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第二十九歩 私

その日の夜、私はずっと考えていた。

メルティナさんに言われたこと。


『あなたは、なんのためにその力を使いたいのですか?』


私は、なんのために力を使いたいんだろう。悶々と考えているうちに私は眠りについた。




私の両親は、私を大切にしてくれていた。

学校で上手くいかなかった日も。

失敗して落ち込んでいる日も。


「葉月は葉月なんだから」


そう言ってくれた。


おじいちゃんも、おばあちゃんも優しかった。私のことを、みんな大切にしてくれていた。


なのに。


私は、それが少しだけ苦しかった。


何をするにも時間がかかる。

みんなが普通にできることが、私にはできない。

頑張っているつもりなのに、空回りしてしまう。

そんな自分が嫌だった。


どうして私は、こんなに要領が悪いんだろう。

どうしてもっとちゃんとできないんだろう。


何もできない私を見ても、両親は変わらず私を愛してくれていた。


嬉しかった。


それと同時に、少しだけ怖かった。


こんな私でも愛してくれるんだ。

そう思うと、どこかほっとした。



「…………」


窓から差し込む光を見て、ぼんやりと昨日のことを思い出す。


もしかしたら。


全部、夢だったんじゃないだろうか。


そう思って、私は教会へ向かった。


けれど。


「…………」


教会の扉は閉まっていた。


昨日まで、あんなにたくさんの人が並んでいたのに。


誰もいない。


静かな教会。


私は扉の前で立ち尽くした。


私は、どうやって私を証明すればいいんだろう。


治癒魔法が使える私。


聖女と呼ばれる私。


じゃあ、それがなくなったら?


私は――。


気づけば、その場にしゃがみ込んでいた。


何も考えたくなかった。


その時。


「……あれ?」


扉が開いた。


「葉月?」


「……輝くん?」


輝くんが教会の中へ入ってくる。


「今日は教会閉まってんやね」


そして、少し笑った。


「よかった」


「……よかった?」


「うん」


輝くんは私の隣に座った。


「魔法って使いすぎたら疲れるんやないの?」


「…………」


「あんなたくさんの人治療して、葉月はすごいなぁ」


「…………っ」


胸の奥が、急に熱くなった。

ぽろっと涙が落ちる。


「え?」


輝くんが慌てたように私を見る。


「俺、泣かせた?女は泣かせるなってじいちゃんに言われてるのに!」


「…違うんだ、輝くん」


涙を拭いながら、私は言った。


「昨日ね、シスターに言われたの」


「うん」


「なんのために力を使うのかって」


「…………」


「私は……私がわからない」


言葉にすると、また涙が出てきた。


「力を使わない私に、なんの価値があるの?」


「……?」


輝くんは、しばらく私を見ていた。

そして、少し考えてから口を開いた。


「治癒魔法が使えるなら、誰でもいいってこと?」


「…………」


「でも、その『誰でも』は、ここには葉月しかおらんやん」


「え……?」


「葉月だから力が使えたんやと、俺は思うけど」


胸の奥に、何かが落ちてきた気がした。


「……」


「何回もしつこい言うかもしれんけど」


輝くんが笑う。


「俺は幸運(ラッキー)やで」


「ラッキー?」


幸運(ラッキー)。能力があろうがなかろうが、大して変わらん」


「……ふふ」


思わず笑ってしまった。

なんだか、輝くんらしい。


「でも……」


輝くんが自分の胸を指差した。


「俺は俺やろ?」


「…………」


「葉月は葉月やん」


私は、ゆっくりと顔を上げた。


「そうだね」


今まで何度も聞いてきた言葉だった。

でも、今日は少しだけ違って聞こえた。


「輝くんは輝くん」


自分の胸に手を当てる。


「私は……私」


その言葉を口にした瞬間。


教会の外が、急に騒がしくなった。


「……?」


馬の蹄の音。

それに混じって、車輪が地面を擦る音が聞こえてくる。


「馬車……?」


私と輝くんは顔を見合わせた。


「メルティナさんのお客さんかな?」


立ち上がって、教会の外へ出る。

そこには、一台の馬車が止まっていた。


馬車の扉が開く。


中から降りてきたのは、私たちと同じくらいの年齢に見える女の子。


その後ろから、一人の男の子が降りてくる。

そして、さらにその後ろから。

もう少し年下に見える男の子が顔を出した。


「…………」


女の子が、私を見る。

そして――。


「あなたが聖女?」


少しだけ首を傾げる。


「いや……」


その目が、まっすぐ私を捉えた。


「転移者なんですか?」

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