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第三十三歩 予知

は?


「何のことでしょうか?」


一瞬の戸惑いを隠して発した言葉は変ではなかっただろうか。あたかも本当に訳がわからなそうな顔を作りつつ彼の本意を探る。


「私には隠さなくても良い。誰にも言わないし取って食ったりしないぞ。転移者の司。」


「何をおっしゃっているのかわかりません。」


つれないなぁ、と言いながらユリウスは床に散らばっている本を数冊手に取った。パラパラとページをめくっては次の本を開いている。


「転移者に関する情報を探してるんだろう?」


その言葉に一瞬だけハッとする。


「これ以上は混乱を招くだけか。最後に、とっておきの情報を教えてやろう。」


ユリウスは僕の耳にそっと顔を近づけて囁く。


「今回の転移者は其方を含め8人だ。」


「は、?」


「側近の件、良い返事を期待してるぞ」


そう言うとユリウスはひらひらと手を振りながら図書室を出ていった。取り残された僕はしばらくその場から動くことができなかった。




「司殿、ユリウス様にはもう会われましたかの?」


「はい、先ほど声をかけられました。」


「やはり早いの」


「?」


「司殿が優秀だと噂が回っとるもんで、ユリウス様も一度様子を見に来たんじゃろ」


同僚が書庫に入っていき、一人になった図書室で、僕は再び本棚の整理に戻った。先ほどのユリウスとの会話が頭から離れない。


転移者が、僕を含めて八人。


他にも七人いる。その事実だけでも十分気になるが、それ以上に気になるのは、なぜユリウスがそれを僕に教えたのかということだ。側近にならないか、という話も含めて、まだ分からないことが多すぎる。


だからこそ、今はできることをするしかない。


僕の仕事は、ただ本を整理するだけではない。この図書館には毎日のように様々な人が訪れる。何かを調べたい者、必要な記録を探している者、仕事に使う資料を求める者。そういった人たちの話を聞き、目的に合った資料を探して渡す。


司書とは、思っていたよりずっと忙しい仕事だった。


とはいえ、文字を覚えてしまえば難しくない。


必要な仕事を手早く終わらせ、空いた時間で転移者に関する資料を探す。そしてついでに、見つけた本を整理する。


そんなことを繰り返していた。


「……これも違うか」


一冊の本を棚に戻す。


そのときだった。


ぐらっと上の段の本が傾き、落ちてくる。


「……え?」


ハッと顔を上げる。目の前には、本棚。

その上段から一冊の本が落ちてくる。それが顔に当たる。その瞬間目を瞑った。


「!…………」


けれど。


再び目を開くと、


本は落ちていない。


何も起きていない。


ただ、整然と並んだ本がそこにあるだけだった。


「……今のは?」


見間違いだろうか。


そう思った、その瞬間。


ガタンッ!


「!」


今度こそ、目の前の本棚から一冊の本が落ちてきた。


僕は反射的に横へ避ける。


ドサッ。


床に本が落ちる。


「…………」


さっき見えた。


今、実際に起きたことと同じ光景が。


数秒前に。


いや、ほんの一瞬だけ。


「何だったんだ……?」




「司殿、少しよろしいか!」


「……!はい。今行きます」


僕は落ちた本を拾い上げ、棚に戻す。

今は仕事が先だ。さっきのことは後で考えよう。

そう思って、その場を離れた。




呼ばれた先での仕事をあらかた終え、僕は廊下を歩いていた。

次の資料を取りに行くためだ。


角を曲がろうとした、そのとき。


角の向こうからドタドタと足音が聞こえる。

そのまま角を曲がった僕と――


「うわっ!」


ぶつかる。


「……!」


そこで僕は足を止めた。


「また……?」


今の光景。


見えた。


さっきと同じだ。


まだ人は来ていない。


角の向こうから、足音だけが聞こえる。


ドタドタと、こちらへ近づいてくる。


どうする。


避けるか?


いや。


確かめたい。


僕はそのまま歩き続けた。


そして角を曲がった瞬間。


「うわっ!」


「っ!」


ドンッ!


予想していた通り、騎士とぶつかった。


「す、すまない!」


「いえ、こちらこそ。前をよく見ていませんでした」


互いに謝りながら、僕は騎士が走り去っていく背中を見送った。


そして、しばらくその場に立ち尽くした。


偶然?


一度目は、本が落ちる直前に見えた。

二度目は、騎士とぶつかる直前に見えた。


しかも、二度とも実際に起きた。


「……未来が見える?」


口に出してみる。


馬鹿げた話だ。


そんなこと、あるはずがない。


けれど、今までの二つを説明するには、それが一番しっくりくる。



条件は?

なぜ見えた?

いつ見える?

どれくらい先の未来が見える?

自分に関係することだけなのか?

見えた未来は変えられるのか?


考えれば考えるほど、疑問が増えていく。


「確かめるしかないな、」


僕はそんな疑問を残したまま、再び歩き出した。


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