仕事休憩に入った傭兵の人とか、子連れの家族とか、まるでフードコートみたい。だんだん仕事に慣れてくると、笑顔で接客する余裕が出て来て、
「ひまりちゃん、ごちそうさま!またくるね」
って言ってくれる人も増えた。
「ひまりちゃん、代金ここに置いとくね、お釣りで好きなもの買ってな」
そう言って「ロッカ」を後にしたのは、あの日の串焼き屋のおじさん。ダスキンさんと言うらしい。元々アルバートさんの顔見知りらしくて、わたしのことを何かと気にかけてくれて「ロッカ」の常連さんになった。
「ダスキンのやつ、昼に自分の店抜けてくるなんて相当ひまりのこと気に入ってんなぁ」
「串焼き屋なんて趣味でやってるようなもんって言ってたものね。彼、本職は傭兵だし。」
アルバートさんとリサおばさんの会話を聞き流しつつ食器を運んでいたら、リオネルが不満げな顔をしていた。
「リオネル、何その顔」
「何でひまりはダスキンのおっちゃんに気に入られてんだよ。俺なんか剣教えてくれって言っても、お前はひょろいから無理って一生断られ続けて馬鹿にされてんのに。」
「傭兵って何するの?警察みたいなかんじ?」
「ケイサツって何。警備隊のこと?傭兵と警備隊は違うよ」
口を尖らせながらもリオネルは教えてくれる。
「警備隊は街、傭兵は森と街の境界をまもってんだぜ。俺、将来は傭兵なりたかったんだよ!かっこいいよな、剣振り回して魔獣と戦うの。まぁ、「ロッカ」も好きだけどさ。」
「じゃあ将来は「ロッカ」継ぐの?」
「知らね、父さんも母さんも元気なうちは何も考えてねぇしなぁ」
「そっか」
「ひまりは?」
「え?」
「ひまりは大人になったら何になるんだよ」
「………」
「何で黙んだよ、なんかねぇの?」
「いや、受験生だし……大学とか?」
「なにそれ、」
「…説明めんどいからいいや。」
「何だよそれ!」
「気が向いたら教えるね」
「それ一生教えてくれないやつだ」
「リオ!ひまり!暇なら皿洗ってちょうだい」
「「はーい…」」
「ロッカ」は夕方になると店じまいをする。夜は酒屋のようなところでご飯を食べる人が多いから早めに店を締めちゃうらしい。締め作業が終わったら、一階の食卓で夜ご飯を食べる。賄いを作るのはいつもアルバートさんだけど、いつかわたしもキッチンで料理させてもらえるかな?
「今日もお疲れ様、少ないけど、これお給料ね」
「いや、泊めてもらってるし、ご飯も食べさせてもらってるし、お金なんて受け取れません!」
「いーのいーの!これでなんか好きなもの買いなさい」
「……ありがとうございます。」
「はい!おやすみなさい。また明日もよろしくね。」
「おやすみなさい」
2階に戻って袋を開けると、受け取った袋には金貨1枚と銀貨が数枚入っていた。この世界の通貨はまだ覚えたてで詳しくはわからないけど、決して少ない額ではないのは確かで。わたしはもうしばらく着ていない制服の入った引き出しにその袋をそっと入れた。




